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「ねえ、困ってるでしょ。助けてあげようか?」
クラスのムードメーカー、朝野 向日葵(あさの ひまり)。
誰にでも優しい彼女に角名 倫太郎は救いの手を差し伸べる
助ける条件は――???
「○○なんだから、もっと密着して。……ほら、あいつら見てるよ?」
シャッター音と共に、じわじわと埋められていく外堀。
偽装のはずなのに、彼の指先は熱く、視線はひどく独占的で。
逃げ場のない、甘い檻の中に閉じ込められていくそんな物語。
へへっ!いつもと違う書き方してみたっ!
偽装彼氏_。Start
窓から差し込む西日が、放課後の廊下をオレンジ色に染めている。
私、朝野 向日葵は、下校間際にクラスの男子数人に囲まれて、困り果てていた。
「ねえ、向日葵ちゃん。今度の日曜、空いてない? 映画のチケットあるんだけど」
「ごめんね。その日はちょっと予定があって……」
「じゃあ土曜日は? 飯食いに行こうよ。奢るからさ!」
断っても、断っても、彼らは笑顔で距離を詰めてくる。
向日葵という名前のせいか、私は昔から「押しに弱い」と思われがちだ。愛想よく振る舞うほど、相手の期待を煽ってしまう。
(どうしよう……。これ、なかなか帰してくれそうにない……)
助けを求めるように周囲を見渡した、その時。
少し離れた壁に背を預け、無造作にスマホを構えている人影が目に入った。
稲荷崎高校バレー部、角名 倫太郎。
同じクラスだけど、何を考えているか読めない、食えないキツネのような人。
「……あ、角名くん」
彼と目が合った。
角名くんは薄く笑みを浮かべると、そのままスマホを向けたまま、こちらへ歩いてきた。
「ねえ。向日葵が困ってる顔、バッチリ動画に撮れちゃったんだけど。これ、SNSに流していい?」
「えっ、ちょ、角名!? やめろよ!」
男子たちがたじろぐ。角名くんは気だるげに首を傾げると、私の肩にポン、と腕を回した。
「……で、いつまで向日葵(ひまり)に粘着してんの。……見てて、すっごい邪魔」
冷ややかな視線。男子たちは「……ちっ、なんだよ」と捨て台詞を吐いて、逃げるように去っていった。
「……ふぅ。……助かったよ、角名くん。ありがとう」
「……別に。面白いもん撮れたし」
彼はスマホの画面を確認しながら、ニヤリと口角を上げる。
画面には、泣きそうになりながら愛想笑いを浮かべる、私の情けない顔が映っていた。
「……それ、消してくれない?」
「やだ。これ、俺のコレクションにする」
「ええっ、ひどいよ……!」
私がスマホを奪おうと手を伸ばすと、角名くんはひょいと腕を上げてそれをかわした。
そして、顔を近づけて、耳元で低く囁く。
「……助けてあげてもいいけど。……条件あるよ、向日葵」
「……条件?」
「……俺の彼女のフリ、して。……あいつらを黙らせるためにさ」
それは、救いの手というには、あまりに毒を含んだ甘い提案だった。
角名くんの瞳が、獲物を狙うキツネのように、怪しく光る。
「……いいでしょ? 俺、嘘つくの得意だし。……向日葵を守ってあげるよ」
この時、私は気づいていなかった。
自分から、逃げ場のない「レンズの中」へ飛び込もうとしていることに。
翌朝。校門をくぐる私の足取りは、いつになく重かった。
昨日の放課後、角名くんと交わした「偽装彼氏」の約束。あれが夢じゃなかったことは、スマホに届いた一通のメッセージが物語っている。
『校門の前で待ってる。逃げたら、昨日の動画バラ撒くから』
(……相変わらず、脅し方がえげつないんだから)
ため息をつきながら歩みを進めると、校門の脇に、気だるげにスマホをいじっている人影が見えた。
稲荷崎の制服を崩して着こなし、周囲の視線を集めている——角名くんだ。
「……あ、角名くん。おはよう」
「……おはよ、向日葵。遅い。3分待った」
彼はスマホから目を離さずに、淡々と告げる。
私が「ごめん」と言いかけた、その瞬間。
「…………っ、」
温かくて大きな手が、私の右手を迷いなく包み込んだ。
指と指を深く絡める、いわゆる『恋人繋ぎ』。
「……ちょ、角名くん!? 近いよ、まだ校門だよ?」
「……何言ってんの。演技、もう始まってるんだけど」
角名くんは平然とした顔で、私の手を握ったまま歩き出した。
すれ違う生徒たちが、面白いものを見るような目でこちらを振り返り、ひそひそと囁き合うのがわかる。
「ほら、向日葵。あっち見て。昨日しつこかった奴ら、こっち見てるよ」
「えっ、どこ……?」
彼が指差す方を見ると、昨日の男子たちが呆然とした顔でこちらを固まっていた。
角名くんは、彼らに見せつけるように、私の肩にぐいっと腕を回して引き寄せる。
「……ねえ、もっと幸せそうな顔して。……俺の彼女なんだから」
「……無理だよ、緊張して……」
「……ふーん。じゃあ、これでいい?」
不意に、角名くんが立ち止まり、私の頬に自分の顔を寄せた。
鼻先が触れそうな距離。彼の瞳が、至近距離で私を射抜く。
カシャッ、と。
至近距離でシャッター音が鳴り響いた。
「……はい、証拠写真。これ、クラスのグループラインに流しとくね。……『朝野向日葵、攻略完了』って」
「……ええっ!? ダメだよ、そんなの!」
「……ダメじゃないでしょ。……これで、もう誰も手出しできないよ」
角名くんは満足げに、スマホの画面をタップした。
守ってもらっているはずなのに、なぜか背筋に冷たいものが走る。
彼の瞳の奥にあるのは、「フリ」を楽しむ余裕だけじゃない。
逃げ場を失っていく私を、レンズ越しに観察して楽しむ――。
それは、本物の捕食者の目だった。