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#SnowMan
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星空ホールを出た三人が次に向かったのは、《フェアリー・プロムナード》。
空はまだ十分に明るい。星空に目が慣れていたせいか、外へ出た瞬間は差し込む陽射しに少しだけ目を細めた。
地図を頼りに歩いていくと、やがて道の両脇に咲く花が目立つようになってくる。最初は花壇に植えられている程度だったものが、進むにつれて数を増し、低い柵や街灯にも蔓を伸ばしていた。
その間を時折、小さな光が横切っていく。
💚「光が飛んでる……蛍?」
💙「昼間に?」
💚「でも、ふよふよしてる。テラリウム・エルシアとはまた違う感じの光だね」
もう少し進んだところで、三人は足を止めた。
花々に囲まれたアーチの向こうに、緩やかに曲がりながら続いていく小道。その入口には、羽根を広げた妖精を思わせる装飾と共に、《FAIRY PROMENADE》の文字が掲げられていた。
アーチを潜って中へ入ると、外から見えていた以上に色とりどりの花が溢れていた。けれど整然と並べられた花壇というより、自然にできた花畑の中へ細い小道を通したような景色だ。
頭上には蔓の絡んだアーチがところどころに架かり、その間を先ほどから見えていた小さな光が、風に遊ばれるようにふわふわと漂っている。
「風が妖精の調べを運ぶ散歩道、フェアリー・プロムナードへようこそ」
声をかけられて振り向くと、淡い色合いの衣装を纏った女性が立っていた。
アイボリーを基調とした柔らかな衣装には、淡い青緑の布が重ねられている。袖や裾には透けるほど薄い生地が使われており、風が吹くたび、羽根のようにふわりと揺れた。
「こちらでは、妖精たちと一緒にプロムナードを散策していただけます」
💚「妖精と?」
「はい。こちらをお持ちください」
女性が差し出したのは、手のひらに収まるほどの薄い端末だった。
端末を受け取ると、端末についているガラスの花からぽうっと光が浮き上がる。それは先ほど見た、ふよふよと浮いている蛍のような光と同じで、その光が人の形に変わる。蝶々のような四枚の透き通る羽根を羽ばたかせ、そこに浮いているのはまさに妖精だった。手のひらサイズの妖精は、ホログラムでできているのか全体的に透けていて赤紫色に淡く輝いている。
「こちらの妖精が中を案内してくれます。お願いしますね」
【お任せください! ここからはワタシ、ピアニーがご案内しますね!】
💚「よろしくお願いします」
【こちらこそよろしくお願いします! それでは、出発です! ついてきて下さいね!】
いってらっしゃいませ、とお辞儀しているキャストに会釈をし、ゲートを潜り抜けた。その瞬間、ぶわっと風が吹き荒れて視界を覆い尽くすほどの花びらが舞い上がる。太陽の光を、キラ、キラ、と反射しているそれは、よく見ると花びらではなく極薄の半透明フィルム。けれどその光景は目を奪われるほど美しい。
渡辺はその様子を見ながら、一瞬、目を眇めた。
💚「翔太?」
💙「なんか、眩しかった」
💚「太陽の光を反射してるからね。直視しない方がいいと思うよ」
💙「やべ。もう見ちゃったよ」
🖤「大丈夫?」
💙「ん、平気」
舞い上がっていた花びらが少しずつ落ち着いてくると、ピアニーがくるりと宙で一回転した。
【みなさーん! こちらですよー!】
妖精のピアニーが手招きしていて、慌ててそちらへ向かった。促されるまま先へ進むと、足元が僅かに動いていることに気付く。
💙「お? 動いてる?」
🖤「動く歩道?」
💚「みたいだね。歩く事もできるけど、止まったままゆっくり見る事もできるようになってるんだよ」
【そのとおりです! 止まったまま進むと約40分、歩いて進むと20分くらいで抜けられますよ。あとあと、途中で歩道を降りてじっくり見る事もできるので、その時はピアニーにお声がけください!】
三人はそのまま動く歩道に乗り、ピアニーに案内されながら先へと進んでいく。
道の両側には色とりどりの花が咲き、頭上を覆う蔓の隙間からは柔らかな陽射しが降り注いでいる。時折吹き抜ける風に花や葉が揺れると、それに合わせるように小さな光もふわふわと舞った。
【右手をご覧ください! こちらでは《芍薬-シャクヤク-》が綺麗に咲いていますよ!】
💚「ホントだ。すごいね、満開」
