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「さすが、トワイライト様。もう、そこまでものに出来たんですね」
「はい。何となくつかめてきたので。もう一回やってみます」
神官の挨拶もそこそこに、私達は女神の庭園にやってきた。といっても、先ほどから魔法の練習をしているのはトワイライトで、ブライトは彼女に尽きっきりで教えている。まるで、私は空気のようで、彼は一度たりともこちらを振向きはしなかった。まあ、振向かれたとしても何て返せば良いか分からないし、笑えば良いのかといいたくなる。こんな形で会うことになるとは思っていなかったので、私も心の準備が出来ていなかった。もう少し冷静さがあれば、ブライトが神殿に来るだろうと予想できて、トワイライトと違うところに行くことだって出来たはずなのに。これは、完全に私の落ち度である。だから、落ち込むのは違うと、グッと奥歯を噛み締めた。
トワイライトは、楽しそうに魔法を学んでおり、私より性格に弓矢だって射れるし5つの魔法だって全て完璧に使いこなせている。私がウライトに教えてもらっていたときは、あんなに早く上達も出来ずに、ゆっくりとイメージを作りながらやっていたから何というか、やはりヒロインは違うなあと思ってしまう。
そもそも、トワイライトは聖女になる為に色々女神から助言をもらっているようだし聖女が出来ることは全て完璧に出来るのだろう。何も知らない、ゲームの知識しかない私とは大違いだ。
「お姉様、今の、見ててくださりましたか!?」
と、トワイライトは嬉しそうに私の方を振返った。私は考え込み下を向いていたため、彼女の魔法を見ていなかった。だから、反応に遅れてしまい、何度か瞬きをした。
「ご、ごめん、考えごとしてて見てなかった」
「もう、お姉様ったら。今度は見ててくださいね!」
「分かった。でも、ほどほどにね」
トワイライトは私の言葉を受けて、張り切って光の弓を引く。その姿は美しく様になっており、見とれてしまうようだった。ブライトが書いたであろう的にみごとその矢は命中した。それもど真ん中で。
「どうですか? お姉様」
「凄かった。私よりも正確だし、見とれちゃったよ」
と、駆け寄ってきたトワイライトに感想を伝えると、彼女は嬉しそうに飛び跳ねた。まるで、親に褒められた子供のようだなあ何て思って、彼女の頭を撫でてやれば、さらに彼女は上機嫌になった。やはり、ひな鳥みたいな子だと改めて思う。
そんな風に、トワイライトと戯れていると、ブライトがこちらに向かって歩いてきたため、私はトワイライトに乗せていた手を引っ込めた。
「エトワール様はやらなくて大丈夫なのですか?」
「何で? 今は、トワイライトの練習中じゃない」
そう、食ってかかったような言い方をすると、ブライトは少しだけ眉をひそめ、アメジストの瞳を細めた。
「トワイライト様は少し休憩を取った方がいいと思ったので。その間にエトワール様がやられてはどうかと思っただけです。見ているだけではつまらないでしょうから」
「……アンタがいないときにでもやるわ」
私がそう言うと、ブライトはさらに顔を歪めた。怒りというよりかは悲しみを含んだような表情に私は少しだけ胸を痛めた。ブライトには嫌われていると思ったから、少しきつめの言葉を使ってしまったが、それが返ってブライトを傷つけてしまっているのではないかと思ったからだ。もし、彼がまだ私のことを弟子だと思ってくれているなら、こんな言葉をかけるべきではないのだろうが。それでも、この間の星流祭のことを思い出すだけで、彼とのあいだに壁が見えてしまい、私は一歩を踏み出せない。
謝る気は無い。何も言ってくれないから。
私は、ふぅ……と息を吐いた。冷静にならないといけないと思ったからだ。怒りにまかせてぶつけてしまえば、ブライトにもトワイライトにもいい印象を与えることが出来ない。
「ですが、魔法も使わなければ鈍ってしまいます。いくら、聖女とはいえ、そこは普通の人間と変わらないはずです。ですから」
「トワイライトは完璧ですぐに何でも出来るかも知れないけど、私はそんな簡単に何でもできる女じゃないの。アンタだって、私を教えていて分かってるでしょ。彼女との差を。私は、トワイライトの前でかっこわるい姿を見せたくないの」
半分嘘で半分本音だった。
トワイライトの前でかっこわるい姿を見せたくないと。それは本当であり嘘だ。彼女との差を自分の目で見たくないから。トワイライトが魔法に長けているは知っている。私よりも上手くて、才能があるのも今見て分かった。
私は、魔法を使い始めた当時、聖女だって自惚れていたのかも知れない。魔力量が人よりあって、水の魔法を出すときに滝がでたこと。それで褒められて、自分は凄い魔法使いだって思ってしまったこと。でも、トワイライトを前にしたらそんなの彼女だって出来るだろうって思ってしまった。だから、私はトワイライトの前で魔法を使いたくない。
