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「禁忌の食材が王宮に卸されただと?」
「は、はい。
さらにそれが、あちらの大陸から来られた
使者たちが、厨房を見学している時に」
ランドルフ帝国帝都・グランドール―――
その王宮の一室で、
ロマンスグレーの老紳士が、球形とも思える
体形の、チョビヒゲの男の報告に口元を歪める。
「ブラン副大臣。
その使者はわかるか?」
トジモフ外務大臣は、部下に情報の詳細を
問い質す。
「ええと、1人は『ボーロ』という獣人族の
男性です。
あの『ボーロ』の発案者で……
何でも帝国の料理人たちが是非にと」
「他は?」
「も、もう1人は『シン』という冒険者です。
妻の1人がドラゴンでして、家族を連れて
現場へ。
こちらも『料理神』と呼ばれており―――
調味料や揚げ物、麺類などは彼が広めたと
言われております」
一通り聞いた後、初老の男は深く息を吐き、
「つまり……
あちらのトップクラスの料理人たちの前で、
恥をさらしたわけか。
王宮の厨房で」
「も、申し訳ございません!!」
ブランは大きく振りかぶるようにして、
勢いをつけて頭を下げる。
「そもそもなぜ―――
禁忌の食材が運び込まれたのだ?」
「はっ、それが……
『ボーロ』、そして『料理神』の2名が
来たという情報が入ってから、希少食材の
調達をあちこちに発注したとの事。
恐らく、帝国の威信を見せつけようとの
思惑だったのでしょうが―――
その過程で紛れ込んでしまったのでは、
と推測しております」
外務大臣は近くのイスに腰かけ、
視線で副大臣にも座るよう促し、
「しかし、禁忌の食材とは……
いったい何が運び込まれたのだ?」
するとブランは手持ちの書類に目を落とし、
「『奴隷殺し』と呼ばれる、植物系の
魔物だそうです。
スープや味付けに使うと極上の美味だと
言われておるのですが―――
土から掘り出す際、触手のような枝葉で
攻撃してくるそうで、さらに猛毒があると。
そのために奴隷を使い、それを犠牲にする事で
収穫するのだとか」
「そんなものを王宮で使っていたのか?」
トジモフが眉間にシワを寄せながら聞き返すと、
「とんでもございません!
普通の料理人ならば、『外道の食材』と言って
絶対に手を出さないとの事。
当然、王宮でも固く禁じられております。
それだけに今回の事態は、ありえない失態だと
認識しております」
外務副大臣は焦りながら弁明する。
「その場にはティエラ王女様もいたのか……
情報操作して誤魔化すのも無理だな。
それでどうなったのだ?」
「ははい!
わたくしも今しがた報告書を受け取った
ばかりですので―――」
上司の言葉に、ブランは慌てて書面の先を
目で追う。
「……え?」
「??
どうした、どうなったのだ?」
問い質され、彼の視線は書類と外務大臣の間を
往復し、
「ほ、報告書によりますと―――
『シン』という冒険者が見せて欲しいと
言うので、『奴隷殺し』を彼の前に持ってきた
ところ……
『抵抗魔法』で魔物の攻撃を無効化し、
そのまま収穫したとの事です」
その答えに、トジモフは両目を閉じて両腕を
組み、それに対しブランは続けて、
「このシンは『万能冒険者』とも呼ばれ、
ムラト新機軸技術部門主任が重要視していた
人物でもあります。
先だって、『暴風姫』のティエラ王女様の
竜巻魔法を―――
また今回帰国したゾルタン副将軍から、
『星を降らせる者』……
ロンバート魔戦団総司令の『隕石落とし』を
無効化させたと聞いております。
魔物の攻撃程度、問題にはならなかったの
でしょう」
「では何の問題もなく、そのまま『奴隷殺し』は
調理されたのか?」
次の質問に、副大臣はパラパラと書類を
めくっていき、
「いえ、調理はされていないようですが……
え? ん?」
ブランが目を細め、何度も確認するかのように
書面を凝視する。
「どうしたのだ?」
「そ、それがその―――
あちらの大陸から一緒に来ていた土精霊を
呼んだそうです。
それで交渉を」
「交渉? 何を? 誰とだ?」
副大臣の口は半分開きかけたが、躊躇するように
すぐ閉じる。
やがて観念したかのように、再び声と共に
口を開いて、
「土精霊と『奴隷殺し』が交渉している、と……
人間を襲うのを止めるのと、猛毒は無くして
欲しいと―――
『奴隷殺し』に要請しているそうです」
トジモフ外務大臣はその報告の意味を
理解しようと努めたが……
時間をかけても無理だったようで、
「今一度聞く。
土精霊と『奴隷殺し』が交渉して
いるのだな?」
「は、はい。
そう書いております」
「『奴隷殺し』とは―――
食材であり、植物系の魔物の事だな?」
「はい……」
ブランの回答を最後に、沈黙の時間が流れ―――
「……どうしましょうか?」
「こっちが聞きたい」
そのやり取りの後、再び沈黙が場を支配した。
「これがバターですか!
