気づいたら、俺は自分の部屋のベッドの上にいた。
ぼんやりと天井を見つめる。なんで俺はここにいるんだ?俺は確か、屋上で…。そうだ、屋上で、みんなに…。
頭の中に、みんなの冷たい視線がフラッシュバックする。誰も信じてくれなかった。必死に弁解しようとしても、届かなかった。
アメリカ
「ーーみんなは、俺のことをどう思っているんだろう……?」
床に落ちていたスマホに目が留まる。画面をつけようとした指が、途中で止まった。過去の経験が、俺の動きを止める。
きっと、メッセージアプリには罵詈雑言が並んでいる。SNSを開いたら、俺の悪口で溢れかえっているに違いない。
そんな現実を直視するのが怖くて、俺はスマホを投げ出し、ベッドに顔をうずめた。
時間がどれくらい経ったのか分からない。窓の外はもう暗い。家に誰もいないのが、せめてもの救いだった。この顔を、カナダ達弟や親父に見られるのは耐えられないからな。
翌朝、俺は重い身体を引きずるようにして学校に向かった。
どうしてみんなに会わなければいけないんだ。そう思うと、足が鉛のように重い。
昇降口に着き、自分の下駄箱を開ける。一週間前まで、ここにはみんなからのメッセージが入っていた。今はもう、何もない。
いや、一つだけあった。
俺の靴の中に、数えきれないくらいの画びょうが、上を向いて刺さっていた。
俺は、一瞬息をのんだ。過去に経験したいじめと全く同じ手口だ。あいつらの仕業だろうか?
俺は画びょうを一本ずつ抜き取り、靴を履いた。処理をし忘れたのか、一本の画びょうが刺さった。激痛が走ったが、俺は何も感じなかった。ただ、画びょうの刺さった場所が、心臓のようにドクドクと脈打っていた。
教室まであと少し。
アメリカ
(――もう、どうでもいい。)
そう自分に言い聞かせ、教室の扉に手をかけた、その時だった。
冷たい水が、頭から全身に降り注いだ。
教室の扉の上に置かれていたバケツが、俺が扉を開けた瞬間にひっくり返ったのだ。
教室の中からは、クスクスと笑い声が聞こえる。そして、いくつかのスマホのシャッター音が響いた。
俺の身体は、完全に凍り付いた。水滴が顔を伝う。
ああ、そうか。
もう、俺は、このクラスの一員じゃない
その瞬間、教室の奥から、とびきり大きな声が聞こえた。
モブ
「あはは!アメリカ、ずぶ濡れじゃん!」
モブ
「まじウケる!」
クラスメイトたちは、俺を助けるどころか、楽しそうに笑い、スマホで写真を撮っている。
俺は、みんなの顔を一人ずつ見て回った。
ドイツの顔は、いつもの冷徹さの裏に、わずかな苛立ちが見えた。「おい、何をしているんだ。早く席に着け」と、理性的な声で俺を促すが、その声には一切の感情がなかった。彼はただ、この場の混乱を早く終わらせたかっただけなのだろう。
イタリアは、俺を避けるようにフランスと話していた。彼にとって、俺はもう、憧れの「完璧なヒーロー」ではなく、
最低なクズになったのだ。
イタ王
「うわぁ、マジひどいんね…」
イタ王の声が聞こえた。水浸しになった教室を見て、彼は心底嫌悪しているようだった。
日帝
「こんなことするなんて、最低だぞ…」
日帝の声が震えていた。俺は、彼だけは信じてくれるかもしれないと思った。だが、彼の瞳は、俺を疑う目で満ちていた。彼は、モブ美の「怪我」と、俺の「ずぶ濡れ」を比べて、どちらがより「被害者」であるかを判断している。そして、その天秤は、明らかにモブ美に傾いていた。
ソ連
「アメリカ、お前……本当に、やったのか?」
ソ連が、俺に問いかけてきた。彼の声には、いつもの皮肉なトーンはなく、ただ純粋な疑問と、少しの失望が混ざっていた。
その言葉は、俺の心をさらに深く抉った。
俺は、何も答えなかった。いや、何も答えられなかった。
反論する気力も、弁解する意味も見出せなかった。ただ、全身の力が抜けていくのを感じる。
モブ美
「ごめんなさい。アメリカさんの『秘密の相談相手』なんて、私だけじゃなくて、みんなもなってあげられるかなって思ったんだけど……やっぱり、難しいみたいですね。」
モブ美が、教室の真ん中に進み出て、お姫様のように微笑んだ。その言葉は、まるで教室全体に響き渡る劇場の台詞のようだった。
モブ美
「ね、アメリカさん?昨日の放課後、『みんなには言えない大切な相談がある』って、私に話してくれたじゃない?でも、みんなに知られたくないことなら、私だけに話してくれたら良かったのに……」
モブ美の言葉に、教室はさらにざわついた。
モブ
「え、アメリカ、相談なんてしてたの?」
モブ
「しかも、みんなには言えないって……怪しいな……」
俺の耳に、ヒソヒソとささやく声が届く。モブ美は、俺の過去のいじめを、今、この場で『秘密の相談』として暴露し、俺をさらに追い詰めようとしている。そして、みんなは、モブ美の言葉を信じている。
俺は、もう限界だった。何もかもが嫌になった。
アメリカ
「…そう、だよな。」
俺は、誰にも聞こえないくらい小さな声でつぶやいた。
そして、そのまま踵を返した。冷たい水が滴る身体のまま、俺は教室の扉を出た。
その背後から、モブ美の泣き声が聞こえた。
モブ美
「アメリカさん……どうして……?」
その言葉は、まるで追い打ちをかけるように、俺の心を深く、深く突き刺した。
俺は、教室を飛び出し、そのまま走り続けた。どこへ向かっているのかも分からなかった。ただ、この場所から、みんなから、モブ美から、遠くへ、遠くへ行きたかった。
俺の背後から聞こえる、楽しそうな笑い声は、もう幻聴ではない。それは、俺の心を蝕む、現実の音だった。
俺の心は、まだ完全に裂けてはいなかった。
だが、必死に縫い合わせていたはずの縫い目が、きしみ、今にも裂けそうになっていた。
俺は、孤独になった。
誰も、信じてくれない。
俺は、一人だ。
コメント
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第六話を作ってくれて誠にありがとうございます。私はこの作品がとても大好きなのでできれば早く更新してほしいです。だけどいろんな用事があったら遅くてもいいので更新楽しみにしてまいります。
白玉ちゃんが後書きにて言っていた「縫い目が裂けかけ」の表現。とても私はその表現が好き!wやっぱり、アメリカくんが壊れかけ。っていうのも分かるし、それがトラウマによってもう一度「ひらく」「ひらいてしまう」そういう風に、アメリカが壊れてしまっていっている表現が本当に好きだし最高👍🏻⟡.· 投稿の間があいたことは気にしないで!!大変なことがあったんだから……、気にしない気にしない!