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私は雪絵のバスケットに、サンドイッチと手作りのクッキーを詰めながら、最後の仕込みをした。小さな瓶に入れた無味無臭の麻痺剤――ネットで手に入れた、少量なら眠気と軽い脱力感を引き起こすだけ。
飲み物用のペットボトルに、数滴だけ垂らす。効果は飲んで30分後から。ピークは2時間。雪絵は知らない。彼女はただ、初めての恋に胸を膨らませているだけ。
「紅子、今日はありがとう!悠斗くん、ジェットコースター好きだって言ってたから、一緒に乗るんだ」
私は微笑んで頷いた。そこで私は雪絵に念を押す。
「そのジュースは特別なの……雪絵は飲んじゃダメよ?」
それまで、満面の笑みではしゃいでいた雪絵の笑顔が固まった。
「……え、そうなの?……嘘」
「……多分ね」
彼女の表情は氷のように凍りついた。悠斗が自分を裏切っていることを知ったのだ。私たちの計画はこうだ。
午後1時、遊園地に入園。
雪絵と高橋は手をつないでメリーゴーラウンドやお化け屋敷、土産店を回る。私は少し離れた場所から、二人を尾行する。雪絵のバッグに仕込んだ超小型GPSで位置をリアルタイムで把握。私のスマホには、高橋のスマートフォンをハッキングしたミラーリングアプリが入っている。彼が後輩の彼女に送るメッセージも、すべて見える。高橋はトイレに立ち寄り、後輩の彼女にメッセージを送る。
――大好きだよ。
午後3時頃、飲み物を飲ませるタイミング。
暑い日なので、自然にペットボトルを勧める。雪絵が「紅子が作ってくれたんだよ」と笑顔で渡す。高橋は警戒しない。効果が出始める午後3時半。ジェットコースターの行列に並ばせる。発作が起きやすい場所――高いところ、人ごみ、逃げ場がない場所。症状はめまい、吐き気、手足の痺れ。周囲は「熱中症かな?」と思う程度。
午後4時、クライマックス。
観覧車に乗せる。二人きりのゴンドラ。
頂点に達した頃、薬のピーク。高橋は恐怖と脱力でパニックになる。雪絵は、最初は心配そうに介抱するふり。
そして、ゆっくりと真相を告げる。
「悠斗くん……実は、私、全部知ってるよ。もう一人の彼女のこと。二股のこと」
高橋が青ざめる。弁解しようとする。
けれど、ゴンドラはゆっくり降下し始め、逃げ場はない。雪絵はバッグから小さなボイスレコーダーを取り出す。彼の告白、謝罪、土下座するような懇願――すべて録音、スマートフォンで録画。最後に、雪絵は静かに言う。
「これを、彼女に送るね。学校中に広めるね。あなたがどんなに惨めになるか、全部見てるから」
午後5時、観覧車下車後。
高橋は震えながら帰る。
その夜、私がハッキングで動画と録音、証拠写真を匿名アカウントから拡散。学校中のLINEグループに流す。彼の人生は、そこで終わる。追い詰められた彼は、転校した。けれど私は容赦無く、それらを転校先の高校のグループラインに投稿する。それは漣のように拡散され、行き場を失った彼は精神を病んだ。
……雪絵は泣かない。
帰り道、私の手を強く握りながら、ただ一言。
「紅子、ありがとう……守ってくれてありがとう」
私は姉の手を握り返した。
――裏切りは、咲く前に摘むのが一番――。
美しい花は、私たちだけで十分。遊園地の空には、夕焼けが広がっていた。白と紅の、薔薇の色のように。
#恋愛