テラーノベル
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クリスマス間近になって、ホールストリートの町は「ジャッキー・ピンポン」なるふざけた名前の市会議員を選挙で通そうと、あちこちに大きな垂れ幕と、クリスマスツリーが立ち並ぶ、おかしな風景になっていた
ショップのあちこちの壁に、ピンポンの真っ白の歯を見せた笑顔の選挙ポスターが張り巡らされ、コイツの顔を見かけない日はなくなり、竜馬はうんざりしていた
「お~い!セドリックからクリスマスプレゼントが届いたぜ!」
家に帰ると、宗一郎が嬉しそうに竜馬に言った、セドリックからのクリスマスプレゼントは美しいウール編みのベッドカバーだった、宗一郎には緑の地柄に鮭を加えた雄々しいクマが見事に描かれた、セドリックお手製のベッドカバーだった
「・・・なんか・・・・アイツって・・・色々天才だよな・・・・」
宗一郎が惚れ惚れしながら、ベッドカバーを見て言った
「すごいなぁ~、これ売り物だったらとても高いよ!芸術品だよ!セドリックは手芸の才能伸ばしたらいいのにね」
竜馬はそのベッドカバーの素晴らしい出来栄えに感動した
「お前のは?早くあけろよ」
「うん!」
竜馬はベッドに置かれたプレゼントを開けようとハサミを取って来た、綺麗に茶色の包装紙に包まれて赤のリボンで飾られている包装紙を切ると、竜馬もベッドカバーだった、自分にはセドリックはどんな模様で編んでくれたのか、ワクワクしながら、バサッとベッドカバーを広げた、その広げた柄を見て竜馬はハッとした
「おお~~~っっ!!かっけ~~~!!」
セドリックからの竜馬へのクリスマスプレゼントは・・・上質のフワフワの毛糸は温かく、これを羽織って寝るととても気持ちよさそうだった
そしてその柄は・・・・
黒地で大きな羽を広げた勇ましい鷲(イーグル)が描かれていた
「このイーグルめちゃくちゃ繊細だな!これもいいなぁ!」
宗一郎の称賛も空しく、竜馬は悲しくなった、まさにセドリックが竜馬のベッドカバーの図柄にしたのはジャスティンの腕にあった鷲イーグルの「タトゥー」だった
ここでこのイーグルの意味を知っているのはセドリックと竜馬だけだ・・・二人はジャスティンのことは暗黙の了解で口には出さなかった
―けどセドリックは忘れていないんだ ―
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「・・・?・・・どうした?テンションだだ下がりじゃないか、このベッドカバーに何か問題でもあるのか? 」
宗一郎が急に静かになった竜馬の顔を心配そうに見た
「ううん・・・嬉しいよ ・・・明日・・・セドリックにお礼を言わなきゃね・・・」
竜馬はそう言って悲し気に微笑んだ ・・・・
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セドリックのお返しと、大切な人にクリスマスのプレゼントを買いに、竜馬はシカゴ市内のショッピングモールにやってきた
竜馬はしっかりとダウンジャケットを着こみ、白い息を吐きながら、クリスマスムードたっぷりのショッピングモールを歩いた
大切な人の顔を思い浮かべながらプレゼントを選ぶのは楽しいものだ、まずは腹ごしらえに屋台のホットチョコレートと、長いチュロスをベンチに座って食べた
家電量販店に行って、宗一郎には人気のヘッドホンを、そしてセドリックには100%上質ウールの毛糸玉12色セットを買った、いつも美味しいお料理を魔法のように作ってくれるマミーには、良い匂いのするハンドクリームを買った
#地雷系
尾津嘉寿夫 ーおづかずおー
1,294
クラリス
2,220
リリア💙🤍
207
#いじめ
名瀬口にぼし
279
昨日のビスケットも、あれは本当に美味しかった、宗一郎が過酷な外のパイプ交換の仕事から帰ってきて、マミーの顔を見るなり愚痴を言おうとした瞬間、マミーに有無も言わさず口の中にビスケットを突っ込まれた、そこからは無言で三人で貪り食った、愚痴など、どこかへ飛んで行った、はちみつとピーナッツバターで味変をした後は、そこからまた無限に食べられた、思い出しても口に唾がたまる、竜馬はフフフと笑った
