テラーノベル
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『…どうか……どうか頼む…!……だけは…!』
「ハッ…!……。………。」
久しぶりにあの夢を見た…何年ぶりに見たのだろう。
確か、小学生の時に一度見たきりだ。この夢を見るたび、胸が苦しくなる…。あの件が少しでも動けばいいのだが…。
ふと、目覚まし時計を見ると針はいつも起きる時間より20分も過ぎていた。
!!今日は始業式だった。私としたことが…考え事をして時間を忘れていたとは…。
…とにかく急いで学校に行く準備をしなければ。
バタバタと準備をし終えて、急ぎ気味で食事部屋に向かうと、何時ものように椅子に座り、珈琲を飲みながら新聞を読んでいる父と、朝食をテーブルに並べている母がいた。
「おはようございます、父上、母上。」
「…珍しく遅れたな。ちゃんと疲れは取れているのか?」
「あら、おはよう琴美ちゃん。ここ最近、ちょっぴり頑張り過ぎてて疲れが取れてないのかしら?無理はしたらだめよ…?」
「あ、いえ…申し訳ありません、父上、母上。」
何時ものように、母上にその呼び方はやめてもらえると嬉しいと言っているが、母上の表情をみて、言う気も起きなかった。
母は心配そうな顔をしてこちらをそっと見つめているのに対し、父は新聞から少しだけ目を離し、ちらりとこちらを見て新聞に目を向けた。父は分かりにくいが、心配しているのが伝わってくるため、少し申し訳なく思った。
心配そうにしていた母の顔がパァっと笑顔に変わり、嬉しそうな声でこう言った。
「でもね、琴美ちゃん!今、ちょうど朝ごはんが出来た所だったの!よかったわ!今日は自信作だから、琴美ちゃんとお父さんには出来たてを食べてもらいたくって…!」
テーブルを見ると、小さなお皿にはミルクパン、メインの皿にはオムレツ、サラダ、コンソメスープにデザートにフルーツの入ったヨーグルトと、何時もよりかなり豪華な朝食が並べられていた。母上はいつも、家族のご飯を作りたがる。こちらも仕事なので…と、我が家のコックに止められていたのをどうやって説得したのかが頭によぎった。
メインのオムレツはいかにもレストランで出てくるとろっとしたものなのだろう、キラッとした鮮やかな黄色が物凄く食欲をそそる。眺めているうちに、テーブルには全員分の朝食が並んだ。
「さぁ、みんな食べましょう。」
頂きます、と全員で言い終えると私は最初にミルクパンを口に運んだ。ほんのりとした甘さとふわふわの食感が口の中に広がった。
「凄く…美味しいです。」
「ふふっ。琴美ちゃんに喜んでもらえてお母さん、凄く嬉しいわ。パンはまだおかわりもあるわよ。」
父上は何も言わないが普段と比べて食べるペースがかなり早い…。よっぽど美味しかったのだろうな…。と、いうことが父上の様子を見ているだけでひしひしと伝わってくる。
母上は嬉しそうに笑みを浮かべながら私と父上の皿に再びパンをのせていく。
「琴美、今日は始業式だったな。」
静かだが、圧のある話し方で父上が私に質問をしてきた。
「はい。しかし、今日は学校のことで別の予定があるので…帰宅は普段と同じ時間になると思います。」
「…そうか。気をつけて帰ってきなさい。」
ありがとうございます、と返事を返し、そこからは父上とは会話をすることはなかった。嘘をつかなくてもいいはずなのに、咄嗟に嘘をついてしまい父上に申し訳ない気持ちになった。父上があまり話すのが器用な方ではなく、そういう言い方になってしまうのも分かっていた。しかし、始業式の後のことは何故か、話すべきではないと思ったのだ。
「ごちそうさまでした、父上、母上、行ってきます。」