🖤「ちょっと降りる?」
💙「俺も見たいかも」
💚「ピアニー、降りてもいい?」
【もちろんです! この先に降りられるポイントがあるので、そこで降りましょう!】
数メートルほど先に、歩道から脇へ逸れる降り口が見えてくる。ピアニーが【そこです!】と教えてくれたので、三人もそこで歩道を降りた。
その先には花壇の中へ続く小径があり、歩いていくと、先ほど見えていた芍薬が一面に咲き誇る場所へと辿り着いた。
💚「近くで見るとすごいね。薔薇に似た甘い香りもする」
💙「確かに。舘の匂いっぽい」
🖤「舘さん、よく机に薔薇、置いてるからね」
【よくご存じですね! 薔薇の香りの他に、フルーツのような爽やかな香りや、少しスパイシーな香りがするものもありますよ!】
💚「ピアニーは、芍薬だよね?」
【わぁ! そのとおりです! 本当によくご存じなんですね!】
🖤「さすが阿部ちゃん」
💙「お前、エグいな」
💚「たまたま知ってただけだよ。花自体なら、翔太の方が詳しいでしょ」
💙「まあ、異能的にはな」
しばらく芍薬を眺めてから、三人は再び動く歩道へと戻った。
その先にも色とりどりの花々が続いており、ピアニーの案内に耳を傾けながら、時折気になる場所で歩道を降りては散策する。
進むにつれて花の種類も景色も少しずつ変わり、頭上を覆う蔓の隙間から差し込む陽射しや、風に揺れる葉の間を漂う小さな光を眺めながら、三人はのんびりと午後の散歩を楽しんだ。
やがて出口が近づくと、ここまで案内してくれたピアニーともお別れとなる。最後まで元気よく手を振る小さな妖精に三人も手を振り返し、フェアリー・プロムナードを後にした。
時刻はそろそろ夕方に差しかかろうとしていた。朝から歩き通しだったこともあり、途中で見つけた店で軽食と飲み物を買い、食べながら次の目的地へと向かう。
目指すのは、日輪のロゼットから見つけて後回しにしていた《ノクターン・ガーデン》。
寄り道をしながらのんびり歩いているうちに時刻は午後五時を回り、昼間とは少し違う色を帯び始めたパークの中に、やがて無数のランタンが灯る庭園が見えてきた。
ノクターン・ガーデン。
入口らしい門はなく、石畳の道がそのまま庭園の中へと続いている。三人も人の流れに混ざるようにして、その中へ足を踏み入れた。
背の低い木々や草花の間を縫うように細い小径が幾つにも分かれ、その傍には様々な形をしたランタンが吊るされている。まだ辺りを照らすほどではない淡い光は、これから訪れる夜を待っているかのようだった。
💚「ランタン、綺麗。昼に来なくて良かったね」
🖤「夕方でもう、いい感じ」
💙「いい時間だったんじゃね?」
💚「ね。夕焼けともすごく雰囲気が合ってる」
決まった順路もないようで、三人は気になる道を選びながら庭園の奥へと歩いていく。
サラサラ、と葉音が耳に届く。音楽は流れておらず、聞こえてくるのは自然が生み出す音だけ。それが、ゆったりと歩くには心地よい。
小径によって景色は少しずつ違っていた。木の枝から幾つもの小さなランタンが下がっている場所もあれば、足元の草花に紛れるように淡い光が灯っている場所もある。
時折ベンチに腰掛けて景色を眺めている人とすれ違いながら、三人も特に行き先を決めることなく、気の向くままに道を選んでいった。
そうして幾つ目かの分かれ道を曲がった時、少し先を歩いていた目黒が足を止めた。
🖤「音、ここだけさっきより大きい」
💚「え……あ、ホントだ。なんか、いろんな音が聞こえてる?」
🖤「うん。葉っぱの種類も違うのかな。自然の音楽みたい」
💙「そこで休憩してかねえ? 大分、歩いたし」
💚「そうだね」
道中にもいくつか見受けられた、白い柱に支えられた小さなガゼボへと向かって歩く。屋根は深い紺色で、ところどころに小さな光が散りばめられており、まだ明るい空の下でも星が瞬いているように見える。
周囲を囲む木々は種類が違うのか、葉の大きさも形も様々だった。風が通り抜けるたび、サラサラ、カサカサ、と少しずつ異なる葉音が重なっていく。
中に入って座ると、その音は反響しているのか様々な方向から、輪唱のように響き渡る。
💚「なんか……いいね……」
💙「わかる……歌いたくなる感じ」
💚「ふふっ。翔太の歌、合いそう」
🖤「歌う?」
💙「歌わねえよ」
背もたれに体重を預けて天井を見上げた目黒。その目に映ったものに、思わず「あ」と声を漏らした。
💚「どうしたの?」
🖤「見て。星」
💚「えっ?」
