テラーノベル
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一夜が過ぎ、水平線が白みがかり、東雲がたなびく明けの空に、私達は目的地であるエラト港を認めた。演習で訪れた回数も少なく無く、見慣れた稜線に港湾設備だったが、私達が目を回したのはそこに居た船の数だった。
軍の兵員輸送船、徴用されたであろう客船、貨物船、貨客船、総じて20隻ばかりはいようかという一大船団。前日に聞いた話では、この船を二組に分け、1つを「第一揚陸隊」、一次上陸部隊に。1つを「第二揚陸隊」、二次上陸部隊として作戦を遂行するという手筈になっている。ミリアがどれに居るかは分からなかったが、この何処かにアイツが居る以上は、絶対に損害を許してはいけなかった。この身に代えてでもだ。
「うわぁ…すんごい大きさの船団だなぁ…」
リルが目を見開いて船団を見ている。他の仲間も一緒になって船団の規模に圧倒されていた。
「まさしく…乾坤一擲の大作戦って訳だな…」
普段冷静なエリー砲長も、さすがに息を呑んだようで、釘付けになっていた。
そして私達に合流した艦艇以外の艦艇も港に集結していたが、その戦力は、前世を含めても見たことの無いものだった。
私達のノルデン共和国は、島国であり、その特性上から、海軍国家だ。だから海上戦力は豊富に有しているのだが、この作戦に於いては連合艦隊の総力を挙げて運用され、共和国海軍戦力の3分の1近くをここに集結させていた。その内訳は、後に知った話では以下のとおりである。
戦艦3、防護巡洋艦6、装甲巡洋艦4、一等砲艦2、駆逐艦20、水雷艇20
これほどまでの大艦隊は共和国海軍史にも特筆すべき物で、私達にその「乾坤一擲の奇襲作戦」の重要性を思い知らせるには十分すぎるほどだった。
今作戦にあっては、私の乗る「コートラー」をはじめ、防護巡洋艦3、駆逐艦6が船団を囲む円陣を組んで船団防御に就き、その他の艦艇は上陸目標である、ベルマ島の両側面から展開し、敵海軍艦艇の侵入及び攻撃を防ぎ、かつ地上部隊の要請に応じて艦砲射撃を行う体勢を取ることになっている。
そしてその大作戦の為に、私達の艦は港で補給艦「ファールソン」号と接舷し、ありったけの物資、燃料、弾薬の補給を行った。
「踏ん張れーッ‼」
「ゔぅ゙ぅ゙~ッッ…」
全員で顔を真っ赤にして、ワイヤーに下がっている石炭袋を引っ張り込む。これが大変な重労働で、もう少し技術が進めばディーゼルエンジンになってホースを繋げるだけで給油できるんだけども、この世界ではそうもいかない。ボイラーで石炭を燃やして動かす蒸気機関が主流のこの世界では、デカい麻袋等に詰めた石炭を両艦の間に通した曳索(ワイヤー)に引っ提げて、それを人力で入れ込むのだ。
私は陸自で体力仕事は嫌というほどやっていたが、体も変われば筋力も変わるので、私の生涯でも三本指に入るほどのキツさである。
「…ゔぅぅぅ、も゙ゔ無゙理゙でずぅ゙ぅ゙~…ッ」
メルダが顔から耳の先まで真っ赤になって、今にも魂が抜けそうになっていた。
「メルダァ~ッ、倒れろ!後ろに全体重掛けて倒れろぉ~ッ!」
私が声を掛け、全員殆どぶっ倒れるようにして何とか最後の石炭を運び込んだ。
息を荒くしながらふと周りを見ると、隣の曳索で砲弾を運び込んでいて、そこの担当分隊は赤を通り越してもはや青白くなった顔で黙々と運び込んでおり、申し訳ないが「石炭運びで助かった」と思った。
その調子で午前には補給を終え、出港となった。
「出港用ー意、錨を揚げ」
その放送の一声で、煙突の汽笛がボオーッ、と力強い音を立て、水兵が笛を吹いた。ガラガラという音とともに錨を繋ぐ太い鎖が巻き上げられ、水面を錨が離れた。
そして周りの船も汽笛を鳴らし、一斉に洋上をするすると滑り出した。すると船団は段々と陣形を形成し始め、立派な四列縦隊を形成し、その周囲を作戦の手筈通りに私たちの艦が囲んだ。
こうして私達は、遂に来る開戦に向けて、戦争という巨大な機械の、1パーツとして、歯車となって回り出したのだ。私達の乗る防護巡洋艦「コートラー」は、船団の左側面に位置した。つまり、戦闘が起きれば、私達、左舷直の乗組員が砲戦を担当する訳だった。私達はその動き出す戦争という機械の織り成す動作に、ただ見惚れる部分もありつつ、私の中には、一部影の差す部分も、あった。
「これだけの護衛と上陸部隊がいれば、ベルマ島なんて、来週には占領してるんじゃないですか?」
#切ない
雪代 真希奈
43
くろぬか
2,870
42
「かも知れないな、私もこんなのを見るのは初めてだよ…!」
エリー砲長とラナは誇らしげに船団を眺めては、嘆息を漏らしている。私の隣にいるリルも、同じくはしゃいでいた。
「これじゃあ負け無しだねぇ!今のうちに祝杯を酒保で買っとかなくちゃ、皆に取られちゃう♪」
「アハハ、そんなに急ぐことないよお、まだまだ始まったばかりなんだから」
「そう?確かに慢心も良くないけど、これを見て確信しないのもおかしい話だと思うけどなぁ」
冗談交じりに話してはいたが、私の脳裏には、消そうとしても消えない影がある。それは、前世の記憶に起因している。
