あたしは今日、山奥の秘湯にやってきている。
この場所はネットの掲示板でたまたま見つけたものだった。へー、そんなところにも温泉があるんだ、と思って調べてみたけど、他に情報はまったくでてこなかった。地元の人だけが知っている温泉とのことなので、まだ全然知っている人がいないのかもしれない。書き込んだ人は、祖父母がその地元の人だそうで、それで知ったのだという。
ガセネタかも、とも思ったが、まあもともとあたしは秘湯めぐりが趣味なので、一応確かめてみることにしたのだ。もし本当だったら、まだほとんどの人が知らない温泉入れるというのはなかなか心魅かれる。
そんなわけで、あたしはこうして秘湯を目指して山を探索中なのだ。
「本当にこんなところに温泉があるのかな」
そんな独り言を言いつつ、山道を歩く。
「うーん……獣道?」
しばらく歩いていると、急に道が細くなってきた。
「え、これ、大丈夫なの?」
不安になったけど、戻るのもいやなのでそのまま進むことにする。道はますます細くなり、もはや人がひとり通れるくらいの幅しか残っていない。
おまけに険しい。なんだか本当に道が合っているのか心配になってきた。
しかも山の奥深くで木々が鬱蒼と生い茂っているせいで、だんだん暗くなってくる。これ本当に大丈夫かな、と思っていたら、前方に光が見えた。
その光に向かって歩くと、急に視界が開けた。
目の前に広がる光景を見て、あたしは息をのんだ。そこには、木々に囲まれた、こんこんと湧き出る温泉があった。
「すごい……」
あたしは感動してつぶやいた。ネットの掲示板で見つけた情報に間違いはなかったようだ。
あたしはさっそく服を脱いで裸になると、温泉に入った。少し熱めだけど気持ちいい。それになんだか肌がすべすべになった気がする。そんなふうに温泉を堪能していると、ガサッと背後で音がした。地元の人が来たのかとあわてたが、振り返ると、そこにいるのは猿だった。
「なぁんだ、猿か。君たちも温泉に来たの?」
と、思わず話しかけてしまった。……けど、猿ってけっこう凶暴じゃなかったっけ。襲われたらやばいかも。
「あ、あの……。あたしもう出るから」
そう言って温泉を出ようとすると、猿たちは私の脱いだ服を手に取った。
「あ、ちょっと!」
驚いたあたしはそう呼びかけたけど、猿はまったく意に介せず、そのまま服を持って逃げてしまったのだ。(続く)