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#一次創作
#薔薇
げすと
90
たった3日という凄まじい速度で建設された、京都の魔術師と偽・魔術師達が拠点としていたビル。
その最上階へと妖術師が向かっている途中で、異変は起きた。
「………妖術師が来るまであと数分。京都の魔術師と一度は接触したかったけど、再現の魔術師の指示で持ち場は離れられないし仕方ないか」
ビルを登り続ける妖術師を待ち構え、その討伐を目的とした『偽・妖術師』である僕は、部屋の中心部にある椅子へと腰を落とす。
何も無い空間。ただひたすら待つだけの僕は、特に意味もなく自分が所持してた刀に目をやる。
外見上に異変はなく、僕が使っていたいつも通りの刀。
だが、僕の中で何かがザワついていた。
「………この違和感はなんだ。妖術師が近付いている事への恐怖?いや、そんなはずはない。僕はもう覚悟を決めているんだ」
この拭い切れない違和感。一度も体験したことがないザワつきに、僕は内心少しだけイラついていた。
妖術師との戦闘で無駄な感情と違和感が残り続ければ、一瞬の迷いで命を失うことだって有り得る。
僕はその違和感をとっぱらおうとして席を立ち、僕の身長を越える窓ガラスへと近付いて外を眺める。
「………ダメだ、いますぐ何かをしなければいけない気がする。焦り、なのか。再現の魔術師の命令を果たさなければいけないことへの焦り?」
外の景色は相変わらずの街並み。少し違うとすれば、外を歩く人間は誰一人として居ない点だ。
そんな景色を見ながら、僕は自分自身に生じる異常へ思考を働かせる。
「違う、僕は焦ってなんかいない。だって僕の目的は妖術師の―――。」
ふと、僕は腰に携えていた刀が視界に入る。
まさかとは思った。そんなはずがないと思いたかった。けれど、その刀を抜刀した時に僕の中にあった違和感の正体が露わになった。
「―――あぁ、そうか。ここで始まってしまうのか」
愛刀である『加州清光』の刃が錆びていた。
それも手入れを怠ったなどの要因では無い。人為的な、外から覆い被さるように錆びていた。
刀が錆びる現象に、僕は心当たりがある。
それが、僕に与えられたもうひとつの指名だ。
「………これは、妖術師にも話さなければいけないな」
僕は窓ガラスから離れ、先程と同じように椅子へと座る。
階段を駆け上がる音が聞こえ、妖術師がもう すぐそこまで迫っている事に気付く。
本当なら、このまま妖術師が来たと同時に攻撃を仕掛け、先手必勝で命を刈り取る予定だったが、この錆びが発生したことでその予定は消えた。
「………待っていましたよ、妖術師」
「―――あぁ、俺もお前に会いたかった所だ。偽物ヤロー」
目の前に現れた妖術師は、この間戦った時とは少し違い、どこか気分がスッキリしていた様子だった。
恐らく、この下の階にいたヴィヴィアンと戦った事で何か決心がついたのだろう。
「………そんな怖い顔しないでくださいよ。なにせすぐに戦いを始めようって訳じゃありません………少し、話をしませんか」
ヴィヴィアンとの戦いで迷いが消えた今、僕は僕の使命を果たし、妖術師に全てを伝えなければならない。
「あなたに時間が無いのは分かっています。僕自身も悠長に無駄話ができるほど、暇じゃありませんから」
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暫く経ち、妖術師に対して『再現の魔術師』から移された魔力の件についての話が終わったあと、僕は本題へと入る。
「―――妖術師。僕がこうして話をしているのは、貴方にお願いがあるからです」
「………お願いだァ?」
妖術師の表情が険しくなる。
それもそのはず、ついこの間まで戦っていた相手から突然の要求など、何か裏があるに決まっている。
現に、僕がするお願いというのは、妖術師にとっても酷な話であり、僕にとっても不本意な内容だ。
