「倒幕」
雅也の口から突然、信じられない言葉が飛び出した。橘はその場で一瞬、言葉を失った。
「倒幕や。」
「倒幕?」
橘は眉をひそめて雅也を見つめた。彼が意味するものが理解できなかったが、雅也の冷徹な意志に、ただの無謀ではないことは感じ取れた。
「せや、倒幕。」
雅也はさらに続けた。「この時代をひっくり返したい。幕府だろうが、藩だろうが、“秩序”も全部。俺は変えたい。」
橘は少し黙ってから口を開く。「お前は…倒幕を望んでるのか。江戸の平和を、みんなの安定を壊すつもりか?」
雅也はその問いにすぐ答えなかった。代わりに、何も言わずに街の中心を見つめた。大阪の街並みは静まり返り、日が沈みかけるその瞬間、空は鮮やかなオレンジ色に染まりながらも、どこか不穏な雰囲気を漂わせていた。
「平和なんか、幻想だ。結局、力を持っているやつらだけが決めるんだろ。」
雅也は鋭く言い放った。「幕府も藩も、俺にとっては障害や。それを壊して、自分が世界を支配する。それが俺の夢や。」
その言葉に、橘の顔が険しくなる。
「お前が世界を支配するなんて、どういうつもりだ? 倒幕して何を得る? この先、何をしたい?」
雅也は少しだけ顔をほころばせ、何かを知っているかのように言った。「力を持つものが、全てを決める。それが俺の答えや。」
橘はその言葉を聞いて、雅也の異能を使うことへの執着が、単なる自分の力を誇示するためのものではなく、もっと深い野望に繋がっていることを理解した。そしてその野望を叶えるためには、雅也が周囲のすべてを破壊する覚悟を持っていることも。
雅也の決意が固いことは、すぐに明らかになった。次に彼が向かうのは、江戸ではなく、名古屋だった。名古屋は東海道の中心に位置し、幕府にとっても重要な拠点。ここで何かを仕掛けることで、幕府を揺さぶるつもりだった。
「名古屋で、幕府の息のかかった商人たちを潰してやる。そいつらの権力を断ち切れば、江戸は動揺する。」
雅也は冷徹に語った。
橘は眉をひそめながらも、黙って計画に従うことに決めた。彼自身、雅也の野望がどこへ向かうのか、そしてそれがどれほどの混乱を引き起こすのか、完全に予測できるわけではなかったが、今の彼には止める力もない。ただ、ひとつだけ思っていたことがあった。それは、この戦いが本当に雅也の望む未来をもたらすものなのか、という疑問だった。
名古屋の街に到着した雅也と橘は、すぐに計画を実行に移し始めた。まず最初にターゲットにされたのは、名古屋城近辺で勢力を持つ商人の一団だ。彼らは幕府の命を受け、密かに商売を行い、権力を拡大していた。
雅也はその商人たちのアジトを突き止めると、全く躊躇することなく突入した。異能を使い、建物を切り裂き、商人たちを次々と捕え、命を奪う。橘はその光景を冷静に見守りながらも、心の中で何かを感じ取っていた。それは、雅也が自分の異能を使って周囲の秩序を破壊し、思い通りに支配しようとしているその姿が、だんだんと恐ろしいものになっているという感覚だった。
名古屋での戦闘が終息し、雅也が勝利を収めた後、橘はついに口を開いた。
「お前が倒幕を進める先に、何が待っているのか分かってるのか?」
雅也は一瞥を送ると、無邪気に答えた。「分かってるよ。力を持って支配する。それだけだ。」
橘は深くため息をつき、刀を抜いた。「じゃあ、俺はお前を止める。お前が強くても、世界を支配することが、破滅を招く。」
雅也の顔が一変する。「お前…裏切る気か?」
「裏切りじゃない。ただ、俺が進むべき道は違う。」
橘は冷静に言い放つと、刀を一閃させた。
雅也はそれを避け、怒りを露わにした。「俺を止める気か?お前も俺のようになれば、もっと楽に世界を動かせるんや!」
だが、その時、雅也の異能が暴走し始める。彼の力は再び周囲を切り裂き、名古屋の街を崩壊させる。橘はそれを制止することができず、戦いは続いていくのだった。
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