「いってらっしゃい。」
朝食を食べ終え、支度を整えそのまま玄関ホールに向かうとメイド達が声を揃えて見送りの挨拶をしているのを横目に頭を下げて、自宅を後にした。
軽自動車が通れるか、通れないかくらいの細い道を通り抜け、通路の左側にある駄菓子屋に向かうと、よく見知った顔の女子高生がこちらを見て大きく手を振りながら向かってきた。
「おっはよー!こっとみー!!」
はぁ…相変わらず声がでかい…。頭に響く…。
「あっ!!ちょっとなんや!?楓ちゃん待たせといてため息ついて終いには声でかいは失礼ちゃうか!?」
…あまりの声の大きさに心の声が漏れていたか。
こいつは五条楓。本人曰く、高い位置でひとつ結びにしている髪型がチャームポイント、なんなら全てが可愛いからチャームポイントしかないわ〜!楓ちゃん★とか常に言っている。
そして、一年の時のクラスメイトで、後は…なんと言えばいいのか…。
というか、こいつがこんな時間に来れているのが珍しい。
「私よりも早いとは、珍しいな。」
「まぁね〜。今日は珍しく学校行く気満々やからなぁ〜!てか、琴美が楓ちゃんより遅いなんてめっちゃ珍しいなぁ!ま、これより普段もっと早いし学校余裕で着くから問題あらへんけどな!」
私があまり話したくないと察したのか、それ以上の追求はされなかった。
五条がずっと話して、適当に相槌を打って私が話を聞く、という普段と全く変わらない雰囲気で学校へと向かう。待ち合わせ場所の駄菓子屋から学校までははあまり遠くはない。すぐに目の前に学校が見えてきたところで、
「ひっさびさの学校!よかった〜、ハゲ先おらんのラッキー!よっしゃやわ!」
と、隣で五条が小さくガッツポーズをして喜びながら歩いているのを横目にそのまま正門をくぐり、下足場で上靴に履き替える。
そのまま廊下を歩いてすぐ、頭部が綺麗なほど光っている中年のおじさんが私達の前に立ちはだかった。おじさんを見た瞬間、五条は私の隣で「げ。」と苦虫を噛み潰したような顔をして声を漏らした。目の前に立ちはだかるおじさんは、生徒指導担当の茂見先生だ。
「五条〜!!朝早く来れて偉いなぁ〜…!」
「えっへーん!楓ちゃんだもんね!」
「…とでもいうと思ったか?」
「やんなー。どーせそう来るとおもったわ。ハゲ先やもんな。うん、知っとったわ。」
五条は真顔で茂田先生を見ながら棒読みでそう言うと、茂田先生はかなり大きな声で五条を叱る発言をした。
「貴様はーーーー!いい加減その呼び方はやめんか!まーた、わけのわからんもん空き教室の扉に貼りおってー!!待たんかー!!」
「待ていうて待つアホおらへーーーーん!」
五条が走り出すと同時に、茂見先生も、とある有名な怪盗アニメに出てくる警部か、と言いたくなる勢いで、五条を追いかけだした。学校につくと私は、毎回このやり取りを見るのが日常になっている。こいつが先生に追われている主な理由は学校の公認なしに、占い部、とかいう非公認の部を勝手に作り、空き教室の扉に張り紙をしているからなのだが…茂田先生からすればいたずらだと思っているのだろうな、なんてことを思いながら眺めていたらいつの間にか、かなり遠くまで走っていた。
この光景を見届けたあと、一人でクラス発表がされている掲示板へと向かっていった。
珈琲is四朗
41
羽海汐遠
12,277
#絶対続かない
コメント
1件
読了!琴美ちゃんの落ち着いた視点と楓ちゃんの騒がしさの対比がめっちゃ心地いい〜😊 朝食シーンの家族の温かさにほっこりするし、父上の圧のある優しさも良き。楓ちゃんと茂見先生の追いかけっこ、永遠に見てられるw 琴美ちゃんの見えない不安が気になって続きが気になる…!次話も楽しみにしてます🌸