蜂蜜と掛け合わせると、ただのパンケーキが
こんなに……!」
「フルーツを挟む、と―――
なるほど、それなら軽食ではなく、立派な
料理として皇帝陛下にもお出し出来ますな」
「こっちはメープルシロップですか。
帝国でも生産され始めておりますが……
これが木の樹液だとは、未だに
信じられませんよ」
王宮の厨房で、私が作ったパンケーキを
料理人たちが口々に評価してくれる。
「ほらラッチ、あーん」
「これ、大好物じゃからのう」
「ピューイ♪」
メルとアルテリーゼが、ラッチにパンケーキを
食べさせている一方で……
「モグモグ……
では、栽培場所の確保が出来れば
いいんですね?
種が残って育つのが最優先……
ええ、それはわかります。
実の方はいいんですか?
ああ、種さえ取ってくれれば後は
寿命だから……なるほど」
土精霊様がパンケーキを食しながら、
土に半分ほど埋まった『奴隷殺し』を前に―――
何かしら交渉していた。
あの後、何とかして『奴隷殺し』でこれ以上
犠牲者が出ないよう考えたのだが、
安全に収穫する事が出来ればいいのでは、
という結論に達し、
彼を呼んで人を襲わないようにする事、
毒性を消す事などを頼んでみたのである。
「どうでしょうか、交渉の方は……」
私が聞くと、十才くらいに見えるエメラルドの
瞳の少年が振り向き、
「はい。他の植物や樹木同様―――
繁殖を最優先にしているので、
畑のように増やす事を確約してくれれば、
実の方は収穫しても構わないと言っています」
それを聞いた料理人たちは半信半疑の目で、
土精霊様に注目するが、
「わたくしはウィンベル王国の公都、
『ヤマト』で……
土精霊様の庇護を受けた畑や栽培地を
この目で見て来ました」
そこへティエラ王女様が会話に入り、
「日当たり、肥料、水の量―――
それらが最善で行われていた」
「土の精霊様なら、植物と意思を通わせる事が
出来て当たり前でしょう」
カバーンとセオレム、二人の従者も追認する
ように続く。
「じゃあどこかで検証用の土地でも借りて、
栽培してみますか。
あ、そういえば―――
パンケーキは持って行ってもらえました?」
「は、はい。
待機用の部屋へお運びいたしました。
それで、あの……
一息つきましたら、引き続きどうか
お教えを……!!」
そもそも厨房に来たのは、ライさんたちに
間食を作るためだったのだが、
『この機会を逃しては!!』と―――
料理人たちが教えを懇願してきたので、
断り切れなかった私は、時間の許す限り彼らに
料理を教える事になり……
結局、待機部屋へ戻ったのは―――
ライさんたちに作った夕食と一緒だった。
「……余がランドルフ帝国皇帝、
マームードである。
よくぞ参られた、ライオネル・ウィンベル殿」
「ウィンベル王国先代国王、ローランドの実兄、
ライオネルにございます。
面会の機会を頂き光栄に存じます」
ランドルフ帝国の王宮―――
皇族の中でも最高位の人間が使う専用の
部屋で、
六十代くらいの老人と、アラフォーに見える
グレーの短髪をした男性が、互いにイスに
腰かけて対峙する。
この時、二人は―――
互いの力量と器を見てとった。
一方は帝国のトップであり、一方は王族として
国家の上層部にいた身……
認め合うようにうなずくと、交渉の口火が
切られた。
「まず、我が帝国の訓練船団の者たちを全員、
『保護』してくれた事に礼を言う。
ゾルタンからその経緯は直接聞いた。
なるべくそちらの意見に応じよう。
言ってみるがよい」
皇帝から要望を問われ……
いささか面食らったライオネルであったが、
「いえ、こちらも領海に近付く際に警告を