手に紙袋をいっぱい持って、幸せな気持ちでそろそろ帰ろうと思った時、綺麗なティファニーのショーウィンドウを横切った、ふと竜馬は立ち止まった
眩いスポットライトに照らされて、とても綺麗なゴールドの2センチほどの輪っかのピアスを見つけた・・・竜馬は思い出した、ナルシソ・ホテルでカード・ディーラーをしていた時のジャスティンを・・・タキシードに身を包み、金髪をオールバックにして、そして右耳にはダイヤモンドのピアス・・・
彼がスポットライトの下で動くたびに、麗しい金髪とダイヤのピアスが輝いて、まるでジャスティンそのものが宝石のようだった
きっとこのゴールドのピアスも、それはそれは似合うのだろう
「あの・・・すいません・・・これください 」
竜馬はそのピアスを買った、そして家に帰ってベッドボードの引き出しにティファニーグリーンの小さな箱をしまった
―渡せるはずなんかないのに・・・僕は何をやっているんだろう・・・―
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いったい、いつになったら、ジャスティンを恋しく思う気持ちは無くなるのだろう、向こうは僕になんか会いたくないのに・・・
ベッドの上にじっと座り、永遠にも思える時間・・・竜馬はジャスティンを想って凍り付いた
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【三年後】
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多くの学生が卒業検定を合格し、卒業式後のプロム・パーティーに誰を誘うかで浮足だっている頃、竜馬は女子どころではなかった
アメリカでは大学生の、ほぼ三割が就職をせずに学生時代に起業をする、日本と違ってアメリカは法人登記がより簡単で、それに伴うコストがあまりかからないため、起業したければ簡単に起業できてしまう環境がある
また「エンジェル投資家」と言って、これもアメリカでは特に優秀な生徒が企業のために返済しなくてよい融資を受けられる制度もあり、すでにこの頃の竜馬達は「JBOYカンパニー」と名乗って
セドリックのマミーとビームスが起こした会社の、リミテッド・パートナーシップ(いわゆる 下請けの有限会社)「LLC」として、会社を立ちあげていた、そして今は卒業後に企業資金を大学経由で提供してくれる 「エンジェル投資家」陣にアピールするため、怒涛の論文制作に追われていた
バタンッ! 「うえ~・・外大雪だぜ!」
宗一郎が頭に雪をかぶって、犬のように首をブンブン振りながら帰って来た、セドリックの手編みのマフラーと帽子も雪でビチャビチャだった
「ストーブの上に吊ってたら、早く渇くよ」
「明日の工場のリフォーム、石油ストーブも持ってくか! 」
宗一郎がそう言って、紙袋から「サトウの切り餅」を取り出して、リビングの真ん中にある大きな筒状のストーブの上に、アルミホイルを置いて焼きだした
「わぁ!餅だ!! 」
「セントマイルズのリサイクルショップに置いてあった、醤油と砂糖も買ってきた、あそこマジで不思議だな! 」
「本当にリサイクルショップなのに謎に日本食があるよね、どうやって仕入れているんだろう 」
「四次元ポケット持ってるとか?」
竜馬と宗一郎は笑った
「論文出来たのか? 」
「「JBOYカンパニー」の良さを 色々書いているんだけど・・・これといった将来の展望が今いち薄いかなって・・・・」
う~ん・・と竜馬が眉間にシワをよせる
「なんでも金を出したくなるようなことを、書いたらいいんじゃないか? 」
二人でプクッと餅が膨らむのを見ながら考え込む・・・そして竜馬がずっと考えてたが・・・今まで聞きたくても聞けなかったことを、いよいよ宗一郎に聞くが来たことを自覚した
「なぁ・・・・お前は・・・ 卒業したら・・・ 」
― 日本に帰るのか?―
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そう言いかけて途中で止めた、竜馬はできれば宗一郎にこのままアメリカに残って一緒に働いてほしかった、でもそれを無理強いする権利は竜馬にはない、宗一郎には帰国を待ってくれている家族がいる・・・ 自分と違って・・・
―大丈夫、一人は慣れっこだ―
