入学式を終えたばかりの二人は、配布された重い鍵を手に、中等部寮「藍林檎・若葉棟」の長い廊下を歩いていました。
全寮制のこの学園では、中等部の間は二人部屋が基本。そして、事前の希望と配慮によって、元貴と滉斗は当然のように同じ部屋を割り当てられていました。
「ここだ……。204、大森・若井」
滉斗が鍵を開けて扉を押し開けると、そこには新品の畳と木の香りが漂う、清潔な室内が広がっていました。左右に置かれたシステムベッドデスク、クローゼット、そして窓から見える学園の中庭。
「……ひろと、ここが僕たちの部屋なんだね」
元貴は、自分の荷物が入った段ボールを床に置き、そっとベッドに腰を下ろしました。入学式のざわめきで疲れ切っていた心に、静かなプライベート空間の安らぎが染み渡ります。
「ああ。これからは、ここが俺たちの家だ。……とりあえず、他の場所も見ておくか? 涼架さんが言ってた『共用スペース』とか」
元貴の体調を気遣いつつ、滉斗は優しく手を差し伸べました。
二人は部屋を出て、まだ静かな寮内を歩き始めました。
談話室には、大きなソファとテレビがありました。まだ誰もいませんが、放課後は賑やかになりそうだと予感させる場所でした。「うるさくなったら、すぐ部屋に戻ろうな」と滉斗が元貴の耳元で囁きます。
大浴場では、「広いね……。ひろとと一緒に湯船に入れるかな」とはにかむ元貴に、滉斗は「時間は決まってるけど、一緒に行けばいいだろ」と少し照れながら答えました。
中等部棟と高等部棟を繋ぐ、全面ガラス張りの美しい回廊。
「あ、見て、ひろと! あそこ……」
元貴が指差した先には、中等部と高等部の境界にある「共用ホール」が見えました。そこは、さっき涼架が「ここで待ってる」と言っていた場所です。
ホールの自動ドアをくぐると、そこには高等部の制服を崩して着こなした涼架が、自動販売機の横で座っていました。
「おかえり、二人とも! 部屋はどうだった?」
「涼架さん! ……うん、すごく落ち着く部屋だったよ」
元貴が駆け寄ると、涼架は嬉しそうに目を細めました。
「それは良かった。中学生になるとね、勉強も部活も忙しくなるけど、ここに来ればいつでも僕がいるからね。あ、そうだ。この寮の自習室の奥にある席、あそこは一番音が響かないから元貴におすすめだよ」
涼架は、すでに4年間の経験で培った「学園内の静かなスポット」を熟知していました。
一通り探検を終え、夕食前のチャイムが鳴る頃。二人は再び204号室に戻ってきました。
窓の外は少しずつ夜の帳が下り、学園の街灯がぽつぽつと灯り始めています。
「……ひろと。僕、やっぱりここに来て良かった」
「ん? 急にどうしたんだよ」
元貴は、窓の外を眺める滉斗の背中に、そっとおでこを預けました。
「だって、学校でも、寮でも、ずっとひろとが隣にいてくれるから。……涼ちゃんも、近くにいてくれるし」
滉斗は振り返り、元貴の少し冷えた頬を両手で包み込みました。
「当たり前だろ。……さあ、荷解きしちゃおうぜ。お前の好きなぬいぐるみ、どこに置く?」
「あ、それは一番目立つところに置いて!」
二人の新しい生活。
それは、不安よりもずっと大きな「安心」に包まれて、静かに始まりました。
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