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お股ポテト
29
はるにし
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洗面所を出て、食堂に向かう。
お腹が空いたけど。
もうご飯の時間、終わっちゃったかな。
「リンネ!」
後ろから、バルトに声を掛けられた。
「バルト、おはよう」
「おはよう。もう昼だけどな」
「え! お昼なの?」
びっくりして背筋が伸びた。
そんなに寝ちゃったんだ。
「様子を見に行ったらいないから、探していたんだ」
「ごめん」
「構わねぇよ」
バルトが頭を撫でてくれる。
いつものバルトの手だ。
「朝の時点で熱は下がってたが。体は、辛くないか?」
「もう平気! お腹空いちゃった」
「なら、飯にしよう。食堂で待ってろ」
「ん? うん」
言われた通り、食堂で席に着いて待っていた。
バルトが食事を運んできてくれた。
「これ! じゃがいもとピヨピヨ豆のスープだ! それに、ガルガル猪の蒸し焼き!」
「覚えてるのか?」
「何となくだけど、覚えてる。懐かしいなぁ」
「……そうか」
バルトがセッティングしてくれた。
「わぁ! いただきます」
スープを口いっぱいに頬張る。
じゃがいもがホクホクで美味しい。
ピヨピヨ豆が柔らかい。
ガルガル猪の赤身肉はちょっと硬くて、食べ応えがある。
「たまには、昔の食事もいいだろ」
「うん! 美味しい!」
昔はジャガイモはもっとガリガリで、お豆も硬くて。
お肉もいっぱい噛まないといけないかったけど。
それでも僕にとって御馳走だった。
「ゆっくり食え。詰まらせるぞ」
「だって、美味しくて止まらない」
スプーンもフォークも止まらなくて、あっという間にたいらげた。
「ふぁ、美味しかったぁ」
僕は大満足でお腹を摩った。
「これって、バルトが作ってくれたの?」
「厨房を借りてな。食い終わってから、聞くかよ」
バルトが可笑しそうに笑う。
「だって、美味しかったから」
恥ずかしくて、ちょっと不貞腐れた返事になった。
それに懐かしい味だったから。
一気に食べちゃった。
「病気した後は、精のつくもん食べたがったんだよ、リンネは」
バルトが懐かしそうに語る。
また、過去の光景が頭の中に広がった。
熱を出すと、バルトは一晩中、額のタオルを変えてくれた。
僕が熱を出すのは、長くこの世界にいちゃった時。
結局、本体は病院のベッドで横たわるあの体だったんだ。
『バルト……手を握って』
魂がすり抜けて、元の体に戻る。
それが怖くて、バルトの手を強く握った。
『一緒に寝るか?』
『寝る。くっ付いていい?』
『いいよ』
縋り付いていないと、引っ張られる。
眠れば魂がどこにいるのか、わからなくなって。
それが、とても怖かった。
『リンネ、リンネ』
バルトの声が道標。
そこに戻ればいい。
僕はいつも、バルトを探してた。
『バルト、怖い、バルト』
泣きながら、バルトに縋る。
『大丈夫だ、俺がいる』
『うん……』
バルトの腕の中でなら、安心して眠れた。
(……思い出しちゃ、ダメなのに。僕の中に溢れてくる)
シュメリやバルトと過ごした、昔の記憶。
どっちも、持っていたい。
今の僕も、昔の僕も。
全部の記憶を持っているには、どうしたらいいんだろう。
(ムスクさんは、可能性って言った)
失う可能性もあると。
だったら、失わない可能性も、あるかもしれない。
「バルト、僕……森の家を見に行きたい」
「ダメだ」
バルトが即答した。
「どうして? 記憶が戻るかもしれないから?」
「反動で、総てを忘れたら、嫌だろう」
「でも、そうならないかもしれないよね」
「なるかもしれない。可能性があるなら、俺は勧めない」
バルトがいつになく頑なだ。
いつもは僕のお願い、聞いてくれるのに。
「ムスクは魔術師団団長を務めるほどの魔術師だ。そのムスクが危険だと言った。リンネを危険に近付けるような真似、できねぇよ」
バルトの表情が冴えない。
こんな顔、バルトは滅多にしない。
これ以上の我儘は言えないと思った。
「わかった。ごめんなさい」
「……俺こそ、ごめんな。本当なら、取り戻してやりてぇんだ」
失くした過去は、バルトと過ごした時間そのものだ。
バルトだって、きっと辛い。
「約束、したんだ、シュメリと。思い出さないって」
「うん」
「だから、僕、もう言わない」
「良い子だな、リンネ」
そういうバルトの顔が、何より辛そうで。
この選択が正しいわけじゃないと、言っているようで。
(だって、バルトらしくない)
いつものバルトなら、きっと記憶を取り戻すために頑張る。
バルトも自分を曲げてるんだ。
(そこまでして、僕を守ろうとしてくれているんだ)
僕は首のリボンに触れた。
シュメリとバルトの想いが詰まったリボンのチョーカー。
大事にするって決めたから。
僕はバルトに縋りついた。
コメント
1件
ああ、めっちゃ良かった…。食堂でのバルトとのやり取りから一気に引き込まれたわ。昔の料理を再現してくれて、しかも厨房借りて自分で作ったってバルト…優しすぎるだろ。それに、熱出した時に縋りついてた記憶のシーン、胸がぎゅっとなった。「大丈夫だ、俺がいる」の一言だけでこんなに安心感出せるのズルいよな。最後、自分の我慢を選んだリンネの成長と、それでも縋りつく姿が切なくて愛おしかった。守りたいけど守られる側にもなりたい、そのバランスが自然で素敵だった🔥