テラーノベル
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リオはギデオン達の元へ戻り、リオ以外の各々が馬の手綱を引いて街を抜けた。隣の街へと続く、土を踏み固めた広い道に出て、皆が騎乗する。するのだが、馬は四頭だけで、当然だがリオの馬がない。 …え?もしかして俺は走るのか?
恐ろしいことを考えてリオが青ざめていると、「リオ、手を出せ」と目の前に手が差し出された。
「え?なに?」
「俺の馬に乗れ」
「へ?」
ギデオンが早くしろと言わんばかりに、リオを睨んでいる。
ケリーが馬を進めて、リオの後ろで止まる。
「ギデオン様、俺の馬に乗せます」
「いい。俺が乗せる。おまえ達は手出しするな」
「かしこまりました」
すぐに納得して、ケリーが自分の位置に戻る。
リオは振り向きケリーを見て思った。
いや、もっと食い下がってくれよ。この中で一番身分が高いギデオンの馬に、俺が乗っていいわけないじゃん。緊張しちゃうじゃん。できれば歳が近そうなアトラスに乗せてもらいたい…。
今度はそう目で訴えてギデオンを見たけど通じる訳はなく、腕を掴まれて軽々と逞しい体躯の前に乗せられてしまった。
リオは少しだけ後ろを向いて「お願いします」と頭を下げる。
ギデオンが表情筋を動かすことなく「ああ」と頷く。
「なるべく負担をかけぬよう、気をつける。だが辛くなったら遠慮なく言えよ。おまえは大事な人材だからな」
「はあ…」
大事な人材?なにが?俺は特別なにかに優れてるわけじゃないよ?魔法…が使えることは、バレてないはずだし。ふむ…よくわからん。
リオは曖昧に頷いて、前にぶら下げた鞄ごと、アンを大切に抱いた。
ギデオンの家までは馬で二日はかかる。だけど通常よりゆっくりと進むために、三日で着く予定だそう。この州領が広い上に、入ってきた州境とは真反対の位置に家があるから、かなりの距離があるとケリーが教えてくれた。
こまめに休憩を挟みながら進み、あと半日で着くだろうというところで、リオが発熱した。
森の中を駆けている最中に急に吐き気をもよおした。リオは慌てて手綱を握るギデオンの手を叩き、口を押さえながら「止めて」と頼む。
ギデオンが馬を止めると、転がるように飛び降りる。そして素早くアンを横に降ろして、道端の草むらで盛大に吐いた。涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら何度も吐いて、ようやく落ち着き立ち上がろうとする。だけど力が入らなく座り込みそうになった身体を、ギデオンが支えてくれた。
リオは掠れた声で「ごめん」と謝る。
「大丈夫か。酔ったのか?」
「わかんない…こんなこと初めて。汚くてごめん…」
「汚くなどない。気にするな」
そう言って、ギデオンが上着のポケットから出したリネンの布でリオの顔を拭う。
リオは慌ててギデオンの手を掴み「汚れる」と止めたが、ギデオンはお構いなしにリオの顔を丁寧に拭いた。
「ギデオン様、これを」
「ああ」
リオが顔を上げると、アトラスが水筒をこちらに差し出していた。とても心配そうにリオを見ている。アトラスの後ろで、ケリーもロジェも馬を降りて、心配そうにしている。
とても迷惑をかけているのに、怒るどころか心配してくれる皆に、リオはなぜだか胸が苦しくなって泣いてしまった。
ギデオンが「どうした。そんなに辛いのか?」とリオの頬を手で包む。
「ふむ。腕を掴まれた時に手が熱いと思ったが、発熱している。ケリー、確か近くに宿があったな」
「はい。領主御用達の宿があります。一足先に行き、部屋を用意してもらいます」
「頼む」
「かしこまりました」
ケリーが頭を下げ、リオに「もう少し頑張れよ」と声をかけて、ロジェと共に去って行く。
リオは、アトラスから受け取った水を飲むと、大きく息を吐き出した。
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