テラーノベル
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くみちょうがまた仕事に行って、次の日の朝、起きたら目の前にりょうたの顔があった。ものすごく驚いた。起きたばっかりだったから、大きな声は出なかったけど、りょうたの黒くて大きい目と自分の目が合って、心臓がひゅってなった。
りょうたは、俺が寝てた布団の上に手をついてるんだけど、りょうたの腕は短いから、顔がものすごく近かった。
「…りょうた、おはよう」
「ふんっ!」
俺は起き上がって、布団の上に座った。
そしたら、りょうたが腕と足を動かして、俺の膝の上に登ってきた。上から見てると、芋虫がもぞもぞ動いてるみたいに見えたけど、ちっちゃい体で「ふみゅ、ふぅっ」って息を吐きながら近付いてくるから、面白かったし、かわいかった。
俺は、足の上まで登りきったりょうたを抱っこして、立ち上がった。
ーー朝は、みんなにおはようって言う。
あべちゃんと約束したあいさつってやつを、ちゃんと守るために、みんなをりょうたと一緒に探しに行った。
「こうじ。おはよう。………?」
だいどころに行ってみたけど、こうじはいなかった。
ここじゃないところにいるのかもしれないし、他のみんなのところにも行かなきゃいけないから、俺はだいどころを出て、ふっかの部屋に向かった。
「ふっか。おはよう。…声聞こえないね。」
「…ぅぁ?」
ふっかの部屋の前で、あいさつをしてみたけど、ふっかの声は聞こえなかった。
次は、あべちゃんを探しに行った。
「あべちゃん、おはよう。俺、起きたよ。」
前に、あべちゃんが入って行った部屋の外からあべちゃんを呼んでみたけど、やっぱりあべちゃんの声は返ってこなかった。
「らうーる。どこ?」
「ひかる、おはよう。…あれ?」
「さくま。りょうたも起きたよ。…いなかった。」
「めぐろ。…いない。でかけたのか?」
広い家の中で、誰も見つけられなくて、ちょっと怖くなったけど、寒かったから、こたつにりょうたと入ろうと思って、家の真ん中にある、広いあの部屋に行った。
「りょうた、こたつの部屋に行こう。さむい。」
「うみゅ!」
廊下の角を曲がると、こたつがある部屋からいろんな人の声が聞こえてきた。
「誰かそっち付けて!」
「岩本くん、僕やるよ!」
「ラウの高身長マジ助かる」
「佐久間くん届く?肩車してあげよっか?」
「ぉぉい!踏み台あるわ!」
「必要なもの全部揃ったね、めめ、これ包んでくれる?」
「了解。……あれ?阿部ちゃん、リボンってどうやって結ぶの…?」
「もう、、貸して?」
「教えて教えてっ」
「めめ近い!離れて!」
「…はーい。」
「張り切ってケーキ作ってもうた。朝からケーキは重たいなぁ…夜まで保つやろか」
「まぁ、大丈夫でしょ。冷蔵庫に入れとけば」
「料理絡みでふっかさんから言われる「大丈夫」ほど怖いもんないわ。」
「すごいナチュラルにディスってくんじゃん。」
みんな、なにしてるんだろう。
俺は、部屋の外でみんなの話を聞いてたけど、寒かったし、ずっとここで内緒で聞いてるのも変な気がしたから、部屋を閉じている板を横にすーっと引いて中に入った。
「みんな、おはよう。」
朝のあいさつをしたら、みんなが俺とりょうたの方を見てから、びっくりしたみたいな顔をして、
「「「あ」」」
と言った。
部屋の中には、いろんな色があった。
紙の輪っかとか、花みたいな飾りとかが、壁にいっぱい付いてた。
机の上には、白と赤の丸くてでかい食い物が置いてあった。
部屋の中に入っても、みんなが何をしてるのかよくわからなかったから、聞いてみた。
「なにしてんの?」
「あ、えっと…」
阿部ちゃんが焦ったみたいに何か俺に言おうとしてたけど、何も言わなくて、あべちゃんの横からふっかが顔を出して、「まぁ、起きちゃったんなら、それはそれでいいじゃない。始めようよ」ってあべちゃんに言ってから、俺を呼んだ。
「翔太」
「なに?」
「改めて、この屋敷にようこそ。それから、入学おめでとう」
「「「おめでとー!」」」
…?
おめでとうってなんだ?「にゅうがく」ってなんだ?