それでも、この先を乗り越えるには話すしかない。
「貴方はこの先で、『陰陽師』と戦う事になります。どの時代に生き、どの術を使う陰陽師かは分かりませんが、戦うことは確実です。―――そこで、貴方に『陰陽師の討伐』をお願いしたいんです」
そう、他でもない妖術師に対しての要求。それは幾度の時を越え、洗練された術を扱う最強の術師集団『陰陽師』の討伐だ。
「陰陽師の討伐、だと」
どうやら妖術師も陰陽師について何か知っていそうな様子だが、ここでもし認識の齟齬が起きでもしたら作戦に支障が出る。
一から説明したい……のだが、それにはあまりにも時間が掛かりすぎる。
だから簡潔に、全てを話す。
「陰陽師は全ての術師の祖であり、圧倒的な実力を持つ異能集団です。僕はその陰陽師を1人残らず狩るといった使命を課されています」
「………それは魔術師の指示か?」
「いいえ、妖術師である貴方の討伐は魔術師の指示ですが、これは違います」
僕は腰に携えていた刀を抜き、その刀身を妖術師へと見せる。
「僕の刀は少々特殊でして、もし陰陽師との戦闘が1時間以内に行われる時、こうやって刀身が錆び、新しい刃が姿を現します」
「………それが本当なら、ここに陰陽師が現れるって事だよな。でもよォ、陰陽師は1000年前に生きてたンだろ?既に死んでンじゃねェのか?」
妖術師の指摘は間違っていない。陰陽師は長命が多かったと聞くが、流石に1000年以上も生き続けられる生物はそういない。
ましてや彼らは人間。人個体として1000年以上生きられるなど有り得るはずがない。
「はい、陰陽師の全員が死亡しているのは確認済みです。ですが……もし肉体が消え、怨念としての姿で残り続ける術があるとしたら、可能性はあります。ましてや相手は陰陽師、得体の知れぬ術師です」
「ンな術が完成しててもおかしくねェって訳か」
「それを踏まえた上で、陰陽師の討伐に協力して欲しいのです。僕一人でも倒せるかもしれませんが、不安要素は無くした方が良いと思いまして」
妖術師にとって特にメリットがない提案だが、陰陽師に対して何かしらの感情を抱いている彼であれば承諾してくれるはずだ。
それに、妖術師の中に存在する魔術師の因子。再現の魔術師が付けたにしてはどこか歪で、あまりにも小さすぎる。
再現の魔術師は一体何を企んでいる。
もし妖術師の命を脅かすモノであるなら、僕の計画に支障をきたすかもしれない。それだけはどうにか避けたい。
「テメェの案に乗るのは不本意だが、陰陽師が俺の敵になるってンなら殺してやるよ。それに―――。」
妖術師の言葉が止まる。
それと同時に妖術師の中にある妖力が爆増し、部屋を囲む窓ガラスがガタガタと音を出して震え始めた。
凄まじい程の殺気。どうやら陰陽師に対して向けていた感情は殺意のようだ。
「それに?」
「陰陽師なら一人心当たりがあってな、ソイツかどうか確かめてやンねェとな」
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それから僕たちは魔術師討伐へ向けて、互いに意見を述べ合い、最終的なシナリオは一通り完成した。
後は時が来れば妖術師が決行し、それに僕が介入する。その形でまとまったが、一つ問題点があった。
「―――京都の魔術師と創造系統偽・魔術師。この2名が戦えば、必ず創造系統偽・魔術師が負ける。そうなれば、僕たちの作戦も失敗する可能性が高い」
妖術師の妖力量では陰陽師に太刀打ち出来ない為、妖力の貯蔵量を最大まで元に戻さなければならない。
妖力を回復させるには妖術師の手で魔術師か妖を狩るか、偽・魔術師である僕が妖力を渡せば回復はできる。
だが、僕も陰陽師と戦うにあたって妖力の消費は望ましくない。
そこで生じるのは、どうやって妖力の補給を行うかだ。
