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「おまえさ、お姉さんのことはちゃんと話したのか」

「……姉が亡くなったことは伝えている」

「すべて?」

押し黙る俺の様子が答えになった。

「きちんと話すべきだ。美良ちゃんにはな」

「……」

「美良ちゃんだけには話してもいいと思うぞ。いや、話せ」

「おまえには関係ないことだろ」

「関係ないさ。だがな、腐れ縁を自覚している以上、おまえには幸せになってもらいたいと思っているんだ」

高ぶりを抑えるように小さく吐息すると、凌は続けた。

「おまえは研究に没頭することでお姉さんを失った事実から目を背けてきた。俺はそれでいいと思っていた。おまえがそれでどうにか生きていけるのなら、どんなに孤独に見えようが」

「……」

「けど、おまえは自ら自分の人生に美良ちゃんを招いた。その意味を俺はかなり重く受け止めた。嬉しかったよ。面白がってなんかいない。ただ安心して嬉しかっただけだ。だから、美良ちゃんには絶対話すべきだ」

重苦しい沈黙が続いた。

俺の言葉を待って黙り続ける凌に、俺はどうにか言葉を紡いだ。

「おまえには悪いが、余計なお世話だ。彼女に話すつもりはない」

「……そうか」

つぶやくなり、凌は金札を置いて立ち上がった。

「悪いが、ちょっと気分が悪いから帰る。けど勘違いするなよ、俺はおまえのこと、けっこう好いているんだからな」

気持ち悪いこと言うな――そう憎まれ口をたたく前に、凌は店を出て行った。

ほどなくして注文した料理が運ばれてきた。

アメリカでは絶対にありつけないような鮮度抜群の魚貝を使った創作和食なのに、あいつも気まぐれが過ぎる。

……まぁ、悪いのは恐らく俺の方だろうが。

ここはなかなか予約が取れない人気のダイニングバーだった。

あいつに言いたい放題言われてこちらも気分が悪い。

せっかくだから、少し独り酒でも楽しんで帰ろう――とメニューを開いたその時、スマホが鳴った。

着信はハウスキーパーを任せている山本さんからだった。

よく出来た人で、滅多なことでは連絡してこないのだが、なにかあったのだろうか。

タップすると、業務的な挨拶のあと、たどたどしい口調が続いた。

「お忙しいところをすみません、あの実は奥様の件で」

「妻の?」

メニューをめくる手が止まった。

「実は大学で体調が悪くなり倒れられたとのことで」

「なんだって?」

思わず声が強張ってしまう。

「それで、妻は今どうしている?」

「ご自身で帰ってこられて、今はもう自室でお休みされています。ひどい熱で……」

「病院には?」

「行かれていないようです。そこまでではないから、と。眠れば大丈夫だからと気丈にされていたんですが、私も心配でいろいろお手伝いさせていただいておりましたらこの時間になりました。ご報告が遅れて申し訳ありません」

「いや、とんでもない。時間外になるのにありがとうございます」

山本さんは恐縮すると、少し言いづらそうに続けた。

「実は奥様は、自分が熱を出していることはご主人様には内緒にしてほしいとおっしゃられて」

「なんだって?」

「ご主人様は今夜はお友達との約束があるから、自分のせいで台無しにしたくはないから、と」

「……」

「とはおっしゃっても、お一人でとても心細そうなのは見てとれたので、奥様には申し訳ないのですがご連絡させていただきました」

「解かりました。本当にどうもありがとう。山本さんもいろいろ気遣いをかけさせて申し訳なかった。このことはこちらで上手くやっておくので、ご心配なさらず」

丁重に挨拶をかわして、俺は通話を切った。

「ご注文はお決まりですか?」

店員がやってきたが、俺はすでに美良が寝込んでいると聞いた時からジャケットを羽織り、会計する用意をしていた。

丁寧に詫びを言い、俺は足早に店を出ていった。





タクシーに飛び乗りマンションの入口についた後、無駄に広いエントランスを駆け抜け、エレベーターが止まるのをもどかしく待って、ようやく玄関にたどりついた。

自宅の玄関に着くなり、まずは軽く上がっていた呼吸を整えた。

急いで帰ってきたと美良に悟られるわけにはいかない。

なにも知らずに帰ってきた、という状態でいなければ。

「おかえりなさい」

靴を脱いで上がると、美良がやってきて驚いた。

美良はパジャマ姿だった。

いつものように、にっこりと笑って出迎えてくれるが、ふらついていて、見るからに具合が悪そうだ。

「寝ていないとだめじゃないか……!」

つい声を荒げてその背中に腕を回してしまった。

驚いている美良を見て、しまったと思ったが遅い。

こうでもしなければ、今にも倒れそうで心許なかったのだから。

「あ、あの、今夜はお帰りが早いんですね……?」

どこか舌足らずの声に怪訝そうな色をにじませて、美良が訊いてきた。

「予定はちょうどキャンセルになったんだ。そこに君が倒れたと山本さんが連絡をくれてね。君を心配してのことなんだ、彼女を責めないでやって欲しい」

「そう、だったんですか……あっ! あの……!」

俺は美良を横抱きに抱え上げた。

「いいから。身体を休めるんだ」

君という鍵を得て、世界はふたたび色づきはじめる〜冷淡なエリート教授は契約妻への熱愛を抑えられない〜

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