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ロウの家に泊まった翌朝。
寝起きから、下腹部の重たい痛みと、腰の鈍いだるさが身体の芯を掴むみたいに続いていた。
布団をそっと動かすと、シーツに小さな赤い染み。
(……やっぱり……きちゃってる……)
ショックよりも、どうしようという気持ちの方が大きかった。
ロウは今日、昼のコラボ配信がある。準備で絶対バタバタしてる。
(言いづらい……でもナプキンも薬もない……)
考えるたび胸がぎゅっと締まった。
「おーい、起きてる? 朝メシ適当に置いとくから食っとけー」
声は、いつもと同じ軽い調子。
あなたの返事は小さくなる。
「……ありがとう……」
「ん? 聞こえねぇ。まあいいや、俺もう準備戻る!」
ロウはイヤホンを片耳に入れ、キーボードを叩く音だけが部屋に響く。
その間にも腹痛はじんわり強くなり、冷たい汗が背中を伝う。
(……言えない……言うタイミングがない……)
ベッドを離れるとき、さらに血がじわっと広がる感覚がして、膝が一瞬震えた。
それでも歩き出してしまう。ナプキンも、替えの服も探さなきゃ。
それなのに、
「ごめん、やべ。手元の資料取ってくれね?」
ロウに呼ばれるたび、近くに行かざるを得なかった。
苦しいなんて、言える空気じゃない。
昼前、ロウは配信部屋にこもり始めた。
あなたはその手伝いで部屋に呼ばれたものの、腹痛はもう呼吸にまで影響するほど。
「ここ座っとけよ。配信始まるまで音量チェックだけ頼む」
「……うん……」
座った瞬間、腰にズンと重い痛みが走り、思わず机につかまった。
「? どしたの?」
「あ、なんでも……」
「まじ? ならいいけど」
ロウはイヤホンを深くつけ、モニター越しの世界へ集中した。
あなたの表情なんて見えてない。
(……気づかなくても仕方ないよね…… 言ってないの、自分だし……)
そう思っても、孤独な痛みが胸に広がった。
ロウが明るい声で挨拶を始めたころ、あなたの体は限界に近づいていた。
(……息が……しづらい……)
下腹部の痛みが波のように押し寄せ、冷や汗で手のひらがぐっしょり濡れる。
それでも部屋から出られない。
動けばロウの配信音に雑音が入る。それが迷惑になるのが怖かった。
(ダメだ……でもどうしたら……)
頭がふわっとして、視界の端がかすむ。
「……あれ?」
机に手を置いたのに、力が入らない。
世界がゆっくり後ろへ傾いていく。
(倒れる……? やだ……配信中なのに……迷惑、かけたくない……)
けれど身体はもう言うことを聞かない。
――ガタン。
何かが床に当たる音がして、ロウが一瞬だけこちらを見る。
そして表情が凍りついた。
「……おい。え……?」
配信中にも関わらず、ロウの声が乱れた。
「ちょっと待っ……ごめ、5分だけミュートする!」
慌ててマイクを切り、ロウが駆け寄る。
「なに倒れかけてんだよ……! おい、しっかり!」
肩を抱き起こされた瞬間、冷え切った身体に触れたロウが息を飲んだ。
「お前……汗びっしょりじゃん……なにがあった?」
震える声。
心配と後悔と焦りが全部混ざっていた。
「……せり……きて……体調悪くて……でも……ロウ、忙しそうで……言えなくて……」
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絞り出すように言うと、ロウの顔が苦しそうに歪んだ。
「……は?」
怒鳴り声じゃない。
けれど底のほうで感情が震えていた。
「なんでだよ……なんで言わねぇんだ よ……っ」
自分を責めるみたいな声。
「俺、気づかずに……こんな……」
「ごめん……」
「謝るな。悪いのは俺だろ……」
ロウはあなたを抱きしめるように支えた。
「配信? もう知らねぇよ。今はお前が優先だろ」
ミュートよりも大事そうに、あなたの額に手を当ててくる。
「体、冷え切ってる……まずベッド戻るぞ。歩ける?」
「……無理かも……」
「よし。じゃあ、抱っこ」
言うや否や、ロウは迷いなくあなたを抱き上げた。
「……恥ずかしい……」
「いいよ。恥ずかしがる元気あんなら大丈夫」
優しい声が耳元で震える。
「悪かった……ほんとに……もう絶対無理させねぇから」
その言葉に胸が熱くなり、涙がにじんだ。
「着替えとタオル持ってくる。薬も買ってくるから。 ……置いてくの不安なら、ずっとそばにいる」
「ロウ……」
「言ってほしかった。 でも言えねぇ時もあるって知ってるから……次は無理してでも気づく」
ロウはあなたの髪をそっとなでる。
「……だから今日は、俺に全部任せろ」
その言葉は、泣きたくなるほど優しかった。