言葉の意味も、この部屋で起きてることも、全部よく分からなくて、頭を右に傾けた。
みんなは、俺とりょうたの前に並んで立って、順番に話し始めた。
「このお家に来てくれてありがとう!僕、しょっぴーにいろんなこと教えてあげるからね!」
「俺とめめで、翔太をもっと強いやつにするよ!」
「しょっぴーなら、今以上に強い男になれると思うよ。」
「強くなるには筋肉も必要だし、筋トレも教えてあげる」
「この家のオカンこと、向井康二が坊のお世話のこと、なんでも教えたる!なんでも聞いてや!」
「これから、いろんなこと知っていこう?言葉も、気持ちも、全部。」
あべちゃんまで喋り終わったあと、ふっかがまた、俺を見て言った。
「勝手にだけど、みんなで翔太にいろんなこと教えられたらって思ってる。ここは、翔太の家で、翔太の学校で、翔太の居場所だよ」
「がっこう?」
「学校は勉強する場所で、学校に入ることを入学って言うんだよ!」
ふっかが言ったことの中で、わからなかった言葉を繰り返したら、らうーるが教えてくれた。
がっこうってものを知らないけど、今日からみんなと、べんきょう?をするらしい。
「わかった」って、言おうと思ったけど、なんだか違う気がした。
俺のことを考えて大事にしてくれるのが、うれしかった。 みんながいくれて良かったって思った。そういう時に言う言葉は、きっとあれだ。
「ありがとう」
俺がそう言ったら、みんなはニコニコ笑っていた。
言われても、言っても、この言葉はまるくてあったかい気持ちになるみたいだ。
りょうたが喋れるようになった時は、俺が教えてあげようと思った。
「これは、俺たちから翔太に。開けてみて?」
あべちゃんが、俺に空の色をした袋を渡した。
座って、りょうたを隣に座らせてから受け取った。
紐を引っ張って中を見てみると、たくさんの棒と、紙の束がいっぱい入っていた。四角くて白い塊も出てきた。
「なにこれ?」
「鉛筆、クレヨン、ドリル、スケッチブック、消しゴム、定規、その他、勉強に使うものだよ。」
「これ俺が使っていいの?」
「翔太が使うために買ったからね」
「そっか。」
こうじも俺の前に、白と赤の丸い食い物を出した。
「お祝いにはケーキや!しょっぴーの入学祝いに作らしてもらったで!」
「けーき?」
「おん、甘くてうまいで!今日の夜ご飯の後にまた持ってくるわ!」
「うん」
あべちゃんがくれた俺だけのものも、こうじが作ってくれたけーきも、いろんな色でいっぱいになったこの部屋も、全部、俺のためにあって、それはなんだか、俺を変な気持ちにさせた。
心があったかい。口が勝手に、どんどん上に上がっていく。
「翔太、嬉しそうだよ!」
「ほんとだね」
さくまとひかるに顔を見られるのが、今はなんだかちょっと嫌で、こたつの布団で隠した。
「見るな」
「かわいい!照れてる!」
「嬉しいクセに、ツンデレか?」
「ふっか、うるさい。」
「にゃはははは!!翔太もふっかの扱い、俺たちとおんなじになってきてる!」
「なんでだよ…まぁ、いいけどね。じゃあ、早速始めようか。阿部ちゃんとラウ、朝ごはん食べ終わったあと、よろしく」
「了解」
「はーい!」
朝ごはんを食べ終わって、りょうたのみるくの時間も終わった後、あべちゃんとらうーるに着いていくと、「俺たちの仕事部屋でごめんだけど、ここでやろっか」ってあべちゃんが言って、みんなで部屋の中に入った。
「まずは、鉛筆持ってみるところから始めようか」
「えんぴつ」
「さっき、渡した中に入ってる棒、持ってみて?」
「こう?」
俺はさっきもらった袋の中に入ってた棒を、 掴むみたいに持ってみた。
「お箸持つ時みたいに、こうやって持つんだよ!」とらうーるが教えてくれた。
おはしは、まだ全然難しいけど、らうーるが見せてくれた通りに持ってみた。やっぱり慣れなくて、手が気持ち悪かった。
「そうそう、上手。その持ち方のまま、紙に好きなように書いてごらん?」
「わかった」
あべちゃんに渡された白いかみ?の上を、ぐちゃぐちゃに黒い色でいっぱいにしていった。
手を動かすと、その通りにかみが黒くなっていくのが面白かった。
「じゃあ次は、クレヨン持って絵描こう!しょっぴー、このパンダ描いてみて!」
