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侍女は、主の心の内を見て取ったのか、
「よろしいですか?諸葛亮の言うように、呉の女は、と、蜀《ここ》の、男どもに笑われているのなら、それは、呉が、各下扱いされているということです。たとえ、姫様が、正室となられていても、私共が笑われては、姫様及び呉の恥になりましょう。ですから、こうして着飾っておるのです。どうやら、劉備も、近々、こちらへ足を向けるとのこと、姫様も、女の意地をお見せなさいませ!」
と、執拗に叱咤した。いきなりの言われように、孫朗は信じられないと、ばかりに侍女を見る。
今さら、しおらしく蜀《ここ》の人間になれと言うのか。まるで、寝返ったかのような侍女の態度に苛立ちを覚えた孫朗は、さらに、声高に言い放った。
「何を調子の良い事を!劉備とは、形だけの夫婦《めおと》じゃ。そうゆう約束で、私は、ここへ下ったのだ。そうでなければ、30も年の離れた男の元へなど!」
「……まったく、もう、お忘れですか?兄王様の策を!」
言われて、孫朗は、はっとする。
「それは……」
「ですから、いえ、それを叶える為に、姫様は、孫朗、ではなく、母君がお好みあそばれた、尚香の名をお使いなされませ」
少しでも、耳障りの良い通り名を名乗れと侍女は念を押して来た。
「……しかし……劉備は、私の名を知っておる」
ホホホと、侍女は笑った。
「そのようなこと、どうぞ、尚香と、お呼びください。と、言えばよろしいだけではないですか。そもそも、夫婦の契りを結ばないというのも、姫様の御希望でしたでしょ?劉備は、それをすんなり、受け入れたのですよ?」
「……」
「30の歳の差を気になさるなら、むしろ、それを利用なされませ。劉備が、すんなり受け入れたのは、姫様との歳の差を考えてのこと。若い姫君へ無理は通せぬと、劉備は折れたのです。そう、所詮は、男」
侍女は続ける。男を操るには、女に、なれと──。
「……確かに、諸葛亮も言っていたな……」
女々しい、弱々しい、そんな、姿にはなりたくなかった。しかし、と、孫朗は思う。
兄王に託された事を成し遂げるには、侍女の言うように、孫夫人にならねばならぬのだ。ここは、尚香となって、劉備を──。
「わかった。お前達は、お前達のやり方で、ここを攻めよ」
「御意」
侍女達は、うら若き主人へ期待を向けて頭を下げた。