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私の名前は王土 沙奈。
いつも通り趣味のパルクールをしながら夜中に徘徊していたら迷子になっていたヒューマンバグ大学の世界に生きる女の子だ。
なんでこの世界に転生してしまったのかは分からないが、なんで死んでしまったのかは3歳頃、母のパルクールに見惚れ仰け反りすぎて頭を打ったことで思い出した。
「(あえ?まさかヒューマンバグ大学の世界に王土 沙奈として転生した!?)」
あの時私は驚いたよね。前世の私は夜中で突然死して、目が覚めた時は幽体として自分の葬式を見ていた。
しばらくは親や友達の背後霊になって過ごしていて、突然空から白い光に当てられて……そこから記憶がなくて今この世界に産まれてしまったという訳だ。
まぁなんやかんやあって私は今23歳。家族仲も自分の身体能力の高さも自分がかつて書いた王土沙奈の設定通り良きものとなっていた。
まぁその設定のせいもあり方向音痴も活躍中なのだが……
「もう夜遅いし近くの住処で寝ようかな。」
方向音痴であるから私は各地に秘密基地という名の休憩所を作っている。
家族は何日も行方不明になっても心配しない。なぜなら慣れているし私の服にはGPSがいくつも付けられているからね!
そうして私は勘で自分の休憩所がある山の中を散策していると人影を見つけた。
「(女性…?お腹が大きい妊婦さんだ)」
これは何かあるなと思い私は何かから必死で逃げている様子の女性の元へ向かい、声をかけた。
「そこの人、こんな山の中どうしたんです?」
「あっ」
改めて女性の事を見てみると私は驚いた。
黒髪ストレートの髪はどこか乱れていて
服装も山の中で適したと思われないスカートと白い靴。
そして何より……
「(左目から血が…よく見たら手も縄で縛られている。)」
「ぁ、た…すけて……」
「分かりました。近くの病院までお送りします。」
私は訳ありそうな女性と共に病院へ向かった。
私は女性の付き添いとして医師に彼女の容態を聞いた。そして彼女は私の想像以上に最悪な結果を聞くことになった。
「顔の傷が原因で左目は眼球の損傷が激しく、それにお腹のお子さんは……」
「そんな…」
「ッ……」
私は彼女を支えることしか出来なかった。私は何があったのか聞いてみた。そして驚きの事実を聞いてしまった。
「夫と外食のために出かけていたら覆面の男二人に襲われ”山奥の廃屋”で監禁されていました。」
「あの男達に四つん這いでドックフードを食べさせられたり…ぼ、暴力も振るわれて、夫は私と赤ちゃんを守ろうと……う,ぅぅぅぅ!!!」
「なんで私達を襲ったのか聞いたら”私が妊婦だから”っと。私のせいでッ…ごめんなさい、ごめんなさい。」
女性は怒りなのか悔しさなのかは自分の手から血が出るほど己の手を握りしめた。
「……覆面ということは犯人の人相も名前も分からないと言うことと犯行理由からして警察には期待出来なそうですね。」
私はあくまで冷静に彼女をこんな目に合わせた外道共について考える。
外道共を捕まえるのは簡単だ。けど仕置きはどうする?簡単に殺したくない。反省なんてきっと奴らはしない。警察にいっても証拠が少なくすぐ解放されそうだ。
「(あの人を通じて地獄の閻魔さんを呼んでもらおう。)…私と私の知り合いなら貴方の恨みを怒りを代わりに粛清しましょう。」
「え…できるんですか……?」
「はい。」
彼女は土下座をしながら般若のような顔で私に頭を下げた。
「お願いします!!どうか、どうか!私の家族を身勝手な理由で壊した奴らを!!」
私は彼女の手を握る。
「任せてください。」
女性を…家族を傷つけることは私の最大のタブーだ。
あれから3日後
私はあの外道共を”山奥の廃屋”で縛り付けてやった。
「これがボンレスハムか…汚い色と臭いと見た目だな。」
食欲落ちそうだ。なんて考えていたら、待ち人が来てくれたらしい。
「お待ちしていました。貴方が拷問ソムリエの伊集院さんですね。」
私の目の前にはあのヒューマンバグ大学と言えばこの人だと言われている作中でも総合的強さ最強と言われている伊集院 茂夫がいる。
「如何にも。君がエマの友達の」
「はい。王土沙奈です。外道は貴方が極上の痛みを奴らに刻みつけると期待し一応無傷で捕縛しています。」
「……嘘です。外道2匹にも片足一本折らせていただきました。」
だってコイツらは”私の住処”を勝手に使うだけではなく、あんな非道な真似をするために血と汗そして綺麗な彼女の涙で此処を汚したのだ。少しぐらい痛めつけても構わないだろう。
伊集院さんは外道どもの折れた足を一瞥しただけで、特に表情も変えずに言った。
「問題ない。どうせ全部壊す。」
「さすが拷問ソムリエ…言う事が素晴らしく怖いですね。」
私は乾いた笑いを浮かべつつ、泥だらけの自分の姿を気にするフリをした。
――実際は、彼女の旦那さんの遺体を探し回っていたせいだが、そこは伊集院さんに言う必要はない。
「流川。」
伊集院さんが呼ぶとあの拷問ソムリエの弟子である 流川さんが行動を開始した。
「……こいつらを運ぶ。」
「はい、先生。」
流川さんは担架も外道どもをまるでゴミ袋でも掴むように引きずり出した。ぶっちゃけ爽快である。
「ぎ……あ……!」
外道の悲鳴?鳴き声を聞きながら、私はソイツらを見下ろす。
「(痛がる元気あるんだ。じゃあ拷問された時もより酷く絶望してくれるだろうなぁ)」
伊集院さんは私の横を通り過ぎながら、ふと立ち止まって言った。
「君のおかげで外道を早く地獄に送れる。ありがとう」
「え、あ、いえ!彼女のためなので…」
「そうか。」
その一言だけで私と伊集院さん達の会話は終わった。
あれから18時間後…伊集院さんから依頼は完了したと君から伝えてくれと言われた。
「(……本当はね。旦那さんの骨も全部拾ってあげたかった。)」
頑張って山の中の至る所を掘り返したりしたのだが見つからなかった。
代わりに――私は見つけた。廃屋の床の隙間にあった小さな輝き。
結婚指輪。
「(きっと……守ろうとした時に外れたんだ。)」
私は両手でそれを包み、胸にぎゅっと抱きしめた。
「せめて……これだけでも。」
彼女の病室に入ると、彼女はぼんやりと窓を見ていた。
包帯の下の左目はもう何も見えない。
「……王土さん。」
「ええ。終わりました。」
私はそっと結婚指輪を差し出す。
「旦那さんが、最後まで守ろうとした証です。」
依頼者は口元を震わせ、震える手で指輪を握りしめた。
「……ありがとう……ありがとう……っ……!」
その涙は、あの夜とは違った。悔しさではなく、救われた涙だ。
私は彼女の背中を軽くさする。
「大丈夫。あなたはまだ生きている。あなたを壊した奴らは、もう……この世にいません。」
依頼者の肩が小さく震え、やがて私にしがみついた。
「王土さん…ありがとう……。」
「いえ。友達ですから」
きっと彼女は左目の傷のせいで仕事探しも難航するだろう。友達になってしまったら最後まで面倒みるのが私の関わり方だ。