午前中の作業も滞りなく終わり、昼休みになった。
休憩所で、先ほど朝礼で会話を交わした同期の子と、一緒に昼食を摂っている。
「奈美ちゃん、前から思ってたんだけどさ……」
「え? なに?」
「最近、奈美ちゃん綺麗になったよね? 彼氏ができた?」
彼女は、ハムチーズサンドイッチを頬張りながら、緑茶で流し込み、意味深に笑う。
突然そんな事を言われ、奈美は飲んでいた烏龍茶を吹き出しそうになり、むせてしまった。
気管に烏龍茶が入ったせいか、なかなか咳が治らない。
「ああ、ごめんごめん……!」
彼女は奈美の背中を摩り、咳が落ち着くのを待った。
「もう! いきなり変な事を言うから……」
苦笑いを浮かべる奈美に、彼女がゴメンね、と目の前で手を合わせた後、ニヤリと笑った。
「で、実際はどうなの? 彼氏できたの?」
え? 彼氏? いないけど好きな人はいるよ、と、彼女に言いそうになったけど、そこは曖昧にかわしておく。
好きな人はいるけど、出会ったのがエロ系SNS、しかも口淫するだけの関係だなんて、口が裂けても天に召されても言えない。
墓場まで持ち込む案件だ。
「……彼氏はいないよ。っていうか、そもそも出会いもないし……」
奈美は、一口サイズになったシーチキンマヨのおむすびを、パクリと食べた。
「本当に〜?」
彼女はジト目で見るけど、奈美は構わずに烏龍茶を流し込む。
すると、彼女が意外な人の名前を出してきた。
「谷岡さんが言ってたよ。最近、高村さんが綺麗になったって」
(ん? 谷岡さん? 何で谷岡さんに繋がるの……?)
「はぁ?」
何だか謎に感じて、奈美は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「っていうか、谷岡さんが出てくるのが、よく分からないんだけど」
怪訝な顔をしながら彼女に聞いてみると、つい先日、谷岡と昼休みに少し雑談した際に、奈美が最近綺麗になった、と言っていたらしい。
「だから私、『谷岡さん、それって下手したら、セクハラになりかねませんよ』って言っちゃった」
彼女は舌を唇から覗かせて、お茶目に笑った。
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