テラーノベル
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#独占欲
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ヘルシンキ・ヴァンター国際空港に降り立つ。
「……よし」
僕はスマホを強く握りしめた。開いているのは翻訳アプリ。新婚旅行で夫としてスマートに彼女ををエスコートしてみせる――そんな意気込みが僕の背中を押していた。
だが、その自信は最初の関門である入国審査で、早くも揺らぐことになった。
僕たちの番になりカウンターへ向かう。そこには彫刻のように整った顔立ちの、金髪・碧眼の男性職員が座っていた。
「Next. Passport, please.」
ええと、「新婚旅行です」の定型文は……。スマホと格闘している横で、イケメン職員の視線がひよりさんに注がれた。彼は笑みを浮かべ、彼女へ語りかけた。
「Hi, Honey. Welcome to Finland. You have such beautiful eyes.」
(……ハニー!? いま、ハニーって言わなかったか、この男? ……いや待て、落ち着け。これがグローバル・スタンダード……いわゆる海外仕様ってやつなのか?!?)
僕が驚愕して固まっていると、隣の彼女が、ふっふっ笑った。職員がさらに楽しそうに、話しかける。
「Honeymoon? Lucky guy. If you get tired of him, let me know.」
「Fufu, that’s a nice offer, but I’m afraid I’m very satisfied with my ‘Special One’.」
……流暢。なんてレベルじゃない。完全に現地の空気にシンクロしている。彼女の口から滑り出す英語は、自信に満ち、リズムに乗った鮮やかな響きを持っていた。
入国スタンプを押され、ゲートを抜けた後。 僕はスマホをポケットに突っ込み、重い溜息を吐いた。
「……英語、話せるんだ。知らなかった」
「あ……パパの仕事で、子供の頃に少し海外で暮らしてたの。驚かせちゃったかな?」
彼女は申し訳なさそうに、小首を傾げた。
(……美人で、専務令嬢で、英語も話せる。僕はといえば、アプリがないとカフェで注文すら出来ないし……)
劣等感が、冷たい風とともに心に澱のように溜まっていく。すると、彼女は僕の左腕をぎゅっと抱き寄せ、下から僕を覗き込んできた。
「陽一さん?」
「……僕がしっかりエスコートしなきゃいけないのに」
足を止めた僕の耳元に、彼女はそっと唇を寄せ囁いた。
「……さっき、何て言ってたか、気になりますか?」
「え……?」
「『私の旦那様は、世界で一番素敵な人なの。だから、他の人なんて一生目に入らないから』……って、ちゃんと釘を刺しておきました♡」
彼女は僕の腕に胸を押し当て、微笑んだ。
「……だから、もうそんな顔しないでね?」
(……くっ、この人は……!)
「……うん」
僕は彼女の細い肩をしっかりと抱き寄せた。