「でも透子ちゃん。それ実際はどういうことなのか樹に確かめてからでも遅くないと思うよ」
「修ちゃん・・・。じゃあ、なんて聞いたらいい? ”樹、婚約おめでとう”って言ったら樹、説明してくれるのかな?ちゃんと言い訳してくれるのかな?それとも”ありがとう”とか残酷なこと言われちゃうのかな?」
「透子ちゃん、そんなはずないだろ? 樹ならちゃんと透子ちゃんには誠実な気持ち返してくれるはずだよ?」
「でも、昔はたくさん周りに女の子いたんだよね? 結局はちゃんと婚約者がいたんだしさ。きっとそれまでちょっと遊びたいなって思った中の、私も一人だったんじゃないかな」
あぁ。自分で言ってて嫌になる。
どんどん自分が嫌いになって、どんどん自分が惨めになる。
「透子ちゃん、ホントにそう思う?」
修ちゃんが静かに尋ねる。
子供みたいにひねくれている自分に呆れているかのように。
「さぁ・・もうわかんない・・・」
ホントは、自分だけは違うんだと思ってた。
樹にとって、私は特別になれていたのだとそう思ってた。
だけど、もう何を信じていいのか、何が真実なのかわからなくなった。
「確かに。アイツの家はそこそこ裕福だし、あの会社を後々背負う立場だから、普通ではあり得ないそういう相手との約束も、実際あるのかもしれない。現に昔からアイツは、親にすべて遠い将来まで決められてて、自分の意志とは関係ない決まりきった人生だと嘆いてたからね。きっとそれはずっと昔からわかってたことだったんだと思うよ」
「なら、なんで、私なんかと・・・」
「だからだよ」
「だから・・・?」
「そんな決まりきった人生だから、きっと透子ちゃんが樹にとっては光だった」
「私が?」
「そう。オレさ、昔からアイツのこと知ってるけど、ホント家庭環境がそんなだったからさ、何に対しても投げやりでやる気ない時も昔は多くて。根はすげーいいヤツだし、ホントはどこまでも真っ直ぐなヤツだから、オレも可愛い後輩として心配で、どうにかこの先もっと上手く生きていけないもんかなって思ってたんだよね」
修ちゃんが語る昔の樹の話を聞いて、こんな時なのに嬉しくなったり、だけど切なくなったり。
「だからずっと女関係も適当でさ、あの幼馴染だって言ってた子もホント妹みたいな接し方してたし、オレが知ってる限りでは、アイツから本気になった相手って誰もいなかったんだよね」
なんか修ちゃんの話を聞いて少し切ない。
何に対しても本気になれなかった樹だったと知って信じられないと思う反面、そんな樹が昔存在していたんだと悲しくなる。
「だけど、そんな樹が透子ちゃんと出会って別人のように変わった。ここまで言えばもうわかるよね?透子ちゃん」
「修ちゃんには適わないな・・。そこまで言われたらもう何も言えないじゃん」
「そんな樹がさ、大切な透子ちゃん悲しませてまで婚約するとはどう考えても思えないんだよね」
「ホントは私だってそう思いたい・・・」
「あっ、そういえばさ。透子ちゃん今のマンションに引っ越しする時さ、そこオレが紹介したじゃん」
「あっ、うん。修ちゃんがたまたまあの時あの部屋紹介してくれてすぐ引っ越せて助かった」
「あれもさ。実は透子ちゃんだからなんだよね」
「何が?」
「樹が透子ちゃんとどうしても近付きたくて、たまたま空いた隣の部屋その時教えてくれたんだ。透子ちゃんが失恋して引っ越し先探してるってオレが言ったから。絶対ここに引っ越させてって、すげぇ頼まれて」
「えっ!そうなの!?」
そういえば、前に樹から隣紹介したって聞いたことあった。
「そう。まだ透子ちゃんが全然樹を認識してない時からアイツは透子ちゃんに惚れててさ。近づける絶好のチャンスだってホント喜んでたんだよね。ストーカーみたいでヤバいでしょ、アイツ(笑)」
「うん・・・ビックリ」
「まぁそんな時からそんないい加減だったアイツが透子ちゃんには本気で振り向かせようと必死だったってこと」
「うん・・・」
「だから樹の中にはさ、透子ちゃん以外の女性は存在してないんじゃないかな」
修ちゃんの言ってくれる一つ一つの言葉は、妙に納得出来て。
知らなかった昔の樹の話を聞けば聞くほど、自分をずっと想ってくれていた気持ちの大きさに改めて気付く。
「樹、修ちゃんが先輩で幸せだね」
樹はずっと昔から、修ちゃんにちゃんと理解してもらえて支えてもらってたんだ。
なんかそれを知れただけでも嬉しい。
「そりゃ樹はオレにとって可愛い後輩だからさ。オレ的にはアイツを信じてやりたいワケよ。透子ちゃんだって美咲の大事な親友だからオレにとっても大切な存在だし。樹も透子ちゃんもオレにはどっちも大切な存在」
「そうだよ透子。樹くんには、私の大事な親友泣かせたら許さないって耳が痛くなるくらい何度も伝えてるから」
「美咲~」
ダメだ、この二人、最強な素敵夫婦すぎて泣きそうだ。
「だからさ、アイツの言い分もちゃんと聞いてやってくんないかな?きっとアイツもアイツなりに考えてることあると思うから」
「わかった・・。修ちゃん。そうだよね。樹の話聞かないとわからないよね」
その時、ふと思い出した。
前にもこんなことあった。
樹がいとこの栞さんといるの見て勝手に勘違いして傷ついてた。
結局は誤解だったのに、ずっとすれ違って辛い日々過ごしたのに。
あの時も樹の話を聞けばまた状況は変わっていたかもしれなかったのに。
あの時樹を信じていれば悲しい思いをしなくて済んだ。
だけど、あの時はあれがきっかけで樹の本当の気持ちを知れた。
すれ違ったからこそ樹とちゃんと本気で向き合えた。
だからこそ・・・。
今回このまままた離れるのは嫌だ。
私はまだ樹を諦めたくない。
樹と離れたくない。
樹の気持ちをちゃんと聞いてからどうなるかは、きっとまた運命が導いてくれる。
「ありがと修ちゃん。一度樹にちゃんと話聞いてみる」
「うん。そうしてやって」
「美咲もホントありがとね」
「とにかく私は透子が幸せになってくれるならそれでいい」
「ありがと」
ホントに二人がいてくれてよかった。
私だけじゃきっと壊れてた。
考えて考えまくって答えが出なかった。
もう少し冷静になって落ち着くことが出来たら、樹にちゃんと聞いてみよう。
もうこれ以上、後悔はしたくないから。
もうこれ以上、意味なく樹と離れるのは嫌だから。
ちゃんと樹から話を聞いて本当のことを確かめよう。
やっぱり樹のこと、信じたい。
樹をまだ好きでいたい。
樹をずっと好きでいたい。
それだけはもう変わらない事実だから・・・。
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