テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#独占欲
#ワンナイトラブ
私の父は親友の奥さんと結婚しました。なぜならば奥さんのお腹には侑哉が宿っていて、今にも親友のあとを追ってしまいそうだったのです。
親友のために身を引いた父は、ものすごい葛藤はありましたが、私も侑哉も自分の子供として分け隔てなく大切に育ててくれましたとさ。
そんな私たち姉弟の話。
ーーーー
気づいたら、侑哉に電話していた。
***
優しい婚約者がいました。
いつもぐいぐい引っ張ってくれるような、私の意見も聞かない俺様とばかり付き合っていた私に、
その人は穏やかに笑って尋ねてくれました。
『みなみさんは、どこに行きたい?』
何でも私に決めさせてくれる。
そんなの初めてで。
ただ、何も決めれない優柔不断な人だったのかもしれないけど、それでも好きだから苦痛じゃなかった。
上司で私の指導係の部長は、仕事はできるけと自分にも部下にも厳しい人だったから、――自分の意見を飲み込んでしまう私はなかなか心を開けなくて。
だから、笑うと目が細くなる穏やかな厚一(こういち)さんに惹かれたんだと思う。
そう思ってたのに。
あの夜の少し前。
プロポーズを受けて仕事も辞めたあの日。
珍しく厚一さんから行きたい場所があると言ってきた。
「えっと……? ここ?」
連れて来られた場所は、かなり趣のある小さな産婦人科。
日焼けしたポスターが貼られた入り口の窓はヒビが入っているし、年季が入った壁には手入れもされていないような、草の蔓が巻き付いている。
「うん。安くて腕が良いって、母さんが調べてくれたんだ」
母さん……。
その言葉にぴくりと無意識に反応してしまう。
厚一さんはよく会話に『母さん』を出すから。
『母さんが買ってくれた服』
『あの政治家は裏で録な事をしてないって母さんが』
『母さんが作る煮物が好きで』
母親思いの良い人だと今まで信じていたんだけれど。
「ここで何、するの?」
「ブライダルチェックって。母さんが結婚する前に女性は必ず受けるって言ってたよ」
「……そうなんですね」
ちょっと、いやかなり躊躇する外見の産婦人科だけど、さらりと言う厚一さんを見ていたらそんなものなのかもしれない。
ブライダルチェックて何するんだろう?
検査は血液検査や分泌物検査、あとは内診。
厚一さんは廊下の長椅子で居眠りしているだけで。
何も分からず不安な私は、暇をしているであろう弟の侑哉にメールをしてみた。
バイトのし過ぎで大学の単位がヤバくなった侑哉は、今は土日しかバイトを入れていなかったはず。
バイクも買えてルンルンな侑哉とは、ほぼ毎日メールをしていたし。
携帯だけがこの空間で安心できるものだったけれど。
診察に呼ばれ、診察室の台に寝転ぶと、医師はカルテを記入しながらこちらを見る事なく言う。
「性交の経験は?」
「え!?」
自分の父親より年上のご老人一人。受け付けに奥さんか年配の女性が一人。
そんな二人しかいない小さな産婦人科だったのだけど、そんな事を質問されるなんて。
「な、ないです……」
「じゃあ触診はしないからエコーだけだね」
事務的にそう言われ、なんだか居心地が悪くて廊下にいる厚一さんを見る。
すると退屈そうに起き上がった厚一さんは、非情な事を言った。
「一応受けてみたらいいのに」
「性病検査みたいなものだから大丈夫ですよ」
「――初めてだって言うのも調べれます?」
「こ、厚一さん!」
そんなの嫌だと言おうとして、名前を呼んだら厚一さんも押し黙る。
沈黙が続く中。
厚一さんはぼそっと吐き出した。
「だって母さんが嘘かもしれないって」
ぞわっと背中が一瞬で鳥肌が立つ。
この人、デリケートな話まで母親にしているのか。
どこまでしているんだろうか。
聞けなくて怖くて。
――私たちは会話を止めてしまった。
待ち合わせまではデートだと思ってわくわくしていたのに。
今は不安でたまらない。
『姉ちゃん、バイク納車した!』
そのタイミングで侑哉から楽しそうなメールが来て救われる。
『すごいね。これで勉強にも身が入るね』
そう打つ。
スマホをタッチする音だけが待合室にひびく。
『今からバイクで姉ちゃんとこまで行こうかな』
『いきなり遠出は危ないよ。でも』
――でも会いたいな。
そう打って送信したら厚一さんが携帯を覗いてきた。
「メール?」
「うん。弟に」
それを聞くと、ちょっと面白くなさそうな顔をした後、また長椅子に横になる。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!