テラーノベル
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#恋愛
#長編
秋から冬に向けて寒くなり始めた頃、編み物も順調でくさり編みのマフラーが完成した。
(うんうん、編み具合も均等でよくできている。次はカーディガンかな)
このところ冬前だからかルティへの相談や薬の依頼が殺到している。製作時間を多めにとって、薬草採取は冒険者ギルドに依頼しているらしい。この世界の冒険者ギルドは魔物や大型獣討伐専門家で、薬草採取もその一環として請け負っている。
特に森は様々な獣が住んでいるが、魔物いるので森へ気軽に行ける訳ではないと、ニコレッタさんから聞いて驚いたのは記憶に新しい。忘れていたけれどルティは、神々の次に強いとされる天竜狐族の《高魔力保持者》だ。そりゃあ魔物だって出てこないだろう。
(一緒に薬草採取の時間がなくなったのは寂しいけれど……。ルティといつも一緒だったから一人の時間が長いとなんだかソワソワする)
「くう!」
「くうう!」
大きな暖炉のある部屋でソファに座りながら、編み物をしているとモフモフの四足獣たちが私の傍で引っ付いてきた。ルティの眷族たちに名前はない。以前名前を付けてもいいか聞いたのだが、他の子たちが大勢居るので喧嘩になるから──と止められた。無念。
「モフモフ。あー、癒される」
「くぅ」
「くぅぅぅ」
私は落ち着かない気持ちを紛らせるため、素晴らしいモフモフの毛並みを撫でる。ルティは極力私の傍に居たそうだったけれど、仕事がある時はそちらを優先してもらっていた。こういう時、同世代の友人がいれば心強いし、気も紛れるのだが今のところ同世代の友人はいない。全滅だ。
(基本的に同性だとルティ狙いしかいないし。良い人を装いつつも、何かと「ルティ様の家に行ってみたい」とか「大賢者様とお茶のセッティング」とか言い出す人が多いのよね。それ以外だとルティの貴重な本、薬や研究結果を盗もうとする人たち……。異性はルティが何か手を打っているようだけれど、よく分からない)
お互いに「周りの友人関係には恵まれていない」ということがよく分かった。いっそ《片翼》同士なら良いのではないかと思ったが、《高魔力保持者》が近くにいない。そんなわけで私とルティと関わりがあるのは、図書館のマスターや、温泉都市リディスの商店街を取り仕切っているニコレッタさん、冒険者ギルド、ラッテ商会のブレットさん、リンデン商会のシリルさん、商業ギルドの職員数名ぐらいだ。全員既婚者かつ年配の方々だ。
(私たちが結婚していないから、まだ割り込む余地があるって思われているのかも? まあ、しばらくは大勢でワイワイするよりも、二人でのんびり過ごすほうが気楽だからいいかな)
前世で周囲の人間に恵まれなかったので、友人付き合いは慎重になっているのだ。そう思いながら手を動かす。
(集中できる物があってよかった。黙々と手を動かす。一つ一つ紡ぐことで形をなしていくのは、やっぱり楽しい)
「シズク」
「ひゃう?」
耳元で囁かれて変な声が漏れた。振り返るとルティ様がすぐ傍にいるではないか。しかも「可愛い」と言うと同時に、頬にキスをする。
「──っ、ルティ」
「仕事が大変で、シズクをギュッとしないと力が出ません。深刻なシズク不足なのですよ」
あの約束をした日から、ルティは恋人として接してくる。嫌じゃないし、擽ったくて、胸がぽかぽかする。お互いに好きだという気持ちは、以前よりも態度に出すようになったと思う。先ほどのキスもそうだ。
ハグの回数も増えたというか、密着具合が増えたような気がする。ルティの顔をまじまじと見ると、本当に疲れているようだったので、私から抱きついた。
「──っ」
「疲れた時に、ハグをすると癒されると……どこかの書物に書いてあった気がしたので」
「その本を書いた作者に賞賛を贈りたい気分です」
今日はミントの香りが強くて、でもルティの温もりにホッとする自分がいる。ガッシリとした体で、私はあっという間に腕の中に囚われてしまう。普段隠している狐の尾もここぞとばかりに出現して、私を包み込んでモフモフする。
(モフモフ、フワフワ最高)
「シズクからの抱擁記念に、何かお揃いの物を買うのはどうでしょうか?」
「それだと私から何かするたびに記念品が増えません? キスとかしたら」
「シズクからのキス!」
「た、例えばです!」
「そんな可能性があるだけで、期待してしまうのですが?」
耳元で囁かないで欲しい。しかしここでキスをしてしまったら思う壺で、なんだか悔しい。「お昼の準備をするので離してください」と体の良い言い訳を口にする。
「私も手伝いましょう。今日はなにを作るのですか?」
「バジルソースを使ったベーコンパスタと、昨日お肉屋さんでウインナーを貰ったでしょう。それを焼こうと思うのです。スープは朝作った卵スープがありますし」
「どれも美味しそうですね。それなら私はウインナーを焼きましょう」
「うん」
お昼の準備をしようと思って、ふとマフラーが完成したことを思い出す。いそいそとマフラーを手に持って、キッチンに向かうルティを呼び止めた。
「ルティ。これ……できたので……プレゼントです」
「──っ、本当に作って」
「はい。本格的な冬が来る前でよかったです」
手渡したマフラーをルティは慈しみ、そっと抱きしめた。喜んでもらえて嬉しい。手作りって喜んで貰える人がいるからこそ、労力と時間をかけて作ってよかったってなるのよね。
「シズクの匂いがする」
「……一度、洗濯して渡しますね」
犯罪臭の発言に思わず低い声が出しまった。ルティは一瞬で笑顔から真っ青に。
「え」
「そんな絶望的な顔をしないでください。どちらにしても洗濯はしますよ?」
「じゃあ、シズクからマフラーを掛けてくれないか?」
「じゃあ、の意味がよくわからないですが良いですよ。ちょっと屈んでください」
「ん」
少しだけ屈んだルティに、マフラーを掛けてあげた。今回は紺色と灰色のくさり編みで作ってみた。もう少し上達したら紋様をいれても良いかもしれない。少し長めに作ったけれど、うんとっても似合っている。
「はい、できました」
「ありがとう、シズク。大事にします。状態維持魔法に、物理効果無効、魔法効果無効……」
「また来年も編むので、存分に使い切ってくださいね」
「来年……。シズク」
ちょん、と鼻にキスをする。あとちょっと下だったら唇に触れていた。そう思うと体中の熱が頬に集まる。
「可愛い。……大好き、愛しているよ、シズク」
「──っ」
サラッと額にもキスしてキッチンに向かってしまった。心臓がバクバクとして固まって動けそうにない。
こんなに甘い声、キスなんて知らない。
こんなに胸が熱くて、苦しくて、心音がうるさいのも知らないわ。前世でも、こんな風に愛してくれたなら。そう欲張りな感情が浮上してしまう。
ルティは「ある天竜狐族の話」として、自分の過去の話をしてくれた。だからルティもまた身内に騙されていたことになる。集団で誤魔化して、隠蔽工作まで行った結果が天空都市の崩壊に繋がる。
ただ気になるのは「クレパルティ大国を滅ぼしたのはある意味、私ではあると思う」と意味深な発言をしていたことだ。少しずつルティは自分の事情を話してくれている。
でも私は、自分の不安をルティに話せないままだ。
「──っ」
口を開き掛けて、下唇を噛んで堪えた。
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