目黒が天井を指さしたので、阿部も渡辺もつられるように天井を見上げ、そこにある星空に阿部が「わぁっ」と声を出した。
💚「こんなところに星空なんて、凄いね」
💙「入んないとわかんねえじゃん」
💚「だからいいんだろうね。入った人の特別。でもホントの星じゃない。外の明かりが入るようになってて、それが星みたいに見えるんだよ。だから今は、夕方だからオレンジっぽいんじゃないかな」
💙「じゃあ、昼に来ても見れるのか」
💚「かもね」
🖤「まさかここでも星見れると思わなかった」
💚「うん。でも、ノクターンにはピッタリだね……あれ?」
💙「どうした?」
💚「あそこ。何か書いてある」
今度は阿部が天井の方を指さした。指の先にあるのはプレート。立ち上がった目黒が少し高い位置にあるプレートに近づいてみる。
🖤「夜空に届く、ひとつの想い。この蔓は、心に秘めた想いを星のもとへ運ぶといわれています。だって」
💚「蔓って……これかな?」
そのプレートの真下にある柱に巻き付いている蔓。他の柱にも巻き付いているものはあるけれど、その蔓だけは他のものと違う。
🖤「あ。ここだけ本物だ」
💚「え、違うの? 見た目じゃ分からないや」
🖤「これは俺が見慣れてるだけ。あと、なんか生命力みたいなのがあるかないか。観葉植物の見分けとかもできる」
💚「なるほどね……心に秘めた想いって、なんだろ。願い事かな」
💙「じゃね?」
💚「やってみる?」
🖤「せっかくだし」
プレートの真下にある蔓に近い目黒が、蔓に触れて目を閉じる。すると指先に小さな光が生まれて、その光が蔓を伝っていく。光はだんだん速度を上げ、最後は花火が打ち上がるように「ヒューッ」と一気に駆け上がり、天井へ到達する。
次の瞬間、周囲の生垣や葉の間から無数の光の粒が一斉に舞い上がって、ふわっとガゼボを囲み、そのまま夜空へ溶けていった。
💚「わぁっ……」
💙「なんだ、今の」
🖤「……?」
手を見つめている目黒。
💚「めめ?」
🖤「なんか、不思議な感覚」
💚「魔法みたいだったね」
🖤「阿部ちゃんもやってみて。多分、分かるから」
💚「えー、わかるかなぁ?」
言われるままに阿部が目黒と入れ替わるように蔓の方に行くと、そっと触って目を閉じた。すると先ほどと同じように光が蔓を伝って駆け上り、ガゼボ周辺のランタンの炎が、淡い青・紫・白銀などへゆっくり色を変えて、柔らかな光が辺りを包みこんだ。
💚「おお。反応、違うんだ」
🖤「しょっぴーは?」
💙「俺はいいや。なんか、もうのんびりモード」
💚「ふふっ。いっぱい楽しめたね」
💙「だな。かなり満喫した感じある」
💚「あれ綺麗だったね。さっきのフェアリー・プロムナードの、最初の花びら」
💙「あれなー」
💚「なんかさ、翔太の風花っぽかった」
🖤「確かに。風に花びらが舞うって、しょっぴーのっぽい。あの時の花びらってさ、結晶化するからキラキラしてるんだよね」
💙「俺のの方が綺麗だし」
💚「知ってる」
そう言って阿部は渡辺にニコッと笑いかける。
そよ風と、葉の音と、ホッとするような空気感に、何も話さない時間が流れていく。このまましばらくここで過ごしてもいいな、とそう思っていた時だった。
🖤「あ、あれ」
目黒が立ち上がり、ガゼボの外に出た。どうしたのかと、阿部と渡辺も後を追うように外に出ると、目黒は他より少し背の高い木の上を見つめている。
🖤「ここ、何か引っかかってる」
手を伸ばしてみるけれど、長身の目黒でも届かない。仕方なく、地面から蔓を出す。しゅるしゅると伸びた蔓は目黒の身長を追い越す手前で、途端にその動きを止めた。
🖤「……あれ?」
💚「めめ、どうしたの?」
🖤「これ以上、伸びない」
💚「えっ?」
💙「いや、いつももっと伸ばしてるだろ。事務所に窓の外から荷物運んだりしてるし」
🖤「でも、伸びない。それに、数も……一本しか出てこない」
その言葉に阿部も渡辺も眉を顰め、渡辺は自分の周囲に花びらを出現させる。
💙「……少ない。想定してた3分の1にもなんねえ」
阿部の目が緑色に輝くが、すぐに元の色に戻った。
💚「……電脳空間に入ろうとするとノイズが入る。無理やりいけなくはなさそうだけど、いつもより負荷がかかる。何か、起きてるんだ」
今まで心地よく聞こえていた葉のざわめきが一層大きくなり、混ざり合ってどこか不協和音のように心に重くのしかかるようだった。
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