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黒川イザナ夢小説
月姫のストコン参加作品
設定
名前 佐波奈 紬 サワナ ツムギ
年齢 17歳
タイムリープ能力
死ぬと過去に戻る
発動条件:イザナ関連の“後悔” or “死”
名前を呼びそうになって、やめた。
喉の奥に引っかかった音は、
もう二度と外に出てこない気がした。
目の前にいるのは、黒川イザナ。
知らないはずの人。
初めて会ったはずの人。
それなのに。
どうしようもなく、胸が痛い。
「……誰だよ」
低い声。
それだけで、泣きそうになる。
「っ、ごめん」
理由もなく、謝っていた。
触れた腕は、冷たい。
びくりと揺れた彼が、
ゆっくりとこちらを見る。
「離せ」
短い拒絶。
それでも、離せない。
(……また、だ)
頭の奥が、軋む。
思い出そうとするほど、
何かが崩れていく。
それでも、分かる。
(この人を――)
(何度も、失ってる)
ふと、視界に滲む。
――あと、一回。
息が止まる。
(これで、最後)
「……少しだけでいいから」
声が震える。
「ここに、いて」
沈黙。
夜風だけが通り過ぎる。
やがて。
小さく、舌打ち。
「……ほんと、しつけぇな」
拒絶のはずなのに。
振り払われなかった。
その一瞬で、
確信してしまう。
(ああ)
(この人は、優しい)
同時に。
別の感覚が、浮かぶ。
(……知ってる)
“このあと”を。
世界が、静かに歪む。
乾いた音。
遅れて、痛み。
視界が傾く。
倒れる。
腕が、伸びる。
「おい――」
初めての声。
焦り。
動揺。
(……やっと)
その顔を、見れた。
(ねえ)
呼びたい。
名前を。
でも。
(思い出せない)
零れ落ちる。
全部。
そのとき。
「……つ、」
彼の声が、止まる。
「…………」
言いかけて、
やめた。
その表情だけで、分かってしまう。
(ああ)
(この人も)
知ってるんだ。
「……毎回、同じ顔する」
かすれた声。
「泣きそうな顔で、来て」
「何も言えねぇまま、死ぬ」
世界が、遠くなる。
「……なのに」
「名前、言わねぇ」
震える声。
「……言えよ」
初めての、願い。
(ごめん)
本当に、ごめん。
(もう)
(分からない)
意識が、落ちる。
最後に見えたのは、
泣きそうに歪んだ、
彼の顔だった。
ーー暗転
世界が歪む。
いつもと同じ音。
割れるみたいな、乾いた音。
目を開ける。
朝だった。
何もかもが、普通で。
何も、残っていない。
ただ。
胸の奥が、少しだけ痛い。
理由もなく。
外に出る。
見知らぬ道。
見知らぬ空気。
その中で。
一人の少年が、立っていた。
白い髪。
冷たい目。
目が合う。
一瞬。
本当に一瞬だけ。
彼の瞳が、揺れた。
「…………」
何かを言いかけて。
やめる。
紬
「……誰ですか?」
その言葉で。
今度こそ、本当に終わる。
彼は、数秒だけ黙って。
それから、
小さく笑った。
「……別に」
背を向ける。
もう、振り返らない。
でも。
ポケットの中で。
強く、拳を握りしめる。
その中には、
小さく折れた紙切れ。
何度も書いて、
何度も消した、
たった一つの名前。
『紬』
それだけが、
唯一、
消えなかった。
紬は、そのまま歩き出す。
知らないまま。
全部を失ったまま。
それでも。
すれ違った瞬間、
ほんの少しだけ。
涙が、こぼれた。
理由もなく。
ただ、
どうしようもなく。
終わり。
――数日後。
名前も知らないはずの街を、
紬は、何度も歩いていた。
理由は、ない。
ただ。
(ここ、よく来る気がする)
それだけだった。
同じ時間。
同じ道。
同じ角。
気づけば、足が向いている。
そして。
今日も、いる。
あの少年が。
少し離れた場所で、
壁にもたれて、
何をするでもなく立っている。
目が合う。
逸らされる。
それで終わり。
言葉はない。
関係もない。
それなのに。
紬の足は、止まる。
胸が、痛む。
どうしてか分からない。
怖いわけでもないのに、
近づけない。
(……なんで)
喉の奥が、詰まる。
言葉にならない何かが、
そこにあるのに。
名前が、つかない。
その日も、
結局なにも言えずに、
すれ違う。
風が、吹く。
その一瞬だけ。
かすかに、
声が聞こえた気がした。
「……つむ、」
振り返る。
でも、
もう誰もいない。
ただ、
空っぽの道だけが残っていた。
しばらく立ち尽くして。
やがて、
紬は小さく首を振る。
「……気のせい、か」
そう呟いて、
歩き出す。
けれど。
頬を伝った涙の理由を、
最後まで、
思い出すことはなかった。
――
同じ時間。
同じ場所。
もう誰も来ない道で。
一人、
少年が立っている。
ポケットの中の紙は、
もう、開かない。
開けば終わると、
分かっているから。
それでも。
指先だけが、
何度も、
そこに触れていた。
「……一回くらい」
かすれた声。
「名前、呼べよ」
返事は、ない。
風だけが、
通り過ぎる。
それでも、
彼は動かない。
まるで、
まだどこかで
“やり直せる”とでも思っているみたいに。
でも、
もう。
次は来ない。
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