発したのですが。
正式な国交がまだ結ばれていなかった事で、
混乱をきたしたようです。
なので今回、我がウィンベル王国を始め―――
こちらの大陸各国と正式に国交を開いて
頂くよう、お願いに参りました」
「帝国からも非公式ではあるが、すでに2回
使節を送っておる。
国交を結ぶ事に反対はしないが……
条件等はどう考えている?」
周囲で交渉を見守っていた側近たちに
緊張が走る。
国家の中枢に近いものならば―――
今回、帝国の訓練船団の派遣は軍部の
暴走に近いもので、
しかもそれが完膚なきまでに敗れたばかりか、
全員殺さないように『優しく』扱われた実情を
知っていた。
マームード皇帝は『反対しない』と言い、
ライオネルは『お願いに参りました』と
言ってはいるが……
今回の件について責任を問いに来たのは、
誰の目からも明らかであった。
「一通り―――
国交を結ぶにあたっての『お願い』は、
こちらに記してきましたので、どうか
ご確認を」
ウィンベル王国の使者は書面を一枚取り出し、
それを皇帝に手渡す。
彼はそれを一字一句記憶するかのように
見つめていたが、
「対等の国交を結ぶ事。
相互軍事不可侵の条約締結。
大使館の建設―――
交易や留学の推進……
これだけか?」
「はい。
細かいところは後で詰める事に
なるでしょうが」
そのやり取りに帝国の側近たちがざわめく。
何らかの形での賠償や、不平等な条約の
要請を覚悟していた彼らは……
肩透かしをくらったような心境になる。
「…………
今回、使者の顔ぶれも見てもわかる通り、
そちらは亜人や人外に大変寛容のようだ。
それについて、何か無いのか?」
ティエラや訓練船団にいたワイバーンから、
帝国における人間以外の種族の扱いについて、
情報は得ているはず。
その懸念をマームード皇帝が問うと、
「ああ、それにつきましては―――
こちらで各国の同盟を結んだ時も同様でして。
『内政干渉はしない』
『互いの文化や慣習に口は出さない』
という事を原則としております」
『なんだと?』『どういう事だ?』と、
周囲の側近たちは思わず声を発するが、
「ライオネル殿よ。
我が帝国は力で周辺諸国を従えてきた。
亜人や人外も同じように……
今回、そちらの使者として来たドラゴンや
ワイバーン、他の人外種族が決起すれば―――
帝都は大混乱に陥るであろう。
それだけの武力を背景にして、どうして
何も求めて来ない?」
確かに、総力戦になれば勝てないだろうが、
それで帝都に大ダメージを与える事は可能。
さらに鎮圧に時間がかかれば、属領が反乱を
起こす事は容易に想像出来る。
そしてそれだけの武力をバックに、要求も威圧も
行わない事が……
彼らには不気味に見えてすらいた。
問われたウィンベル王国・現国王の叔父は、
少し困った表情になり、
「それをしてどうなりますか?」
「……何?」
逆に聞き返す彼に、皇帝は思わず疑問の声を
上げる。
そしてライオネルは少し間をおいてから、
「力により支配し、力により要求を通してきた。
その事について非難はしません。
古来、国家というのは多かれ少なかれ、
そういう事の繰り返しだったはずです」
「…………」
マームードは沈黙して聞き、先を促す。
「確かに、帝国の人外や亜人の扱いに関して、
思うところが無いわけではありません。
今回やって来た戦力だけでも―――
何かしら要求を通す事は出来るでしょう。
ですが、それをしたところでどうなるの
でしょうか?」
彼は側近たちにも視線を配るよう見渡し、
「周辺国や人外は帝国の力により、理不尽に
