ぐうぅぅ____。
走行する車内で、菊の腹の虫がなった。思わず顔を赤らめ、こちらを見つめる彼らに見つめ返す。
「すいません……この頃何も食べていなかったもので…」
「あ、そういえば俺達も朝まだだったよね。そこのパーキングエリアでなんか食べようよ!」
「うむ。確かに今回の仕事は菊のお陰で片付けられていたしな。それのお礼も兼ねて奢ろう」
「ヴェ〜やったぁ!パッスタ、パッスタ♪」
「え、いいのですか?」
「あぁ。好きなだけ頼むといい」
「す、好きなだけ…」
贅沢そのものの言葉に胸を躍らせる。
「あ、その格好だと寒いよね。俺の上着貸してあげるよー。はい!」
そう言って、彼は高そうなコートをかけてくれた。久しぶりの温かい布に包まれ、幸せで目をうるうるさせる。ぬくぬくと温まっていると、コートを貸してくれた彼が「ゔぇくしょんっ!」とくしゃみをした。
「わわ、私のせいですよね、!すぐにお返しします!」
「いや、お前は裸だろう。俺のを貸すから心配するな」
「あ、ありがとうございます」
「ヴェ〜ありがとうルートぉ」
「まったく、慣れてない事をするからだぞ」
「へへぇ、だってカッコいいとこ見せたいじゃん」
「それで風邪を引かれたら元も子もないだろう、」
「あはは、確かに!」
そんな温まる会話をする彼らを見ていたら、なんだか自分に友達が出来たみたいで心がほっとした。今まで、汚いだの臭いだの言い続けられたものだから、初めて人に優しくされた私にとってそれは身に染みる体験だった。コートがなくとも今なら寒さは感じないだろう。
「俺はぁ…パスタとピッザ1つー!」
「じゃあ私もぱすた…?を1つ、」
「ビールを1杯頼む」
無事パーキングエリアに着き、注文を済ませた時、後ろから走ってくる足音に気がついた。振り返るとその男性が私の肩をガシッと掴みながら「た、助けてくれ、!」と、ものすごい気迫で助けを求めてきた。
「え、あ、あの…」
「落ち着け、公安のデビルハンターだ。何があった?」
「あ、悪魔が…俺の娘を攫って、!俺の娘を、娘を連れて森の方にっ!!」
証明手帳を見せながら事情を聞いたルートは、私の方を見て、何かを閃いたかのように、ある提案を投げかけてきた。
「いい機会だ。菊、お前の力を見せてくれないか?」
「え?私のですか?」
「あぁ。公安のデビルハンターになるのだから、どれほどの実力があるか、この目で確かめたくてな。安心しろ。ピンチになった時には、俺とコイツでカタをつける」
顔を青ざめるフェリシアーノを他所にルートは菊に提案した。多分これを断れば、デビルハンターとして承認は難しいだろう。そう思い、彼の提案に乗った。
そういえば……あの男性が私の肩を掴んできた時に、腰辺りが熱くなったような気がしたが。きっと気の所為だろうと、深追いするのはやめておいた。
言われた森の奥へと進んでいき、それらしき人影が動いているのを視認した。すぐに刀を構え距離を詰めると、その子供は悪魔と花冠を作りながら遊んでいた。思わぬ光景に3人とも目を白黒させ、刀を握っていた力が緩む。すると、こちらに気がついたのか少女は目を丸くしながら、悪魔の前に立ちはだかった。
「お願いです!この悪魔さんを許してあげて!」
「どういうこと?」
フェリシアーノが尋ねると女の子は涙ぬぐみながら答えた。
「私のパパ、嫌なことがあるとすぐに私を殴ってくるの。今日も駐車場で殴られて……そしたらこの悪魔さんが助けてくれたの!」
「だからお願い!殺さないで!」
泣きながら許しを乞う少女に、3人は顔を見合わせた。
「出来ることなら殺したくはないが、いつ豹変するかも分からない悪魔を放っておくわけにもいかないんだ」
ルートが少女を説得するが、了承する様子もなく少女はずっと悪魔の前に立ちはだかり、首を横に降っていた。
「……いいじゃないですか。ルートさん」
思わず口に出した。今私の中にいるアーサーさんと重ねてしまったのかも知れない。2人は知らないだけで、優しい悪魔もいるのだと。それを知っている私は、話し合う2人を仲介した。
「私も悪魔と友達のようなものだったので、いい悪魔もいると分かるんです」
少女は私の手を掴み、上目遣いで私に聞いた。
「……あは…いいの?」
「ええ」
「あ、はは、あははははは、」
「っ、離れろ!菊!!」
「え?」
ルートの忠告の声と共に、視点がグワンッと揺れた。足が地に着いていない。下を見ると、私の体は持ち上げられ、肉片が腕を掴んでいた。
