テラーノベル
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ついさっきまでベルは、手だろうが頭だろが腕だろうが足だろうが、とにかく傷の手当をされたくないと思っていた。
それはレイカールトン侯爵の元に到着して助力を乞う際に、自分の傷が多ければ多い程、同情を買いやすという思惑があったから。
侯爵が、どんな容姿でどんな性格なのかもわからない。とっても意地が悪くて、よぼよぼのお爺ちゃんで、究極にロリコンの変態なのかもしれないが、傷だらけの少女が必死に助けを求めたなら、多少は情けをかけてくれるだろう。
などという理由で拒んでいたけれど、今は違う。最後の砦であるシュミーズもはだかれてしまったから全力で拒絶しているのだ。
「ねぇ、手当てなんかいらないっ。もう本当に離してよっ」
「少しの辛抱だから、大人しくしろ。……くそっ、殺しておけばよかった」
「っ……!!」
レンブラントの後半の言葉は怒りというより、本気の殺気だった。
情けなくも身を竦ませてしまったベルを都合よく解釈したレンブラントは、背中と脇腹の傷の手当を始めてしまった。
背中にトロっとした冷たい感触を覚えて、ベルはうっと声を出してしまう。
すぐに「痛いか?」と気遣う声が降ってきて「痛くはないけど、止めて欲しい」と訴えたら、呆れた笑い声が返って来た。
(もう、これだから軍人は嫌いだっ。乱暴で横暴で、人の話なんか聞く耳を持っていなくて!)
と、ベルが心の中で憎まれ口を叩けたのはここまでだった。
「……っ!?」
背中にレンブラントの無骨な手を感じて、ベルは思わず息を呑んだ。
今更ながら自分は素肌をさらけ出して、この男に触れられているという実感がわく。これはものすごく恥ずかしい。
それなのにレンブラントの指は、薬を伸ばすように這っていく。触れるか触れないかという優しいタッチで、そっと円を描くように。
「……レンブラントさん」
「どうした?だいぶ手加減しているが……まだ痛いか?」
「痛くないですよっ。それより、もう」
「いい加減にしろ。手当は止めない。何度も言わせるな」
「じゃあ、ちゃちゃっと終わらせて下さいよ」
「そんなこと、できるか」
最大の譲歩を口にしたのに、一蹴されていまい、ベルは堪らない気持ちから枕をぎゅうっと抱きしめてしまう。無論そんなことをしても、気休めにもならない。
気が遠くなる時間が過ぎて、やっと背中からレンブラントの指が離れる気配がして、ベルはほっと安堵の息を漏らした。
これまで生きてきて、こんなにアップアップになることなんてなかった。
ベルは額に浮いた汗をそっと拭う。でも、これで終わりではなかった。
「……ひゃぁ……んっ、ちょ、ちょ、ちょっとっ……っ」
すっかり気を抜いていたベルの脇腹に、突然、レンブラントが薬にまみれた指を這わせたのだ。
変な声を出しながらベルは身体を捻って不埒な手の持ち主を睨みつけるが、レンブラントの表情はとても真剣で、痛みを堪えているようにとても苦しそうだった。
何も言えなくなったベルは枕に顔をうずめて、この時間が早く終わるのをひたすら神に祈り続けた。
紫倉 紫
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コメント
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読み終えました。39話、すごくよかったです。 最初は「同情を買うために傷を残す」というベルの計算高さにドキッとしました。でも、シュミーズを剥がされてからの全力拒絶が本当に可愛くて、そのギャップにやられましたね。 レンブラントの「♡♡♡ておけばよかった」の本気の殺気と、そのあとの優しい手当てのギャップもたまらない。背中に薬を塗る指の描写が繊細で、ベルの「ひゃぁ」が自然に出ちゃう気持ちがすごくわかりました。 ベルの心の声と、実際の仕草の不一致がとても人間らしくて、この距離感がじれったくて好きです!