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「ベータの仁人くんには分からないよ」
かつて僕と唯一の同級生で歌が上手だった子がいた。
出会ったときはもちろん第二の性は知らなかった。ただ、一緒に練習しているなかで隣にいると心地良いな、守りたいなという感情が芽生えた。
あの子がオメガだと判明した後は、佐野くんや他のアルファのメンバーとの調整は事務所のスタッフさんのお陰でうまくできてたし、僕との関係は変わらなかった。だからこのままずっと一緒にいられたらと淡い夢を見ていた。
あの子からグループを卒業すると聞いたと同じ時期に恋人だとアルファを紹介された。
他のメンバー達はお祝いしていたけど、僕はちょっと威圧的な恋人にあまり良い感情を抱かなかった。
その時に気付いてしまった。ああ、僕はあの子のことが好きなんだ。
「恋人のアルファさんって良い人なの?なんだかちょっと怖いな」
「それにあの匂い香水かな?君にも同じように感じるの?」
恋心に気付いた時に失恋した僕はどうしたらいいか分からなかった。
「ベータの仁人くんには分からないと思うけど運命なんだよ」
ああ、分からないよ。誰かを惹きつける儚さを持ったオメガでも、将来を約束されたも同然の才能を持つアルファでもない僕には。
分かってあげることができないのは僕のせいじゃない。その言葉は、ベータってだけで蚊帳の外にいる気分にさせるには十分だった。
僕はそういうの関係無しに人を好きになりたかった。ただそれだけなのに。
佐野くんからの爆弾発言であの時期の湿気でジメジメした空気が僕を包み込む。
バレていたことに動揺して背中に冷や汗が流れているが返事は決まってる。
「ごめん、付き合えない。」
実はベータだと判明してから、ベータの人たちに告白されたことがある。
“ベータはベータと恋愛を”と自身を縛って、僕のことを運命の人だと思い込む同じ種類の人たちを見て何故か悲しくなり既に4人断っていた。
誰もが憧れるアルファの佐野くんは僕に振られた記念すべき5人目になってしまった。