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カメラを構えながらいろいろな店を見て回っていると、突然昴が立ち止まる。それは高校生の七香ではまだ手が届かないほどのブランド店で、これまでも親について入店したことはあるが、基本的にはスルーしてきた。
「このブランド、早紀さんが好きなんだ」
そう言って中に入ると、アクセサリーが並べられたガラスケースの方へと歩き出す。とりあえず彼についていくが、商品が置かれた棚すらゴージャスに見えて思わず萎縮してしまった。さらにバッグの値段を見た七香は、考えていたよりゼロが一つ多い商品を前に、絶対に触るまいと誓うのだった。
昴はガラスケースを覗き込みながら、大きめのクリスタルとパールがあしらわれたピアスを指差す。
「これなんか早紀さんに似合いそう」
「確かにすごく大人っぽいねぇ。プレゼントするとか?」
「しないよ。そういうの、早紀さん嫌がるんだ。好きなものだけつけたいんだって」
「そうなの? プレゼントされたら嬉しいと思うけどなぁ」
「人それぞれ。誰しもがそうでないから」
どこか悲しそうに微笑むと、昴はガラスケースから離れて店を後にした。
本当は買ってあげたかったんじゃないかなーー彼の想いを考えて戸惑う七香に反するように、昴は早足に店を後にしたかと思うと、向かい側にある若者向けのジュエリー店に入ってしまう。
「あっ、ここって……」
よく行くショッピングモールにも店舗があり、デザインが可愛いのに値段も手頃で、ネックレスや指輪をつけている友だちもいた。
「へぇ、こんなに値段が違うんだ」
ガラスケースの中を見ていた昴はが驚きの声を上げる。
「もしかして入ったことなかった?」
「早紀さんが興味ない店はね」
「本当に早紀さん中心の人生なんだね。じゃあなんで入ったの?」
「なんな七香っぽい気がしたから。ほら、これなんか好きそう」
それはプリンセスがモチーフになっているもので、花冠の形の中にバラの花が存在感を示していた。
「うわぁ、可愛い! あっ、こっちのガラスの靴も素敵……」
ガラスケースにしがみついて、うっとりと見惚れている七香を見ていた昴が吹き出す。
「予想と違わない反応」
「だ、だって……」
「どれか欲しいのある? 仕方ないから買ってやるよ」
「えっ、いいよ、こんな高いもの。パフェだって奢ってもらってるし。でも……カメラを買ったら、次はこのネックレスのためにバイトしようかなぁ」
七香の視線の先を追ったのか、昴は店員を呼ぶと、
「これをお願いします」
と伝えた。
「えっ、ちょっと待って! こんな高いの……」
「高いって、早紀さんに買おうとしたピアスの三分の一以下だし」
「……いや、でもこれにもし見返りを求められたらと思うと、危険信号しか灯らないじゃない」
眉間に皺を寄せて呟いた七香を見て、昴が声を上げて笑い出した。
「あはは、なんだよそれ! なんか買いたい気分だっただけ。今は何も求めないから、ありがたく受け取れよ」
「……物に釣られてるわけじゃないけど、昴くんって意外といい奴なんだね。誤解しててごめんね」
「やっとわかったか。良いお医者さんになってる未来が想像出来るだろ?」
「うーん、それとこれとは違うような……って痛っ!」
「減らず口め」
思い切りデコピンをされ、七香の体は後ろに弾き飛ばされる。言い返そうとしたが、目の前に包装が済んだ紙袋を差し出されて口をつぐんだ。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
白くて小さな紙袋。軽いのに、重たく感じたのは何故だろう。会ったばかりの人こんなプレゼントを貰う理由が見当たらなかったし、『何かを買いたかった』という彼の言葉が胸に刺さったからかもしれない。
きっと彼は早紀さんにプレゼントを買うつもりだったけど、彼女の反応を気にして怯んでしまったのだろう。きっとこのネックレスは、彼の消化しきれない想いの表れ。
あんな冷たい態度をとるのに、実は優しくて気遣いが出来て、一途に早紀さんを想っている。強がっているけど、本当は気が小さくてーー違う意味で可愛い人に見えた。
「七香、そろそろバイトの時間?」
「あっ、そうだね。戻らないと」
「じゃあバス停に向かおう」
歩き始めた彼の後に続く。その大きな背中に触れたくなって伸ばした手を、ハッとして慌てて引っ込めた。
私ったら、何をしようとしたのかしらーー驚きと共に心臓がやけに速く打ちつけている。息苦しさを覚えながら、言葉にならない感情に首を傾げるしかなかった。
白山小梅
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