状況を変える事を余儀なくされた。
同じようにこちらが力でもって、現状を
変えたとしても……
それが同じ結果、同じ不満を残さないと
どうして言えるのです?」
確かに今回来た使者たちが『要請』すれば、
いくらか周辺国や人外への差別や理不尽な
扱いは、改善されるに違いない。
だがそれは同時に、ランドルフ帝国から
恨みや不満を買うという事になりかねない。
そうなると、今度は別の火種を抱える事に
なるのだ。
皇帝はウィンベル王国の使者の言葉の意味を
すぐに理解し、
「なるほど……
だがそうなると差別は厳然として残る。
そして貴国の事を聞けば、期待する国や
者もいよう。
帝国と関わる以上、無関係というわけには
いかないのだぞ?」
側近たちはやり取りを固唾を飲んで見守る。
それに対するライオネルの答えは、
「ですから、言っております。
『思うところが無いわけではない』と。
実際、こちらの大陸でも―――
新生『アノーミア』連邦というところが、
獣人に対する差別が酷かったのですが。
最近はすっかり大人しくなったみたいでして」
「……ふむ?
それはどういうわけか?」
マームードが詳細を求めると、
「さあ、ただ―――
交易を盛んに行いますとね。
いろいろと噂が聞こえてくるものでして。
『差別がなりを潜めた』とか、
『獣人に対する扱いが良くなった』とか……
そういうところへはこちらとしましても、
何かオマケというか、安くしてあげたいと
思うじゃないですか」
彼は言外に、差別を是正するのであれば
減額や取引き拡大に応じるが―――
現状を変更する気の無いところへは何の優遇も
行わない……
と言っているのだ。
「それで差別や迫害が無くなるかね?」
「そもそも、差別や迫害が理不尽なものでは
ありませんか。
帝国では亜人や人外に対し―――
差別・迫害を行わなければならないと、
法で強制しているわけでもないでしょう。
その理不尽な事を止めるだけで利益に
なるのであれば……
一考する者は多いのではないでしょうか」
ライオネルの言葉に、皇帝は大きく息を吐き、
「それでも、考えを曲げぬ者もいよう。
その場合はどうする?」
「人間、考え方に差があれば意地もあるで
しょうから―――
ただその場合、他と比較して不利益を
被ってもらうだけです。
そしてそんなところで商売を続けたいと思う
者がいるかどうか……でしょうね」
経済の流れにおいて商人は重要である。
理不尽な事を止めるだけで得られる利益を、
そこの領主なり君主が認めなければ―――
他へ移るだけだ。
さらに商人がいなくなった事に対する不便や
不満は、そのまま上へと向かう。
国家を経営してきたマームードは瞬時に
それを理解し、
「取引きそのものはするのだから……
優遇しないからと言って恨まれる筋合いは
無い。
優遇して欲しければ、自主的にする事が
あるだろうと―――
利益の面で説得する。
なかなかうまいやり方だ」
「お褒めに預かり恐縮です」
皇帝の言葉に、ライオネルは頭を深々と下げる。
「やはりそちらとは国交を結ばねばならんな。
ところでライオネル殿。
これは個人的な話になるが……」
「何でしょうか?」
陛下直々の個人としての話に、側近が再び
ざわめくが、
「もし隠居か引退するような事があれば、
是非帝国に来てもらいたい。
そなたならどのような役職も望めよう」
「はは……
その時が来たら考えておきましょう」
こうして国交樹立の言質を皇帝に取り付け、
帝国とウィンベル王国との交渉は終わった。
「お前の『隕石落とし』が敗れたと聞いたが……
それは事実か?」
大柄の鎧に身を包んだ、半開きの目をした
