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「さ、くま!」
「ん? 星埜じゃん、どーしたの」
「どうしたって、お前……が、学校来ないから」
「いや、来てたし。体育館の端で、ちゃんと聞いてましたー何で集会とか面倒くさいのでなきゃいけねェんだと思う?」
「ま、まあ……それは、夏休み前の最後の確認とか、連絡事項とか」
帰り道、ギリギリ、朔蒔を捕まえることが出来て、俺は、内心ほっとした。もしここで捕まらなかったら、夏休み中会えないかもだし、何より、此奴連絡入れても既読すらつかないから。帰る前に、朔蒔を捕まえられたことは、運が良かった、と言わざる終えなかった。
楓音から貰った助言は『星埜くんは、いつもひいているところあるから、押せ押せで行くんだよ! 朔蒔くんってほら、新しいこととか、珍しいこと好きじゃん。星埜くんの新しい面を見せたら、好きになっちゃうかも』とのこと。
まあ、彼奴が、俺を嫌いなんて事はないだろうと、自意識過剰になりつつも、恋だと思って貰えるように俺も努力しようと思った。何でも、初恋って実らないらしいから、俺は努力して実らせようと思っている。
「だっるいじゃん。そういうの。星埜聞いてて楽しい?」
「いや、必要だし……夏休みってはめ外す奴いるから、そういうのの注意喚起とか」
まだ、昼間の集会のことをぶつくさという朔蒔。まあ、朔蒔がああいうの嫌い何だろうなっていうのは、性格から分かるし、俺も、必要だとは分かっていても、そこまで詳しく言わなければ分からない年齢じゃないよな、とは思っている。けれど、規則とか、ルールとかはしっかり頭に入れておきたい方だし、そういうのをまわりにも知って欲しいという思いはある。そういう所が、堅いと言われてしまうんだが。
「まァ、そーかもだけどさ」
「それに! 今回の集会で、不審者が出るって情報あっただろ。あれは、重要だろ」
「……」
双馬市は、犯罪件数が最も少ないことで有名だ。だからこそ、そんな双馬市で不審者が出た、なんてことは大きく取り扱われる。それが、盗撮とかストーカーだったとしても立派な犯罪な訳で、もし、殺人鬼だったりしたら。
(だったりしたら……父さんが喜びそうだけど)
未だ血眼になって探している父さんからすれば、その不審者にすら目を向けて、徹底的に調べるだろうなと思う。日本の警察は優秀だから、父さんは優秀だから。きっと、不審者もすぐ捕まるだろうし、捕まらなくとも、そういう優秀な警察が目を見張っていると知れば、抑止力になって、やめるかも知れないし。
父さんと、日本警察を久しぶりに誇りに思いながら不審者の話を思い出していれば、朔蒔の顔が暗いことに気づいた。それはもう、何か思い詰めたような表情で、目線を地面に向けている。地面に何かあるわけじゃないし、あるのはただの白線だが、朔蒔はその白線をはみ出して、車道に出ている。交通量の少ない道だからそこまで危険ではないが、なるべく中に入っていて欲しいと思う。
「どうしたんだよ。暗い顔して」
「ん? んーいや、不審者かァ、と思って」
「何か心当たりでもあるのか?」
「何で、そんなに食いつく? こんなの、面白い話題でも何でもねェし」
「でも、そいつが凶悪犯とかだったら?」
と、俺が突っ込めば、朔蒔はさらに顔を歪めた。
もしかして、不審者に嫌な思いででもあるのだろうかと思ったが、朔蒔は何も答えてくれなかった。俺が聞けば良かったんだろうが、とてもじゃないが聞ける雰囲気じゃなかったのだ。
(そんな、過剰に反応することなのか?)
もう、朔蒔の表情がころころ変わるのにはなれたが、こんな話題で表情を変えるとは思っていなかった。集会が嫌だという話から始まって、それから、不審者の話しになって、一気に曇った、という感じだ。訳が分からない。
「取り敢えず、白線の中は入れよ。危ないし」
「大丈夫だって。星埜は心配性だなァ。そういうとこ好きだけど♥」
なんて、いつもの調子で言うから、本当に訳が分からない。
何も考えていないようで、考えていて、でも考えていないのかもと。
そんなことを考えていれば、楓音にせっかく乗って貰ったのに、何も出来ず終わるところだったと、俺は顔を上げた。朔蒔は、ん? と首を傾げつつ、俺を見る。
徐々にハードルは上げていけば良い、そう思って俺は口を開こうと勇気を振り絞った。
「朔蒔、俺――」
「朔蒔?」
と、俺と朔蒔の会話を遮断するように、少しつかれたような女性の声が、響く。
俺は、誰だろうと思って振返ろうとすれば、誰かを確かめるより先に、朔蒔が口を開いたのだ。
「ママン?」