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“ーー髑式 水棲衝! 何時の間に!?”
周りを取り囲む水球に、ユキの瞳は驚愕に見開かれる。
ガイシキ スイセイショウ
“髑式 水棲衝”
シグレの特異能“獄水”で形成されたこれは、只の水球では無い。髑髏の形をしたこの一つ一つが、超圧縮された水圧の塊だ。
「ちぃっ!!」
“神露ーー蒼天星霜”
瞬時に刀を鞘に納めたユキは、取り囲む水球を星霜剣奥義にて凪ぎ払い、水球はその場で破裂、消滅していくが。
“ーーっ!?”
消滅しきれなかった水球の一つが、自分の足下にゆっくりと漂って来たのに気付くが、もう遅い。
もし、この超圧縮された水球に生物が触れたらどうなるかーー
「しまっーー!!」
それはミキサーにかけられたかの様に、一瞬で物質が沸点。夜空を彩る真っ赤な花火へと。
それでもユキは過敏な反射神経と、その超人的な身体操作能力で、水球を避けるべく身体を捻る。
「――くっ!」
水球は僅かに、左太股の側面を掠めただけに留まったが。
「ぐっ……あぁぁぁ!!」
そのあまりの激痛に、ユキは思わず呻き声を上げた。僅かに掠めた程度なのに、彼の左太股は抉られたかの様にその一部が欠け、其処からは水道管が破裂したかの様な生々しい血煙が吹き上がっている。
「ぐっ……」
おそらく血管断裂。支えを失うかの様に、ユキはその場に膝を着く。
「ユ……キ……」
アミは痛々しい迄に崩れ落ちてしまったユキへ声を掛けようとするも、この高濃度の霧の中では呼吸もままならず、上手く声を出す処か身体も思う様に動かせない。
「ーーっ!!」
そしてアミは見た。彼のその傷口からは吹き出す血液を止める様に、氷が覆い固まっていく様子を。
その光景にアミは、思わず涙が出そうになるのを堪える。
ユキのもう一つの特異能ーー“再生再光”
分離した細胞さえも戻せる程の強力な治癒能力だが、最大の欠点は保有者自身への治癒効力を施せない事。
傷口を覆う氷は、いじらしい迄の応急措置であった。
“出血は酷いが動けない程じゃない……まだ大丈夫。それにしてもーー”
傷口を氷で強制的に固め、太股を押さえながらユキはシグレを見据える。
シグレは未だに傷一つ負っておらず、まるで余裕の佇まいだ。
“――前より遥かに強くなってないか? 動きが見切れない!”
「何時の間に? とでも思っているのか?」
思考を見透かしたかの様に、シグレは見下しながら投げ掛けた。
「違うな、お前が弱くなっただけだ。無駄な感情を持ってしまったが為に、この程度にも要らぬ傷を負ってしまう」
「何だと!?」
“――違う! 無駄なんかじゃない! 私は弱くなっていない!”
「期待外れもいい処だ。終わっていいよ、お前」
シグレの冷めたその一言に、ユキは弾かれたかの様に、シグレに向かって突進する。
「ざっーーけんなぁ!!」
もはや構えも防御も何も無い。
“――殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す! 絶対に殺してやる!!”
それは只の、怒りに任せた無謀な攻め。それ以外の何物でも無かった。
「怒りの次は錯乱か? まるで餓鬼のチャンバラだな。今のお前は隙だらけだ」
無防備にも一直線に向かってくるユキへ、シグレは上段から村雨を降り下ろした。その剣閃は水の刃となり、間合い外の者をも迎撃する。
「はっ!?」
ユキは漸く我に返り、刀と鞘で全てを防御に集中するが、その水の刃の衝撃を抑えきれず、土煙をあげながら遥か後方まで吹き飛ばされた。
「ぐっ、ぐうぅ……」
ユキは横倒しに倒れたまま、立ち上がる事が出来ない。それは敗北のみならず、この場に居る者全ての“死”を意味していた。
「俺を愉しませてくれると思っていたお前が、まさかこんな凡愚に成り下がろうとはな……」
シグレは遠くで倒れたままのユキを見据え、本当に残念そうに呟く。
そしてーー
「まあせめて、欠片一つ残さず送ってやろう。お前の事は、忌まわしき過去として覚えておいてやる……」
シグレの村雨から呼応するかの様に、集約した水がある一つの形へと成していく。
『なっ……何だ! あれは!?』
その異様な光景に、誰もが驚愕するしかない。
シグレの周りを渦巻く様に、それは徐々にその全貌が顕になっていく。
訪れる終焉の刻ーー
“蒼閻剣秘奥ーー獄龍 閻水礫”
その姿は正に、空想伝説上の“龍”そのものであった。
ゴクリュウ エンスイレキ
“獄龍 閻水礫”
流派として伝えられる事は無い、特異点シグレのみが考案した特異能との複合剣ーー“蒼閻剣”の秘奥。
その巨大な水龍は、まるで生きているかの様に蠢いている。
その威圧感に誰もが震撼。それはまるで“地獄”からの使者で在るかの如く。
「喰らい尽くせ……」
シグレの号令を皮切りに、水龍が獲物と定めたかの様に、倒れて動けないユキへとその矛先を向ける。
「に……逃げ……」
“――逃げてユキ!!”
上手く声を出す事が出来ないアミの、その心の叫びは届かない。無情にも水龍は倒れている彼へ、猛然と襲い掛かる。
その小さな身体の全てを喰い尽くすが如く、水龍は地面を抉り、其処は破裂し凄まじい程の水飛沫が巨大な水柱に見えるかの様に吹き上がった。