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「だ、だからっ。私の後ろを歩くのは無しですっ」
チュニックの下にレギンスを履いているとはいえ、その中はショーツなしだ。
背後から大葉に見詰められるのはやたらと照れ臭いと思ってしまった羽理だ。
「ブランケットを巻き付けてんだから……俺がどう頑張ったって見えやしねぇだろ」
「がっ、頑張らないで下さいっ!」
「いや、今のは言葉の綾だ。別に見えたらいいなぁなんて期待してるわけじゃないとも言えないわけじゃないが……ややこしくなりそうだから一応ないってことにしておけ!」
「なっ、何なんですか、それっ! 意味分かんない!」
「俺にも分かんねぇよ!」
羽理のアパートから少し離れたコインパーキングにエキュストレイルを駐車した大葉と二人。
一〇〇メートル足らずの距離をギャイギャイ言いながら少し距離をあけて一緒に歩く。
途中、一〇段ばかりの階段に差し掛かった時、「こ、ここだけは私が前にっ!」と数段下にいる大葉を追い抜かそうとしたのだけれど。
「何でだよ」
下から見上げるように振り返られて、羽理は「ひっ!」と声にならない悲鳴を上げる。
マントのように羽織ったブランケットは、歩きやすい様に前のところが二つにパックリ割れていて。
下から見上げる形になった大葉からは、チュニックの下に履いたノーパン薄々生地のレギンスが足の付け根まで丸見えになっていた。
薄っすらと、羽理の秘めやかな場所の縦筋が目に入ってしまった大葉は、慌てて前を向いて。
「なっ、何でブランケット、ぐるぐる巻きにしてないんだっ!」
と抗議した。
文句を言うや否や、大葉がグッと前かがみになったところをみると、何やら股間の辺りに〝障り〟が生じてしまったらしい。
「た、大葉のエッチ!」
「お前が見せつけてくるからだろうが!」
「見せつけてません!」
耳まで真っ赤にして「被害者は俺の方だ……」とかブツブツ言う大葉を追い抜かして先に下まで降りた羽理は、ふと前方に見える鳥居を視界の端に収めて何の気なしにつぶやいた。
「あそこに見える居間猫神社のお祭り、結構出店が出て盛況なんですよ♪ やたらと焼き何とかが多いんですけどね」
大葉が階段の上の方から「出店に焼き何とかが多いのは普通だろ」と突っ込むのをクスクス笑いながらスルーした羽理だったのだけれど。
鳥居の先に三毛猫が悠々と歩いて行く姿を見つけて、ハッとしたように足を止めた。
「そう言えば私、そのお祭りで……」
***
羽理がそこまで言って固まってしまうから、やっと下腹部の興奮がおさまってきた大葉は、いそいそと羽理の横へ並んで彼女の顔を覗き込んだ。
「その祭りで……何だ?」
早く先を話せと急かしたつもりだったのに、「いっ、いきなり距離を削って来ないで下さいっ」と羽理が悲鳴のような声を上げるなり胸元を押さえて飛び退って。
羽織っていたブランケットのすそを踏んでよろけてしまう。
「危ねっ」
咄嗟のことに、羽理の非難も忘れて慌てて彼女の細い手首を掴んで腕の中に引き寄せた大葉だ。
常に何かしゃべっている印象の羽理が大人しくなったことを疑問に思って腕の中を見遣れば、真っ赤になって固まっている羽理が目に入ってきた。
(やべぇ。めちゃくちゃ可愛い……)
羽理を茹でダコみたいに真っ赤にしてしまっているのは、きっと自分に他ならないんだと思うと愛しさが五割増し、いや百倍増しになるなとニマニマが止まらなくなってしまった大葉だ。
「あ、あのっ、……う、腕を……」
放して欲しいと、消え入りそうな声音でゴニョゴニョ訴えてくる羽理を、わざとギュゥッと腕の中に一層強く抱き込んで。
「なぁ、羽理。ひょっとしてお前、今、すっげぇ心臓バクバクしてる?」
分かっていて意地悪く問い掛ければ、コクコクと必死にうなずいてくる。
「そっか……」
大葉は小さく吐息を落とすと、「俺もだ」と同意して、羽理の耳を自分の胸元に押し当てさせた。
「――な?」
「だ、だったら……」
なおのこと離れましょうと言いたげな羽理をじっと見下ろして、大葉はふっと柔らかく微笑んだ。
「はぅっ」
途端腕の中の羽理が心臓を撃ち抜かれたみたいに小さく悲鳴を上げるから。