だけど中に入れば、恥ずかしさに消えたい気持ちは一気に吹き飛んだ。
「わぁー!!」
遠くでジェットコースター特有の叫び声がする。
私も杏も遊園地は大好きで、この高揚感はたまらない。
入口でもらったパンフレットを手に、杏は目をキラキラさせて言った。
「ねぇ、どれに乗るー!?」
「えっと、まずはメインじゃない?
「シャウトスプラッシュ」いこーよ!」
「やっぱそれだよね!」
私の提案に、杏はすぐ頷いてくれた。
私たちは遊園地にくればいつもこんな感じだけど、このはしゃぎっぷりが佐藤くんはおかしかったらしい。
「オッケー、それ乗ろうか」
苦笑しつつ同意してくれたところで、杏が「レイさんは?」と尋ねた。
『レイ、ジェットコースターって乗れる?』
私が聞けば、レイは『どれ?』と、杏が持っているパンフレットを覗き込んだ。
その瞬間、杏が固まった。
見てとれるほど緊張している杏を、佐藤くんが心配そうに眺める。
それを見て私は複雑な気持ちだったけど、胸の痛みには気付かないふりをした。
『いいよ。行こうか』
レイが余所行きの笑みで頷いたところで、私たちは目当てのアトラクションへ向かった。
乗りたいのは、この遊園地で一番大きなジェットコースター。
そこに夏限定で、走っている間に大量の水しぶきがかかってくる。
去年杏とこの時期に来た時は、お互いびしょびしょになりながら何度も乗った。
乗り場前には行列ができていて、待ち時間は30分。
暑い暑いと言いながら順番を待っていると、並んでいる人たちの視線が集まり始める。
「ねぇ。あの外国人さん、めっちゃかっこよくないー?」
「えっ、どれ?
……うわっ、まじでイケメンじゃん!」
その声を耳に、私は「またか」と気が重くなった。
「えっ、はい!」
慌てて返事をすれば、杏も佐藤くんを追って振り返った。
「広瀬って、英語を教えたりしてたの?
レイさんとは英語ボランティアで知り合ったって言ってたけど」
「あぁ、えっとね……」
私は視線を一旦外して、慎重に言葉を選ぶ。
「私は教えてないよ。
うちの家族がボランティアで英語教室をしてて、そこのお手伝いをしてくれてた人がレイなの」
「へー、そうだったんだ」
頷く佐藤くんのとなりで、杏も納得してくれたようだった。
我ながらうまい説明だったと自分を褒めたくなる。
だけど、レイの視線が痛いのは気のせいだろうか。
(もういいや。どうせなに話してるかなんて、レイにはわかんないし)
そう思っているうちに私たちの順番になり、次顔を合わせた時には、みんなびしょびしょだった。
「濡れた濡れたー! ほんと爽快!
って、佐藤くん……!めっちゃびっしょびしょじゃん!」
杏が佐藤くんを指さして笑うと、鞄から出したハンドタオルを差し出した。
「あぁ、ありがとう」
佐藤くんも笑顔で受け取っていて、前見たような硬さはなくなっていた。
嬉しい反面、どこか複雑な気持ちでふたりを眺めていると、ふいに前髪をかきあげられた。
『ミオ、大丈夫?』
レイに顔を覗き込まれ、視界に映った蒼い瞳に、意識を引き戻される。
『だ、大丈夫』
後ずさりするように身を引けば、レイは自分の濡れた頬を拭いながら笑った。
(……もう、レイってば……)
協力してとは頼んだけど、本当やりすぎだ。
レイにドキドキさせられるなんて予定にないから、どう振る舞えばいいかわからない。
「ねぇ、お昼だしなにか食べよっか?」
私は彼から逃れるようにして、杏に駆け寄った。
「あぁ、そうしようか。喉乾いたし」
杏も頷いてくれたところで、私たちは近くにあったテラスレストランに移った。
クーラーの効いた中の席はいっぱいで、外の日陰の席も、空きはあとひとつしかない。
『なんにする? 買ってくるからここで待ってて』
『待って、なら私も行くよ』
レイが言えば、私も財布を手に立ちあがった。
「えっ澪、レイさんなんて言ってるの?」
杏の問いに短く答えれば、それに反応したのは佐藤くんだった。
「いや、それなら俺が行くよ。ふたりは席取りしてて」
「それなら……」
杏は佐藤くんにハンバーガーセットを頼む。
「飲み物は?」
「えっとオレンジジュースでお願い!」
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