『はい!俺の勝ち確〜!!』
「菊!!」
腕を振りほどこうと体をねじるが、ビクともしない。それを見て悪魔はケタケタと笑う。流石のピンチだと、ルートが構えをとるが「待ってください!」と、彼に投げかけれた。
「良かったです。外道と分かったのなら、快く切り刻めます」
自分の紋章が光を放った。
「ヴェ〜菊すごーい!!強いんだね!」
「怪我はないか?」
「ええ。この通りなんとも」
ぱっ、ぱっ、と手を払い、気絶した少女を担ぎながら下山した。泣きながら駆け寄ってくる男性に少女を預け、そのまま食事を取りに向かう。
「そういえば、あの時の菊すごかったよね!キラキラ〜って!」
「どうやって その姿になったんだ?」
「その……友人だった悪魔が私の心臓になったんです、信じられないですよね、」
そういえば、昔に言われた『一緒に遊ぼう』という彼の願いも聞けずにいましたね。なんて少し寂しくなった。
「私も信じられません。私のために、アーサーさんが死んでしまったなんて……」
沈黙が続き、空気を重くしてしまったのだと気付いた。急いで謝ろうと顔を上げ、2人を見ると、彼らは目をパチクリさせながらこちらを見ていた。フェリシアーノは腰を抜かしてしまっている。何事かと、2人に聞こうとした時に、フェリシアーノが指をさしながら「ゆ、ユウレイだああぁぁぁ!!」と顔を青ざめた。
「え、!?」
驚き、指をさす方向に自分も視線を向けると、半透明な懐かしの姿がそこにあった。
『よっ、菊』
「で、でたあああぁぁぁ!!!!」
『な、!?なんでそうなるんだよ!ばかぁ!』
怖がっているフェリシアーノと菊を見ながら、ルートは溜め息を1つ吐くと、当たり前かのようにアーサーと話始めた。
「お前が菊の言っていたアーサーか?」
『あぁ、そのとおりだ。あと気安く下の名前で呼ぶんじゃねぇ』
「……おい菊、本当にコイツがお前の言っていた、優しい悪魔なのか、?」
心配気味にアーサーを指さすルートに、菊はジロジロとアーサーを観察し「はい、確かにアーサーさんです、」と答えた。
「し、死んでなかったんですか、?」
『当たり前だろ?俺は菊の中で生き続けてんだ。今はユーレイみたいにスケスケだが、ちゃんと濃くなるから安心しろよ!』
『透けるは透けるけどな!』と、笑いながらアーサーは、腕を振り、菊の体をスカスカと貫通させる。それにビビる菊をイジり、ぽかぽかと怒られるアーサーを見つめるフェリシアーノとルートは、ホッ、と一気に気が抜けた。
「ヴェ…ユウレイじゃないの?」
「あぁ……そう、らしい…」
幽霊としか説明がつかない現状に戸惑いながらも、とりあえず朝食を済ませるために、3人はパーキングエリアへと戻った。
「…………ん〜、美味しいですぅ…ほっぺが落っこちちゃいますぅ…」
「あはは、でしょぉ!パスタ美味しいよねぇ俺も大好きー!」
「随分と過酷な生活を送ってきたらしいからな。満足するまで沢山食べるといい」
「はい、ありがとうございます、!」
口いっぱいにパスタを頬張る。あまりの美味しさに明日死ぬではないかと思うが、アーサーさんとのした約束を思いだすとそんな状態も心臓に悪い。
『俺もパスタ食べてぇ……』
噂をすれば、彼が私の後ろから顔を覗かせた。
「食べれるんですか?」
『……分かんねぇ、』
フォークを渡そうとするも、予想通り、彼の手は私の手とフォークを貫通した。
「やっぱ無理だねぇ」
「だな」
『あああ… 早く実体に戻りたい…』
「すいません… 私のせいですよね、」
『や、ちがっ!そういう意味じゃねぇよ!な?だから元気出せって、』
「で、ですが………私に何か出来ることはありませんかね?」
アーサーは上目遣いの菊に負け、一か八かの提案を試みた。
『……その、菊がいいなら、だけど、』
『パスタ食う間だけ、お前の体貸してくんねぇか?』
その提案に菊以外の2人は目を丸くした。
「? 貸せるんですか?」
菊は平然と話を続けるが、2人は菊ね肩を掴むなり、必死に説得する。
「ヴェ!?駄目だよそんな!菊、危険すぎるよ!」
『あ?』
「ひいいい!!すいませんすいません!!」
「それは俺も同感だ。悪魔に体を貸すなんて、いくらお前がコイツのことを思っているからといって無闇に貸すのは危険すぎる」
一理ある意見だとアーサーは眉をひそめた。それを見兼ねた菊は静かに微笑み、説得する2人を安心させる口実を口から発した。
