テラーノベル
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なのに直哉は全く懲りる様子もなく、むしろ嬉しそうに喉の奥でくすくすと笑っている。
文化祭の一件で、俺が「俺だって好きだし」と本音を漏らしてしまって以来
こいつの甘えっぷりと独占欲はさらに天井知らずで増している気がする。
映画が始まって数十分が経過した頃
俺の頭の中からは、画面のストーリーが完全にシャットアウトされていた。
内容がこれっぽっちも頭に入ってこない。
理由は、言うまでもなく隣の男のせいだ。
直哉は普通に、まるで自分の家のクッションにでも寄りかかるような自然さで
俺の右肩へその色素の薄いサラサラとした頭を乗せてきていた。
「……おい」
「んー?なに、兄さん」
「重い。どかせ」
「無理。兄さん、なんかすごく良い匂いがするから、ここにいたい」
「犬か、お前は……」
低い、変声期を終えた男の艶っぽい声が、すぐ耳元で響く。
あいつの吐息が首筋に当たるたびに、肌が粟立って耳の奥がカッと熱くなる。
しかも、直哉の長い左腕は、いつの間にかソファの背もたれをぐるりと回って
俺の左肩を後ろから抱きしめるような形になっていた。
これでは傍から見たら、完全にイチャついている恋人同士そのものだ。
いや、実際恋人なんだけど。
「兄さん」
「……なんだよ、静かに見ろ」
「好きだよ」
「っ……!」
脈絡もなく、さらりと特大の爆弾を投下するのをやめろ。本当に心臓の寿命が削れる。
「……い、いいから…映画見ろよ」
「画面のヒロイン見てるより、隣で顔を真っ赤にしてる兄さん見てる方が、何百倍も楽しいもん」
「うるせぇ、お前なんか一生画面の隅の背景にでもなってろ」
口ではどれだけ悪態をついても、直哉の大きな身体の温もりが心地よくて。
こんな他愛のないやり取りをしている時間が
心の底から嫌いじゃないと思っている自分が、どうしようもなく悔しかった。
◆◇◆◇
深夜────
直哉に続いて風呂から上がった俺は
一日の疲れと強烈な眠気で頭をぼーっとさせながら、リビングへと戻ってきた。
ソファに座って水分を補給していた直哉が
俺の姿を見た瞬間、手にしたグラスを止めてピキッと硬直した。
「……兄さん」
「なんだよ、そんなに怖い顔して」
「それ、流石に反則なんだけど」
「は?」
直哉の切羽詰まったような声に首を傾げ、俺は自分の格好を上から下へと見下ろした。
至って普通の、Tシャツに短パンの部屋着スタイルだ。何がおかしいのか分からず首を傾げる。
……いや、待て。
「あ……」
胸元にプリントされた見覚えのあるロゴ。
俺が着ているこの黒いTシャツは────直哉のものだ。