「だ、だって、尊さんには仕事面でもですけど、この前の室井さんのことでも助けてもらっちゃいましたし」
必死に反論する。
「俺っ、尊さんの支えになれてることなんて…」
瞬間、背後から尊さんの吐息を感じて心臓が大きく跳ねた。
首筋に触れる熱い息に、ぞくりと背筋が震える。
「いつも、お前は仕事にも俺のことにも一生懸命になってくれるだろ、自分のことみたいに」
尊さんの声は、少し湿っていて、酔っているせいか、いつもより感情が乗っている気がした。
「え…そ、そんなことが、ですか…?」
そんな些細なことまで見ていてくれたなんて、思ってもみなかった。
「あぁ。それに忘れたのか?バレンタインにはわざわざ苦手なお菓子を練習して頑張って作ってくれたろ」
尊さんの声がさらに近づく。
鼓膜に直接響くような甘さに体中が反応してしまう。
意識せずとも、体が熱を持っていくのがわかる。
「そっ、それは尊さんが食べたいって言ってくれたし、喜んで欲しくてしただけのことで…!」
声が裏返ってしまう。
「そういうお前の真っ直ぐさが何より嬉しいんだよ」
あまりにもストレートな言葉に息が詰まった。
「っ……ふぇ、っ…えっ、と…それ、は…うれしい、です」
返事に困り、さらには変な声が出てしまい俯いていると、尊さんの腕が緩む。
顎をクイッと持ち上げられて強制的に目を合わせられ、俺は尊さんの瞳の中に閉じ込められる。
尊さんの暖かい手が俺の前髪にそっと触れ、かき上げられる。
その指先が優しくて、まるで壊れ物を扱うようだ。
「お前は素直すぎるな」
「だ、だって尊さんが急に言うから……っ」
俺の頬は、完全に熱を持ってしまっている。
「ほんと…可愛くて仕方ない」
尊さんの視線が、そのまま額に移動する。
額に唇が降ってくる。
ほんの一瞬だったけれど、それだけで全身の血が逆流するような熱を覚えた。
「も、もう、尊さん絶対酔ってる…!!」
理性と恥ずかしさが混ざり合い
堪えきれずに尊さんを自分から引き剥がし彼の方に体ごと振り向くと、頬が染まっているのがわかる。
俺の顔もきっと同じくらい赤いはずだ。
「いつも通りだろ」
尊さんは唇の端を上げて、にやりと笑う。
その余裕の表情が、俺の心をさらに乱す。
「だ、だっていつもより甘すぎる気が……」
尊さんの瞳が、わずかに潤んでいるのがわかった。
「……」
尊さんの瞳がゆっくりと近づいてくる。
このまま逃げ場がないことは、俺にもわかっている。
「……俺の言葉、嘘だと思ってるのか?」
低く掠れた声に釘付けになる。
その声に、有無を言わせぬ力が込められている気がした。
「そっ……そういうわけじゃないですけど…!」
見れば尊さんの目は微かに揺らいでいるのに、決して逸らすことはなかった。
俺の目を見つめ返す、その真剣な瞳に、俺は抗えない。
「だったら──」
そのまま引き寄せられて唇が重なる。
尊さんの手が俺の腰に回り、強く引き寄せられる。
「っ!」
口の中に、濃厚なワインと、尊さんの体温が混ざったような香りが広がる。
「んっ……ふっ……」
口内に忍び込んだ尊さんの舌に舌を絡め取られて、濃厚なワインの香りが混ざり合う。
優しく、だが逃さないように、絡められる舌の動きに、俺の思考は完全に停止する。
「っは……ぁ……っ」
離れた二人の間に銀糸が光り、途切れる直前まで互いの息遣いが交錯する。
少し乱れた呼吸を整える間もなく。
「恋……」
尊さんが、甘く、そして渇望するように俺の名前を呼ぶ。
「尊……さ…ん……」
俺も、思わず彼の名前を呼んでいた。
見上げると、少し潤んだ瞳でこちらを見つめる尊さんの顔が目の前にあった。
理性のタガが外れたような、色気のある表情。
「もっと…恋が欲しい」
その言葉に誘われるように再びキスを交わす。
今度は先程よりも強く求めるように何度も角度を変えながら、唇を合わせる。
互いの温もりを確かめるように──。
深く、そして熱を帯びたキスが続く。
「……っはぁ……っ」
息継ぎのために離れてもすぐにまた塞がれる。
尊さんのキスは、俺の全てを奪い去ろうとしているようだった。
激しさを増すたび、頭の奥がじんわり痺れていくような感覚に溺れそうになる。
尊さんの手が背中に回され、ぎゅっと抱きしめられる。
その強さに、俺は彼の全てを受け入れたいと願う。
「恋……」
「…?」
キスから解放された口元で、尊さんが俺の名前を呼ぶ。
「今日は……泊まっていくんだろ?」
低く掠れた声が耳朶を撫でる。その問いかけは、もはや確認ではない。
「っ…はい…もちろん」
俺の返事も、もはや理性的なものではなかった。
◆◇◆◇
寝室に移動すると、部屋は暖色の間接照明で照らされていて、柔らかい空気に包まれていた。
キッチンやリビングの明るい光とは違う、落ち着いた雰囲気だ。
「……恋」
尊さんが名前を呼んで、ベッドサイドに腰を下ろした。
シャツを脱いで上裸になった尊さんは普段のオフィスでの姿よりもずっと近くて、男らしい。
「おいで」
尊さんにしては珍しい
優しいけれど有無を言わせぬ声色に引き寄せられるように
対面で、尊さんの太ももの上に腰を下ろす。
「お、俺重くないですか…?」
思わず尋ねた。
仮にも成人済み男の体重を預けているのだから、自分で乗っといて、恥ずかしくもある。
「なわけ。」
尊さんは笑いながら、俺の腰をしっかりと抱き寄せた。
尊さんの手が俺の後頭部に触れて引き寄せられ、再び唇を重ねられる。
優しく、確かめるようなキス。
ワインの香りがふわりと鼻をくすぐる。
尊さんの胸元に手を置いて応えていると、今度はすぐに離されて。
尊さんの瞳が、俺をまっすぐに見つめる。
「……好きだ」
一言だけ。
そのシンプルな言葉が、俺の心臓を鷲掴みにする。
酔ったときの尊さんはいつもの何十倍も素直なのかもしれない、なんて思って
つい口元が緩む。
こんなにも素直に感情を伝えてくれる尊さんが、普段の倍愛おしくてたまらない。
「えへへ、俺も……大好きです、尊さん」
俺も、精一杯の愛を込めて言葉を返す。
言い終わると同時に、尊さんの顔が近づいてきて、今度は優しく唇が触れ合った。
今度は啄むような、短いキス。
何度か啄むようにキスを交わしてから、尊さんが俺の顔をじっと見つめた。
その眼差しは、熱くて、愛に満ちていた。
「……涎まで出して、本当に可愛いな」
尊さんが、俺の口元に触れ、指で拭う。
「も、もうっ…言わないで、くださいよ…っ」
恥ずかしさに耐えきれず、抗議の声を上げる。
「可愛いことしかしない恋が悪い」
尊さんの瞳は、完全に俺に釘付けだ。
「うっ、き、急な可愛いも反則です…っ!!」
俺は尊さんの首に手を回しながら答えた。
でも、嫌じゃない
この体勢で彼から離れる気なんて、もう全くなかった。
このまま、もっと深く、彼に愛されたいと願っていた。
コメント
1件
2人とも甘すぎる( ˇཫˇ ) グッッッッッッ 好きだ....