最初は“時間経過での耐久戦に持ち込み、妖力の回復を待つ作戦”だったが、陰陽師相手に長時間の戦いで妖術の使用は不可避。回復は望めない。
次に“京都の魔術師を倒した後に戦う作戦”を考えたが、京都の魔術師も一筋縄で倒せる相手では無い。
その後もいくつか作戦が飛び交ったが、どれも現実的ではなく、僕たちは行き詰まってしまった。
最終的に妖術師から出た決断は、“創造系統偽・魔術師の魔力を『聖剣』によって補給し、体内で妖力へと変換する”といった作戦だった。
そう、問題点はコレだ。
創造系統偽・魔術師から魔力を補給出来たとしても、妖術師がそれに耐えきれない上に、僕が陰陽師を相手にすれば、創造系統偽・魔術師は京都の魔術師とタイマン状態になる。
それは創造系統偽・魔術師にとっては酷な事であり、下手すれば妖術師への補給もままならなくなる。
「俺にかかる莫大な負荷はこっちでどうにかする。要するに戦力が欲しいンだろ。創造系統偽・魔術師一人じゃなくて、それを支えるための人間が」
「はい、それも相当な実力者でなければ京都の魔術師を相手に立ち回るのは難しいでしょう。この短時間で集めるとなれば、人物は限られてきます」
僕の仲間は居ない。再現の魔術師によって生み出された『妖術師の紛い物』であるが故に、偽・魔術師は僕を嫌悪している。
となれば、妖術師の仲間に頼らざるを得ない。
「………そうだな。クソ、こんな時に惣一郎さんが居てくれれば……」
惣一郎と言えば、Saofaを設立した錬金術師。妖術師の父と共に魔術師による大規模魔法事件の解決にあたった人物。
確かに、錬金術師であれど、その実力は魔術師と同等。下手すれば京都の魔術師を相手に互角の戦いを繰り広げるだろう。
しかし、彼はもう死んでいる。再現の魔術師との戦いで命を落とした。
なにより、妖術師はその事をまだ知らない。
僕は伝えるべきか迷った。
錬金術師の死を直接言うべきか迷ったが、僕は妖術師に対して伝えない方を選んだ。
今後の作戦の前に心が折れてしまえば、全てが狂ってしまう。それだけは避けたいが為に。
「最上階に銃弾を撃ち込んだ方は?」
「あ〜……いや、ダメだ。あの人は接近戦が得意なタイプじゃない。京都の魔術師相手じゃ分が悪すぎる」
あの遠距離狙撃から放たれた銃弾は凄まじかった。ビル全体が揺れる感覚が今でも残っている程だ。
そんな実力者である人物は参加出来ないとなれば、戦える候補はもう―――。
「………あ、居るじゃねェか。とびきり強ェのがひとり、この階の下によ」
妖術師は床に指さしながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
まさか、と思った。
そうだ、そうだった。この妖術師は突破したのだ、贋作だがその強さは本物の騎士を相手に。
「王の命令は聞くもンなんだろ?騎士様ってのァ」
彼………否、彼女が京都の魔術師より強いのかは未知数だが、彼女の持つ技は創造系統偽・魔術師と相性が良く、再現の魔術師にとって脅威となるだろう。
「そうですね、彼女に勝った貴方なら命令出来るはずです。では、京都の魔術師戦は彼と彼女に任せましょう」
「あぁ、異議なしだぜ」
こうして、僕たちが抱える問題点は解決し、陰陽師討伐作戦のシナリオが完璧に完成した。
絶対に作戦通りに事が進むとは思えない。何せ相手は陰陽師だ、常識が通じる相手では無い。
それでも、多少はねじ曲げてでも、僕はこの作戦を実行する。
それが僕に与えられた役目であり、この先を存続させる唯一の方法なのだから。
コメント
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刀が錆びて陰陽師の接近を知らせる展開、ゾクゾクしました…!偽・妖術師の戸惑いと覚悟の間で揺れる心情が痛いくらい伝わってきました。妖術師に陰陽師討伐を託すシーン、二人の間に少しずつ生まれ始めた連携が熱いです。作戦の詰め方も丁寧で、続きが本当に気になります!