同じ聖女でも、やはりヒロインには叶わないのだ。
それを、いつも察してくれる彼なら分かってくれると思っていたのに、ふってきた言葉は私にとって都合の悪いもので。
つい八つ当たりをしてしまい、口を咄嗟に塞いだ。最近同じようなことばかりで自分でも嫌になる。でた言葉が戻るわけではないのに。恐る恐る顔を上げれば、トワイライトは心配そうな表情を浮べているし、ブライトもしまったとでも言うようなかおをしていたから私は、何も言えなくなった。分かっているなら初めからそんなことを言わないで欲しい。
「…………調査の事聞きました。それで、まだ傷が完治していないようでしたら、先ほどの言葉はすみません。完全に失言でした」
と、ブライトは先ほどの言葉は自分に非があると謝ってきた。
しかし、どうしてか私の心は晴れなかった。彼は、調査のことを知っていた。まあ、そりゃそうだろうと思っていたが、それを気にして声をかけたのが今だったのだ。もっと、先に声を、その話題を振ってくれてもよかったんじゃないかと思ってしまった。我儘かも知れないけれど、心配して欲しかった自分がいた。
あの調査のこと、本当に辛かったし、今でもたまに悪夢に魘される。人が目の前で食い殺されていく姿や、トラウマを強制敵に呼び起こされて、リースが庇って致命傷を負ったこと、皆皆私が悪いって攻めだしたこと。それら全て。
私は、思い出したくもないし、もっと心配して欲しかった。
あの調査以来、私の評価はぐんと下がった。だから、もしかしたらブライトは口にしなかったのかも知れないし、私への不信感を積もらせていったのかも知れない。彼は、闇魔法の者を差別しない珍しい(それが普通であって欲しいが)人間だから、アルベドと私が一緒にいても何も言わないだろう。でも、闇魔法の者が助けに来た。そうして、ヘウンデウン教と繋がっていることを知って、そんなアルベドと仲がいいようにみえる私に対して何か思うのは至極当たり前のことだろう。
だからか、私と距離を置いているのだろうか。彼もまた、自分の立場が悪くならないように。
「何で」
「え?」
「何で、その事を初めに気にかけてくれなかったの? 私、もしかしたらあの時死んでいたかも知れないのに。リースが……皇太子殿下が助けてくれたから生きていた物の、死んでいたかも知れないのに。教え子の私のこと、どうでもよかったのかなって」
「それは――――」
ブライトは、慌てて声を上げた。つい、感情が高まって私はぽろりと口にしてしまった。心配して欲しかったって、言ってしまった。ブライトは困ったような表情を浮べていた。やはり、私は教え子でも何でもないのかと。
私は続けて口を開いたが、それよりも先に私は抱きしめられた。身体の中心が温かくなるのを感じ、目を見開けばトワイライトが私を抱きしめていたのだ。
「トワイライト?」
「お姉様……お姉様が悲しい顔をしていらしたので」
「え……えぇ」
何か言いたいのに言葉がまとまらなかった。出てくるのは母音ばかりで、何故彼女に抱きしめられているのかすら理解が出来なかった。でも、彼女は私が彼女をあやしたときのように優しく私の背中を撫でてくれて、大丈夫です。と何度も繰り返し囁いた。その言葉だけでうるっときてしまい、私は彼女の背中に手を回して抱き返した。
「お姉様に何があったかは知りません。その調査?というのも、お姉様は思い出したくないようにも見えます。ですから、私は聞きません。ですが、悲しいときは辛いときは辛いって言ってくれて良いんですよ。私でよければ話を聞きますし、側にいますから」
と、まるで、ヒロインに愛の言葉を囁くヒーローのような言葉を口にしてトワイライトは私を強く抱きしめた。
それまでため込んできたものがスッと消えていくような、吸い取られていくような感覚になり、私は目を閉じた。まるで心が浄化されるように。
それから暫く彼女の胸の中で呼吸を落ち着かせてから、トワイライトの肩を優しく叩いて離れた。ずっとこうしているわけにも行かないし。
「ありがとう、トワイライト、落ち着いたわ」
「よかったです。また、いつでも私に飛び込んできてもらっていいですからね! 何度だって、お姉様を抱きしめます」
「はは……いつでもって、時々ね」
そう返してやれば、少し残念そうにトワイライトは眉を下げた。そんな表情さえ愛おしく見えてしまうのだからもう重傷だと私は思う。
(さてと……)
私は落ち着きを取り戻し、ブライトの方を見た。彼はビクリと方を動かし、身構えたように顔を強ばらせた。
私も逃げているばかりじゃいられない。グランツとはこの間諍いを起こしたばかりだから、まだ話しかけにいける自信はないけれど、ブライトは結構時間が経っているし、それなりに頭を冷やす時間は合ったと思う。
「まずは、謝らせてブライト。ごめんなさい。当たってしまって……アンタは悪くないのに。それと、聞きたいことがあるの、星流祭の時のことについて」