「今日から理子様の専属執事となります、”瀬尾”です。」
細身ながらにしっかりと男らしい腕、染まることを知らないような黒髪。真っ直ぐこちらを見詰める黒みがかった瞳は、その日から幼い私の心を捉えて離さなかった。
「理子様、まだ起きてなかったんですか!?高校生にもなるのにいつまで経ってもこんなんじゃやっていけませんよ。」
今日も瀬尾の説教から1日が始まる。
「分かってる!!ちょっと寝坊しただけでしょ!?」
まともに朝ご飯も食べずに玄関を出ようとすると、
「理子様、パンで良いから持っていって下さい。制服はちゃんと着ること。お父様が見たら泣きますよ」
とか言ってパンを押し付けられ制服を直してもらって、これが朝の恒例のやりとり。そして、
「行ってらっしゃい。」
って、大きな手で頭を撫でてくれる。これも小さな時からずっと変わらない、子供扱いされているような気もするけど、今はどうだっていい。いつか大人の魅力溢れる女性になったら子供扱いなんて出来なくなるんだから、ね。
送迎用の車に乗り込むと、スマホを開いて検索履歴を見返す。
「執事と結婚」「執事 辞めさせたい」「執事を好きになった」
瀬尾と出会ったあの日、一目で結婚したいと思った。恋に落ちたなんて生ぬるいものじゃない、生涯の伴侶として側に居て欲しいと幼いながらに思ったのだ。
その日からずっと結婚出来る方法を模索し続けた結果、ある一つの結論に辿り着いた。この上下関係を取っ払って仕舞えば良い、瀬尾が私の執事じゃなくなれば堂々と付き合えるじゃないか、と。
だから私は、瀬尾をクビにしたい。今まで沢山の方法を試したけどどれもどれも瀬尾の優秀さから失敗に終わってしまうばかり。でも、いつか必ず全て上手くいくって信じてる。私とあなたは結ばれる運命、その運命に抗うことはどうやったって出来ないから。
これは私と瀬尾が結ばれるまでの、長くて短い恋の物語。