船団の輸送船を見ると、「喫水線」、船と水面の境界線。それが、かなり高い位置まで来て、乾舷が低くなっている。という事は、あの船内には兵隊と物資がすし詰めにされて、相当鈍重になっている、という事だ。
もし、敵が来たならば、こんなに良いカモは無い。鈍重であれば速力も落ち、機動性も下がる。つまり砲雷撃から逃れるのが難しくなる。そして何より、「兵隊を満載している」事が重要なもんで、前世の太平洋戦争では、かのガダルカナル方面やニューギニヤ方面に向かった兵員輸送船は兵隊を1,000人以上無理やり満載し、敵潜水艦の魚雷を受けてその重量の為にたちまち轟沈して、大量の兵隊を道連れに海の底へ消える事が多々あった。この話は、私が今、前にしているこの船団に対しても同じ話だ。加えて、エルフ族はその長命と、「出生がよく分からない」事が、その事態をさらに悪化させていた。いつ生まれるかもわからない、教育に時間のかかる兵隊を、このオンボロ船一隻で大量に失ってしまえば、それは大きな人的戦闘力の喪失になる。だからこそ、私はこの状況を決して楽観視する事は出来なかった。何より、ミリアが死んでしまうかもしれない。あそこで死んでしまったら、骨も拾ってやれない。私は心に固く守り抜く事を誓ったが、やはり不安は拭えなかった。
やがて日は沈み、灯火管制下で夜目に慣れ、空に満点の星空が広がっていた。そこで私達二番副砲員は、せっかくだからと星空の下で、作戦前のちょっとした酒盛りをやる事にした。当然、見張り任務も兼ねているから多くは呑めないけども。
「みんな、酒は持ったか?」
「「はい」」
エリー砲長が全員の飯盒の蓋に、酒を注いで最後に自分の蓋に酒を注ぎ入れ、顔の前に掲げた。
「我々の武運長久と、戦勝を祈って。」
「乾杯」
「「乾杯」」
皆も顔の前に掲げて乾杯を言い、蓋をクイッと傾けた。
酒ののど越しと、まろやかな風味が口に広がり、胸がポカポカと温まる。それから砲長が肴を出して、皆で吞みながらつまんだ。
「…ッあぁ~、やっぱりこのお酒美味しい~」
リルは砲長の好物である酒の「シナレー」が好きで、いつも砲長と瓶を共有している。ちなみに、この酒は前世で言うところのブランデーのような味だ。
「リルはそれ好きだよねぇ」
「もうだーい好き」
「リル、あんまり呑むなよ?私の分もあるんだからな」
砲長が冗談交じりに言う。
「はーい」
「でもあれだけ訓練したんだから、私たちはバッチリですよぉ」
「慢心はいかんぞ?」
リルは自信満々の様子である。私はと言えば、実戦を経験する事への高揚感と、一抹の不安とが混ざり合い、変な心持ちであった。
「そうだよ、その隙を突いてくるかもしれないんだから」
と、私が言うと、
「大丈夫だよ~、むしろ悲観してる方が良くないよ?」
と返され、呆れて笑ってしまう。笑い合いながら酒を煽る。
「皆さんは、怖くないんですか」
そう改まって言ったのは、メルダだった。
「なんだいメルダ、不安なの?」
「いえ、その… 怖いんです。だって、砲弾が当たったりしたら、死んじゃうんですよ?」
砲長の眉が動いた。それもそうだ。長命たるエルフにとって、死はあまり身近ではない。死への恐怖が強いのは当然だ。砲長も、掛ける言葉を探そうとして、声を詰まらせている。
するとリルが返した。
「…大丈夫だよ、砲弾でメルダが死ぬ時は、私達も一緒に死んじゃうもん。みんな一緒だよ」
「…フフッ」
これには砲長も笑ってしまい、私もつられて笑った。よりにもよって、なんてことを言うんだとリルの肩を叩いて泣き笑いした。
「お前等、私の命令無く死ぬなよ?砲が動かせなきゃ、私が困る!」
砲長はそう言って笑った。
「そうだそうだ、私だって、弾は込められないからね」
メルダの顔にも笑顔が灯り、私達はその夜を楽しんでいた。
ふとした時、エリー砲長の長い耳がピクリと動いた。サッと砲長は背後に広がる海原に振り向き、それを見た私は思わず訊ねた。
「砲長、どうかしたんですか?」
みんなもキョトンとして、砲長の方を見ている。砲長の疑問は、全員の疑問になっていた。
「…何か、水を切るような音が…」
私の耳には何も聞こえないけれど、砲長の目がそれが間違いであることを伝えて来る。酔いもキッパリ覚めて、虫唾が走るような、イヤな緊張の糸が、繭となって私たちを包んでいた。そして柵にもたれて水面をジッと見つめると、遠くの方に、私が一番見たくなかった物が見えた。
海面に浮かぶキラキラと光る白い雲が、不自然に消えては現れる。消えている部分の形を目でなぞっていく。長い長方形に、太い棒が一本縦に入り、細い線がほぼ垂直に突っ立っている。
それは、紛れもない、水雷艇の影だった。
「…! 左舷、水雷艇と思しき艦影視認!」
私の絶叫とも言える叫びは、忽ち艦内をこだました。
コメント
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おお、とうとう出撃か…!船団の規模感とか、石炭運びの重労働描写がリアルで「ああ、戦争前夜だな」ってゾクゾクしたわ。夜の酒盛りで和んでると思ったら、最後の水雷艇発見で一気に緊張が走るところ、息止まった。続きが気になる!