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「ああ、そうだな~・・・」
宗一郎がキッチンで冷蔵庫を開けながら、買ってきた食材を詰めて言う
「ここでもいいけど、もう少しマシな所に引っ越さないか?少なくとも二人で2LDKで家賃1200ドルってところかな?俺それ以上出せねーから、探しといて!」
竜馬はこれには驚いた・・・てっきり日本へ帰るつもりだと思ってた宗一郎は、卒業後もここに残って竜馬と一緒に 仕事をしてくれるつもりなのだ
「に・・・2LDKって・・・狭くないかぁ~~?もっと頑張れよ!社会人になるんだしさぁ~ 少なくとも僕達個人事業主だよ? 」
「うるっせぇ~~~ この倉庫に比べればどこでもましだよ!寒いんだよ!ここ」
「経費で落せるよ」
そう言い合いながらも二人で餅を焼いて食べながら、竜馬は心に温かいものが溢れた、宗一郎は不思議な人間だ・・・周りをすべて従わせる王者の雰囲気のジャスティンとは違い、騎士のような荒々しさと、チャレンジ精神旺盛で、自由な雰囲気がある
竜馬はこの四年間、ジャスティン以外の人間と、これほど気が合って穏やに暮らせるなんて思わなかった、そしてこれからも当分は自分は一人ではなさそうだ・・・その日、一日竜馬の口元はずっとほころんだままだった
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大学の竜馬達の卒業式には、市会議員に当選した「ジャッキー・ピンポン」が会場に来て卒業生に送る言葉を演説していた、ピンポンは、テレビ出演で沢山その顔を露出することによって当選した、いわゆるタレント議員で、多くの、特にシカゴのテレビを見る世代の中年マダムの支持者の心をつかんでいた
セドリックのマミーも、彼の熱烈の支持者で、竜馬と宗一郎が、卒業式の保護者席にマミーを招待すると、大騒ぎだった、卒業式当日、保護者席二人分を占めて優雅に座っているマミーは、いつもより化粧が濃く、綺麗だった 、ライムグリーンのスーツで、同じ色の帽子には、モーニングベールが、マミーの顔を半分隠している
竜馬と宗一郎が在校生席から手を振ると、マミーは100万ドルの笑顔で、ハムのような手を振り返してくれた、二人は途端にこの良き日を一緒に祝ってくれる保護者がいて、心が誇らしくなった、やっぱりマミーを呼んで正解だった
ジャッキー・ピンポンは落ち着きと自信に溢れた態度で、取材に来ているテレビカメラを意識しながら演題に登った、しかし気取った市会議員は、カメラを意識するあまり、途中でスピーチを何度も言い間違えたり、つっかえたりした
ボソッ 「絶対あれ・・・誰か考えたヤツ・・・読んでるぜ・・・ 」
「顔は良いけど「無能です」って書いてるよね・・・」
そういう人の粗を面白がる年頃の竜馬達に、市会議員の卒業おめでとうのスピーチは、これっぽちも心に残らず、ましてや人生の何の指針にもならなかった
それでもピンポンは役に立ってくれた、彼は無能だが、タレント的なサービス精神が旺盛で、宗一郎が大声でマミーと一緒に写真を撮ってやってくれとピンポンを呼びつけると、心地良く応じてくれた
そして、宗一郎と竜馬とマミーとピンポンの、おかしな卒業記念写真が生まれた
さらにピンポンは、マミーの肩を抱いて、二人でツーショット写真も撮ってくれた、マミーは感激して、この写真を一生大事にすると泣いた
竜馬と宗一郎もさっきまでピンポンを馬鹿にしていたのに、なんとなく(良い人)だと思うようになり、政治家は政策より人柄なんだなと思わせられた出来事だった
コメント
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うわ、クリスマスプレゼントのエピソード、切なすぎる…。セドリックが竜馬に贈った鷲のベッドカバー、あれはジャスティンのタトゥーを象徴してるんですよね。二人だけが知ってる意味があるっていうのが胸にくる。竜馬が買ったティファニーのピアスも、渡せないって分かってるのに買っちゃう気持ちわかるなあ…。 でもその後の三年後、宗一郎がアメリカに残って一緒に仕事するって言ってくれたシーンはホッとしました。竜馬って孤独に慣れてるけど、本当はそうじゃないんだなって。あとピンポン議員の「良い人」認定、めっちゃわかります(笑)政治家の器って結局そこなんですよね。