タクトの一撃が偽マデスに直撃した瞬間、閃光と爆発に包まれ、空気が震えるような音が響いた。不気味な静けさが漂う。
「くっ…!」タクトは息を呑みながら、煙が晴れるのを待った。だが、偽マデスは崩れ去るどころか、むしろその姿をさらに強化するかのように、魔力を振り絞っている。
「終わらせるわけにはいかないの。」リリスは冷静に言い放ち、指を鳴らす。その瞬間、偽マデスが再びその姿を現した。
「な…!」タクトは驚愕の表情を浮かべる。彼が放った一撃が、全く効いていないかのように見える。
だが、リリスはその場で静かに微笑んでいた。「あなたが感じる通り、偽マデスそのものにはもう何の力も残っていないわ。」リリスの言葉に、タクトは混乱した。
「じゃあ…一体、何が?」ミカエルが息を呑み、リリスを見つめる。
「偽マデスは、私が作り出した『擬似的な神』に過ぎない。」リリスの瞳に冷徹な光が宿る。「本物の力を引き出すためには、私がその力を引き寄せる必要があった。そして…それが、私自身の力。」
タクトはその言葉を理解しきれないまま、リリスを見つめた。しかし、リリスはゆっくりと手を差し出し、微笑んだ。
「あなたたちが今、感じるその不安定さ…それこそが、私の本当の力の根源なのよ。」
その時、空気が一変した。リリスの周囲に、異常な魔力が渦巻き始めた。タクトの心臓が急速に鼓動を打つ。何かが変わる――それを感じ取った。
「偽マデスは私の一部。…でも、私そのものではない。」リリスは静かに語り続けた。彼女の周囲の空気がますます歪み、強烈な魔力が渦巻く中、彼女はゆっくりとその姿を変え始めた。
「本当の私の力…それは、本体に宿っている。」リリスが言葉を発すると、突然その姿が崩れ、まるで豆腐のように柔らかく脆い形に変わり始めた。そこに現れたのは、かつて見たリリスとはまるで違う、異次元的な存在だった。
その本体は、無機質で冷たくガラスのように透き通っていた。しかし、その中にある無限の魔力が、ただならぬ強さを感じさせた。
「この形態では…」リリスは手を軽く振った。「私は壊れやすいの。豆腐のように、触れるだけで崩れる。しかし、それこそが、私の究極の力…」
その言葉に、タクトとミカエルは一瞬硬直した。リリスは本体を守るために、あえて選んでいたのだ。普通なら、こんな不安定な形態では、即座に攻撃され、力を失うはず。しかし、リリスの真の力は、その脆さの中にあった。
「だが、逆に言えば、これが私の力を最大限に引き出す状態。」リリスは手を広げ、その本体が微細に震え始める。「誰かが私に触れた瞬間、全てを吸収して、力として変換する。豆腐のように脆くても、誰にも傷つけられない。」
その瞬間、リリスの周囲に張り巡らされた魔力のバリアが、激しく変動し始めた。タクトとミカエルはその場を動けずにいたが、その力が凄まじいことを感じ取っていた。
「今、あなたたちが恐れているのは、この脆さの中に隠された強さだ。」リリスは一歩前進し、その手を伸ばした。「でも、それでも、まだ私を超えることはできない。なぜなら、私の力は誰にも傷つけられない。」
タクトとミカエルは、次第にその言葉の意味を理解していく。リリスの本体は壊れやすいが、それを操る力こそが、誰にも触れさせない『無敵の力』であることを。
タクトは、その事実を理解した上で、再度リリスに向かって歩み寄った。「ならば、やるだけだ。」タクトの声は静かだが、内には決意が込められていた。
「やるだけじゃない、倒すんだ。」ミカエルも剣を構え、気合いを入れる。
リリスは微笑みを浮かべながら言った。「そう…。でも、あなたたちが最後まで私を倒せると思っているの?」
その時、タクトは冷静に一つの計画を思いついた。脆さを活かす――それこそが、リリスの本体を打破する唯一の方法だと。
「僕たちが最後に勝つ。」タクトは静かに呟くと、再度剣を振り上げた。
その瞬間、戦いの幕が開け、空気が再び張り詰める。
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