男が―――
濃い黄色に近いブロントの長髪の女性に
問い質す。
「マジマジ。大マジ。
帝国の威信を見せつけようと
したんだけどさぁ。
恥かいちゃったわぁ」
「あの、ロンバート魔戦団総司令。
ここはもう帝国ですので、演技は……」
やや体形が細くなったゾルタン副将軍が、
彼女にツッコミを入れる。
「アタシこっちの方が気楽なんだけどねぇ。
いいじゃん、ここ帝国の人間しかいないしー」
「ここは帝国武力省司令室だ。
少しは身分に相応しい態度を頼む」
組織のトップであるアルヘン将軍は、
呆れた表情で魔戦団のトップに苦言を呈する。
「わたくしの風魔法も―――
シン殿には通用しませんでした。
それらを踏まえて、今後の戦略や計画を
ご一考ください」
そこにはティエラ王女もおり……
自身の経験として、侵略計画の断念を暗に
求めるが、
「それは陛下がお決めになる事だ。
その陛下から、まだ軍の再編成や誘導飛翔体の
改良等―――
中止するようには命じられていない。
恐らく、今行われている会談次第とは思うが」
そして帝国武力省将軍もまた……
言外に皇帝の命であれば従う、つまり侵攻中止に
傾きつつあった。
「しかし、ムラト新機軸技術部門主任の
予想通り―――
水中戦力が出て来たか。
今、彼は水中爆雷などの対抗策を考案、
検証しているが……
それが完成するまで事態は待ってはくれん
だろうな」
「向こうもそこまでお人好しじゃねーでしょ。
だからこそ今回、使者として―――
ドラゴンにワイバーン、ロック・タートル、
ラミア族、人魚、魔狼と揃い踏みしているん
だから。
しかもあのヒミコさん?
ワイバーンの女王様だってさ。
下手すりゃ帝国領にいるワイバーン全てが
敵に回っちゃうよ?」
その言葉に、ため息とも達観ともとれる
息を吐く音が室内を支配する。
「『暴風姫』のティエラ王女様、
『星を降らせる者』、
ロンバート魔戦団総司令が敗れた相手。
自分も一つ手合わせしてみたいものだ。
そのシンとやらと―――」
アルヘン帝国武力省将軍の言葉に、他の三名の
視線が集まった。
「こちらの要望を聞き届けて頂き、感謝する」
「はは……
まあお手柔らかに」
翌日も厨房に入り浸っていた私に―――
ティエラ王女から、極秘裏に会わせたい人が
いると聞いて……
メルとアルテリーゼに後を任せ、そちらへ
向かったのだが、
そこで帝国武力省将軍―――
ロッソ・アルヘン様を紹介され、
そこの施設内の訓練場のようなところで、
一手を所望されてしまった。
そこには従者見習いとして来ていたメリーさんが
いたのだが、正体は魔戦団総司令……
メリッサ・ロンバート様だと聞いて驚き、
さらにティエラ王女様もおり―――
要は、彼女たちに勝った私とアルヘン様も
戦ってみたい、という事で、半ばなし崩しに
対戦が組まれたのだった。
「しかし、誰もいないんですか?」
周囲を見渡すと……
ティエラ王女様とロンバート様の他は、
ちらほらと数名の姿しか見えない。
「あくまでも、自分個人の勝手な要望だからな。
武人として―――
あの2人に勝った者の実力を直に味わって
みたい、ただそれだけの事。
ゆえに手合わせを引き受けてくれた貴殿には
感謝している」
勝った、と言われても結構微妙なんだよなー。
ただ無効化しただけで、相手が戦意喪失して
くれたから、試合上では勝利したという事に
なっているだけで。
私がそれまでの二人の試合を思い出していると、
「感謝の意、そして敬意を込めて―――
貴殿に自分の魔法を明かそう。
武器広範囲化魔法……
それが我が魔法。
見て頂いた方が早いか」