らうーるが渡してくれた、短い棒を持って、あべちゃんの机の上に置いてあった白と黒の体をした生き物のえを書いていった。
「できた。……なんだこれ?」
丸を描いて、黒いところを塗り潰して、見た通りに書けたと思ったけど、出来上がったのはお化けみたいなやつだった。
「すごいね。画伯だ。」
「キャハハ!しょっぴーの絵面白い! 」
「これおもしろい。もっとかく。」
あべちゃんとらうーるの部屋の中にあったもので、目に入ったものをたくさん書いていった。
俺が変なえを書くたびに、あべちゃんとらうーるは笑ってた。気が済んで、くれよんを机の上に置くと、あべちゃんは、俺が書いたぱんだのえを束からちぎって、「これ、飾ろうか」って言った。
「鉛筆の持ち方にも慣れたところで、次は字を書こうか」
「僕が教えるよ!しょっぴー、書いてみたい字はある?」
「りょうたの名前書きたい」
「いいよ!平仮名はこうやって書いて、漢字はこうやって書くの!」
らうーるが書いてくれた字を見ながら、真似して書いた。
音で覚えていたものを、字で書いてわかるようになった。
みやだてりょうたは宮舘涼太って書くんだ。
「みんなの名前もかく。教えて」
「いいよ!じゃあまず僕ね!」
らうーるは、ラウールって書く。
あべちゃんは、阿部ちゃん。こうじは康二。さくまは佐久間。ひかるは照、てるって読むってラウールは言ってたけど、これでひかるって読むんだって。めぐろは目黒、ふっかは平仮名で書くけど、辰哉って漢字も教えてもらった。
「しょっぴーの名前は、こうやって書くんだよ」
最後に、俺の名前もラウールが書いてくれたから、真似して書いてみた。
ラウールみたいに綺麗な字じゃなかったけど、自分の名前が書けるようになった。
楽しくて、手が痛くなるくらい、ずっと何回もみんなの字を書き続けた。
名前が書けるようになったあとは、最近覚えた言葉の文字を全部教えてもらった。
みるくはミルクってカタカナで書くんだって。
ほにゅうびんって漢字は、少し難しかったけど、哺乳瓶って書くって知った。
おはしは、お箸って書く。
すぷーんは、スプーンって書く。
べんきょうは、勉強って書く。
部屋の前にある板は、ふすまって言って、襖って書くんだって。細かくて難しい字だった。
こたつのある部屋は、居間って言うんだって。
自分が知らないことを知っていくのは、面白かった。
阿部ちゃんとラウールと勉強してたら、康二が部屋に入ってきた。
「みんな、ご飯やで!」
「わ!もうそんな時間だったんだ!康二くんありがとう!」
「じゃあ、今日はここまでにして、この続きはまた明日ね」
「うん。阿部ちゃん、ラウール、ありがとう。」
「わぁん!しょっぴーがありがとうって言ってくれた!嬉しい!」
「別に。そう思ったから言っただけだし…」
居間に戻ると、みんながこたつの周りにもう座っていて、俺たちが座ってからみんなで「いただきます!」って言って食べ始めた。
ご飯を食べる時は、いただきますって言うみたい。
俺も小さく「いただきます」って言ってから、スプーンを握った。
いつまでもできないのは悔しいから、少しだけお箸の練習をしてみたら、一個だけ食べ物を掴めた。
「ラウール、見て。掴めた。」
「すごいね!上手になって来てる!」
「もっと掴めるようになったら、今度は俺が涼太に教える」
「ありがとう、かっこいいね。」
「別に。」
…褒められると、むずむずする。
ご飯を食べながら、涼太にミルクをあげて、少し経ったら涼太は寝ちゃったから、居間にある四角くて小さい布団みたいなやつの上に涼太を寝かせた。
涼太が寝てる顔を見てたら、俺も眠くなってきたけど、俺の横で佐久間が、「翔太!午後は俺と特訓だ!」って叫ぶからびっくりして目がぱっちり覚めた。
「とっくん?」って聞き返したら、目黒が「しょっぴーがもっと強くなれるように、戦う練習しよう」って言った。
俺は、「わかった。」って返事してから、康二に「涼太置いてって大丈夫?」って聞いた。康二は、 「俺が見とるから、安心して行ってき!」って言ったから、佐久間と目黒に着いていった。
廊下を歩いて、草みたいな色の床の部屋に着いた。
「ここが武道場ね」
「ぶどーじょー」