「……心配には及びませんよ。アーサーさんと私はお友達なので」
「ね?アーサーさん」
『……………お、おう…』
りんごのように顔を赤らめた彼アーサーを見ながら2人は思った。あ、これなら大丈夫だな、と。
初めて見る街並みと音にのまれながら目を輝かせた。田舎育ちなだけあり、高いビルを眺めながら歩いていたもんだから首を痛めてしまう。フェリシアーノとルートは慣れているおかげか、人混みの中をすいすいと進んでいく。迷子にならないように人混みを掻き分け、やっとの思いで横断歩道を渡り終えた。
「菊〜!こっちこっち!」
そう無邪気に手招きをする彼の後ろには大きな建物がそびえ立っていた。さっきの疲れは吹っ飛び、その建物に見惚れた私にルートが声をかける。
「ここがデビルハンター東京本部だ」
「……通りで大きいわけですね、」
自動ドアに戸惑いながらも、目の前の建物に足を踏み入れた。
「東京には民間も含め、デビルハンターが千人以上いるが、公安は福利厚生が一番いいん だ」
「あと有休も多いんだぁ」
「お前は休みすぎだがな」
「ヴェ、ルートが働きすぎなんだよぉ、」
そんな会話を続け、ある扉の前で足を止めた。「少し待っててくれ」と、ルートは部屋の中へ入っていいき、彼が出てくるなり、丁寧に包まれた洋服を私に渡した。
「ウチは基本制服だからこれを着てくれ。着替えたら他の仲間との顔合わせに行くぞ」
「はい、ありがとうございます」
用意された更衣室で梱包された袋を開け、畳まれた制服の折り目を直した。白いシャツに 黒いネクタイ。黒い上着とスボンを見るに、 ただの正装としか思わなかった。公安の制服とか言うから、もう少しカッコいい服装なの かなと期待で膨らんでいた胸がしぼんだような気がした。
「終わりました」
「うむ。では向かうか」
「安心してね菊!ここにはいい奴しかいないから!」
「ええ、それは良かったです」
言っちゃ悪いが、その言葉を難なく信じた私は、少々単純すぎたのかもしれない。
「わぁ、ちっちゃい新人君だね。食べちゃいたいぐらいかわいい!」
「え、あ、ハイ…… お世話になります、本田き 「ねぇねぇ、僕と友達にならない? 友達にな ったらシベリア行きの券、特別にプレゼントしちゃう! もちろん片道切符だよ?」
「あ、ははは、」
話が通じない先輩に愛想笑いを向けた。身長はざっと180センチはあるだろう。灰色か金髪か分からない髪色に、アホ毛がクルンと垂れている。長いマフラーの間から見えている口をニコニコ上げながら、彼は距離を詰めてくる。 フェリシアーノ君とルートさんは何やらコソコソと話をしており、何を話しているのか全く聞こえてこない。20センチぐらいの身長差がある彼に攻め寄られながら何とか誤魔化すが、圧に耐えられなくなり2人に目で助けを求めた。それに気がついたのか、ルートは焦 ってコホン、と咳払いをしイヴァンの意識を自分に向けた。
「こいつの名前はイヴァン・ブラギンスキだ。まぁ…仲良くしてほしい、」
「よろしくね〜。ルート君から聞いたよ。菊君、だっけ?」
「は、はい。よろしくお願いします」
やっと普通に会話が進んだ。ホッと安心すると、ルートが気の毒そうに口を開いた。
「…… 自己紹介も済んだところでだな。早速だが、今日は2人で悪魔を倒しに行ってほしい」
気の毒そうだったのはこういうことか。告げられた事実に悪寒が差した。今からこの話が通じない怖い先輩と悪魔退治だなんて、悪魔と対面する前に自分の身が持たない。精神的な意味で。そう確信し、なんとか違う人と一緒に行こうと仕掛けてみる。
「……….あの、お二人は…」
「違う仕事が入ってな… 他にも紹介したい奴らもいたんだが… 今日は全員忙しいらしい。空いてる2人で頼む」
「ふふ、任せてよ。ね一菊君!」
「あ、はい…………」
が、そんな上手く事が進むわけもなく、ルートの言う通り2人で仕事をすることになった。 嫌だ。なんて口が裂けても言えなくなり、大人しく彼の後に続いていく。気の毒そうな視線が私に向けられていたような気がした。
コメント
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イラストの構図をうだうだ悩んでいる間にまさか、二がでてるとは、イラストはアナログで、あと、二週間ぐらいで書けそうです! なぜ、こんなに文才があるのか。 あまった文才私にください。長文失礼しました!