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#性悪聖女
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静まり返った森の奥。
風すら止まり、音が消えた世界。
その中心で――
一人の少年が剣を振っていた。
ヒュン――ッ
速い。
鋭い。
無駄が一切ない。
踏み込み、振り抜き、納刀。
すべてが一瞬。
まるで――
戦場を生き抜いてきた者の動き。
少年の名は、唯我。
だがその剣の裏で――
“何か”が蠢いていた。
――血の匂い
――泣き声
――倒れる影
「……っ」
フラッシュバック。
断片的な記憶が、脳を焼く。
幼い自分。
崩れる日常。
消えない過去。
ピタッ
剣が止まる。
「……またかよ」
荒く息を吐く。
額の汗をぬぐう。
消えない。
忘れられない。
“あの日”は。
――ザッ
その時。
静寂を破る音。
足音。
ゆっくり、確実に近づいてくる。
唯我の目が変わる。
一瞬で戦闘態勢。
「……誰だ」
木の影から現れたのは――
黒いスーツの男。
「なかなかいい動きしてんじゃねぇか」
軽い口調。
だが隙はない。
唯我、即座に剣を構える。
「……答えろ」
男はポケットに手を突っ込んだまま言う。
「ORVASだ」
「……?」
「畑中。覚えとけ」
数歩、前へ。
「お前をスカウトしに来た」
間。
「世界、救う気ねぇか?」
沈黙。
そして――
「……興味ない」
即答。
「帰れ」
冷たい拒絶。
畑中、苦笑。
「まぁ、だろうな」
それでも止まらない。
一歩、また一歩。
「じゃあ質問変えるわ」
唯我の視線が鋭くなる。
「もし、お前の“過去”を知ってるって言ったら?」
空気が変わる。
「……何を知ってる」
低い声。
殺気が混じる。
「全部じゃねぇ」
「だが――」
「お前が探してる奴のことは知ってる」
ピクッ
呼吸が乱れる。
剣を握る手が、わずかに震える。
「……どこだ」
畑中は答えない。
ただ笑う。
(やっぱりな)
(こいつは“力”だけじゃねぇ)
(消えねぇ怒り)
(折れねぇ心)
(誰も信じねぇ孤独)
(だが――)
(だからこそ、仲間で化ける)
「知りたきゃ、ついて来い」
静かに言う。
「仲間になるなら、探すの手伝ってやる」
沈黙。
風が木々を揺らす。
唯我は動かない。
ただ、睨み続ける。
数秒。
いや、数十秒。
そして――
カチッ
剣を鞘に納めた。
「……信用したわけじゃない」
畑中、鼻で笑う。
「上等だ」
背を向けて歩き出す。
唯我は無言でついていく。
一人で戦い続けてきた剣士が、
初めて“誰かの後ろ”を歩いた瞬間だった。
孤独な剣。
その切っ先が向かうのは――
世界の命運。
影は、さらに集い始める。