「そう!俺たちの特訓場だー!」
「なにするの?」
「まずは佐久間くんと手合わせかな」
「おっしゃ!どっからでもかかってこーい!」
「わかった」
俺は、今まで一人で生きて来た時にやってたみたいに、佐久間に向かってまっすぐ突っ込んで行って、思いっきり腕を振りかぶった。
だけど、俺の腕は佐久間に当たった感じがしなかったし、勢いをつけて走ったから止まれなくて、壁にぶつかった。
「いて」
佐久間が消えたみたいだった。
振り返って佐久間を探したら、いつものふにゃ?けろ?っとした顔で俺を見てた。
「すげぇ。佐久間早い。もう一回やる」
「いいよ!何回でもどんとこーい!」
今度は足だ。
俺の方が背が低いから、佐久間のバランスを崩そうと思って、低く突っ込んで行ったら、佐久間は後ろに飛びながら体を一回転させて着地した。
「どうやってやったの?俺もやりたい」
「それはまた今度ね!翔太の戦い方は荒々しくて強いねー!まだまだ良くなるところがいっぱいありそう!それと、奪ったり壊したりするためじゃなくて、与えて守るために強くなっていこう!」
「守る?」
「そう!誰かから奪うためじゃなくて、坊を守るために、これからはその拳を使ってあげて。」
「わかった。」
「よし!じゃあもう一回だー!」
誰かを傷付けるためじゃない、自分以外の誰かを守るため。佐久間の強さは、涼太だけじゃなくて、この辺に住んでる人たち全員のためにあるような気がした。佐久間は俺みたいに誰かをボコボコにしたり、怪我させたりしない。俺の拳を全部受け止めて、受け流していく。
優しいのに強かった。
俺もこんな風になりたいと思った。
ずっと佐久間を追いかけ回して、突っ込んで行ってを繰り返したけど、何回やっても佐久間に俺の手は掠りもしなかった。すばしっこくて、軽々飛んで、かわして、走ってた。俺は、そのうちに疲れてその場に寝っ転がった。
「およ?疲れちった?」
「うん。疲れた。佐久間に全然触れなかった。悔しい。俺、もっと強くなる。」
「いい動きだったよ!翔太なら絶対もっと強くなれる!」
「今度は目黒もとっくんしてくれんの?」
「まずは佐久間くん倒してからね」
「うん、すぐに倒す」
「なにぃー!そう簡単には負けないかんな!」
まだ起き上がれそうになくて、俺は転がったまま、「目黒、佐久間。ありがとう」って伝えた。
二人は目を合わせてから、俺に
「どういたしまして!」と言って笑った。
夜ご飯の時間になったから、目黒と佐久間と一緒に居間に戻ったら、涼太が起きてて、ラウールと遊んでた。
「ぁう!きゃぅ!ぁきゃきゃっ!」
「坊かわいい〜!よいしょぉっ!」
でかいラウールが涼太を抱っこして、軽く上に投げてキャッチするのを繰り返してる。
涼太もラウールも楽しそうだった。
「ラウール、俺もそれやりたい」
「ぅお!しょっぴーおかえり!いいよ!おいで!」
ラウールの近くに行くと、ラウールは俺の両方の脇を掴んで持ち上げた。
「ぇっ、ちがう、っおれが涼太もちあげるの…」
「いいからいいから!せーのっ!」
「ちょっと、ラウール…っ、うわぁあぁあぁっ!?」
ラウールは、俺が投げられたいと思ったみたいで、何回も何回も投げられてキャッチされた。上に上がって下に落ちるたびに、お腹の中がふわふわする変な感じが、だんだん楽しくなってきて、気付いたら俺は、涼太みたいに笑ってた。
「ぅはっ、ぁははっ、ラウール、もういいってば、ぁははぁッ!」
「キャハハ!しょっぴーが笑ってくれた!嬉しい!」
「そろそろご飯にすんで!…お?なんや楽しそうやな!」
「俺もやりたい。」
「照兄がそう言うん珍しいなぁ、ご飯食べ終わったらみんなでやろか!」
「じゃあ、みんな座ってー。はい、せーの」
ふっかの掛け声で、みんなで手と声を合わせた。
「「「いただきまーす!!」」」
「んきゃぁ!」
初めて食べたけーきは、甘くて酸っぱくて、うまかった。
ご飯を食べたあとは、照が涼太を抱っこしながら、俺を腕にぶら下げてくるくる回って遊んでくれた。
声を出して笑ったのは、今日が初めてだった。
居間の壁には、ぴかぴかの四角い木にはまった、俺のぱんだのえが掛かってた。
続
コメント
8件
額縁にあのパンダがwww
この家族感すごく微笑ましい☺️✨