「みなさん、おはようございます」
心が浮わつきそうになる週末ではあるけど、いつも通りの部署の全体朝礼。
上司である谷岡の挨拶から始まり、フロアにいる作業員も、挨拶を返す。
今日の配置場所と作業を確認して朝礼が終わるのかと、奈美は呑気に思っていたけど、続きがあるようで。
「ひとつ、連絡事項があります。本日午後四時、向陽商会の方がこのフロアの工場見学で来社します」
谷岡の連絡事項を、半ば聞き流していた奈美をよそに、女性作業員の人たちは、黄色くなりかけた声にして、ざわめいている。
「皆さん、静かに」
その声を静止させるために、一度仕切り直した後、谷岡が更に続ける。
「全工程の見学なので、遅い時間で申し訳ないですが、来社しましたら挨拶するよう、よろしくお願いします」
奈美の隣にいた同期入社の女性に、小声で、何でこんなに歓声が出るのか聞いてみると、向陽商会の社員が、とんでもないカッコよさなのだとか。
(なるほどねぇ……。向陽商会の人は、たまに見学に来るけど、そんなにカッコいい人だったっけ?)
考えているうちに、谷岡が『それでは今日も一日、よろしくお願いします』と締めの言葉を述べて、朝礼が終了した。
向陽商会は、事務機器やパソコン周辺機器、文具などを扱う、大手企業。
奈美の勤務先であるこの工場も、向陽商会の仕事をそこそこ多く扱っている。
今日彼女が作業するのも、この企業の案件だ。
三ヶ月ほど前に、残業で急遽百個のインクトナーカートリッジの検査をしたけど、あれは試作品だったそうで、その後、正式に受注する事になり、定期案件になりそうだと、谷岡から聞いた。
午前中は、機械を使ってトナーの充填作業、午後は検査業務。
充填作業は、カートリッジの大きさが掌サイズなので、そんなに大変ではない。
ただ、黒っぽい粒子が飛散するので、いつの間にか作業着や顔、マスクが汚れていた、なんて事がよくある。
(今日も汚れるんだろうなぁ……)
ため息をついた後、奈美は機械の電源をオンにした。
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