アルヘン様はそう言うと、片手に持っていた
模擬戦用の木剣を軽く振る。すると―――
「っ!?」
その木剣が一瞬巨大化したかのように見え、
そして風圧が振られた場所へと向かう。
「これが自分の魔法だ。
剣の一振りで数百の敵を屠り、
盾を構えれば数千の矢を防ぐ。
では、お手合わせ願おう……!」
そう言うと帝国武力省将軍は、静かに構えた。
「おーおー、張り切ってるねえ」
「『一人の軍隊』と呼ばれる、
アルヘン様の実力は知っておりますが……
果たして、シン殿にどれだけ通用するか」
離れた場所―――
段々となった階段のようなところで、メリッサと
ティエラ王女が観戦する。
「発動すりゃ一瞬だけど……
『抵抗魔法』だっけか。
あれ、相手の魔力を上回ってなけりゃ
いけないんだよねえ。
魔力に関しちゃ、アタシよりアルヘンの方が
確か上だったような」
「ですが、シン殿が勝った場合―――
もはやこの帝国には、シン殿を上回る魔力を
持った、戦力はいないという事に」
二人はそこで沈黙し、対峙するシンとアルヘンを
見下ろすように注目した。
「……フン!」
「おっとと……!」
アルヘン様の剣撃を何とか避ける。
ジャンさんも武器特化魔法を使うが、
それは武器性能を極限まで引き上げるもので、
彼の場合は性能そのものではなく、
武器そのものが巨大化した場合に匹敵する、
攻撃範囲と威力を高めるもの。
似て非なる魔法だ。
しかし、さすがに本気では来ないか。
使者にケガさせたら、いろいろ問題に
なるだろうし。
しかしどう決着を付けたものか―――
と思っていると足元に突風が走り、
「うわっと!?」
思わずジャンプで避けると、地を這うように
強風が吹き荒れる。
「今のは、手加減していなければ危なかったぞ。
いい加減本気を見せて頂きたい」
彼の言い分もわからないではないけど……
ここはいわば『敵地』。
ウィンベル王国とは異なり、あまりメンツを
潰すような事はしたくない。
まだ会談が残っている人たちもいるし。
そこで私は距離を近付け、
「?? どうした、シン殿」
疑問の声を上げるアルヘン様にそのまま
接近し、
自分の持った木剣を中空へと構え、彼の目前に
差し出す。
「何のつもりか?」
その問いには答えず、腕と木剣を地面に水平に、
一直線に構え直し、
「……この木剣を攻撃してみてください。
私が全力で『抵抗魔法』を使いますので」
横にしている木剣に対し、縦に攻撃すれば
体にダメージはいかない。
その状態で―――
アルヘン様の『武器広範囲化魔法』と
私の『抵抗魔法』、どちらが強いか『力比べ』を
しようと申し出たのだ。
「そうだな。
魔力・魔法勝負ならば―――
それでわかるだろう。
では行くぞ、シン殿……!」
魔力を集中しているのだろう、アルヘン様から
地響きを通して何らかの強化が行われている事が
伝わって来る。
そこで私は小声で聞こえないようにつぶやく。
「(魔力により、物理的な媒体の威力や
攻撃範囲を広げるなど―――)」
「……はあっ!!!」
「(そんな事は、
・・・・・
あり得ない)」
彼が木剣を振り下ろすと同時に、私のつぶやきも
完了し、
「くっ!」
「……!!」
私の木剣は地面に弾き落とされたが、
アルヘン様の『武器広範囲化魔法』は発動せず、
彼は自分の木剣を見つめ、何が起きたのか
情報処理に追われる。
「完全には打ち消せませんでしたか……
相打ち、ですかね」
私が痺れた手を振ってそう言うと、
「すさまじき『抵抗魔法』―――
その威力、堪能した」
と、引き分けという事で納得してくれたようで、
何とか手合わせは無事に幕を閉じた。