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「そっか……。竹ちゃん、憂くんに伝えたんだ」
葵の部屋の窓から差し込む夕陽が、彼女と部屋、そして僕の感情の色を茜色に染めた。
あの後、竹田さんは葵の家に寄ることなく、そのまま帰ることにした。涙を溢しながらではあったけど、彼女はあくまで笑顔を絶やすことはなかった。最後まで。
強い人だと、僕は思った。
失恋してもなお、笑顔を見せてくれた竹田さん。すごく辛かったに違いないのに、彼女は気丈に振る舞った。その姿を見て、僕はある種の勇気をもらった気がした。
竹田さんは僕のことを好きだと言ってくれた。恋をしたと言ってくれた。だったらどうする? そんなの決まっている。
僕は僕のことを好きだと告白してくれた竹田さんの気持ちに恥じることのない人間になる。
それが、今の僕にできる彼女への唯一のお返しだ。
「葵はさ、いつから竹田さんの気持ちを知ってたの?」
葵は僕の問いかけに、表情に憂いを滲ませながらゆっくりと口を開いた。
「――どれくらい前だったかな。確か三ヶ月前くらいだったと思う。『大切な話がある』って言われたんだ。それで学校の裏手にある公園で、憂くんのことを好きになっちゃったって聞かされたの」
でも、と。
葵は言葉を紡ぎ続けた。
「でも、竹ちゃんはそれでも私のことを応援したいって言ってくれて。あり得ないよ、普通。自分の恋心を押し殺して恋敵を応援するなんて。でも、決めてたんだって。最初に決めたことは最後までやり抜き通すんだって。そう、言ってた」
竹田さんが僕に言ってた通りだ。
「きっと、苦しかっただろうね……」
葵は小さくこくりと頷いた。
「今はさ、クラスの中で私と憂くんのことバレバレだけど。でも、竹ちゃんはその前からとっくに気付いてたみたいなの。その時に決めたみたい。『私が葵ちゃんのことを支え続けるんだ』って。なんでって訊いたんだけど、『葵ちゃんのことも私は大好きだから』だってさ。本当に優しいし、強いよね。竹ちゃんは」
「――そうだったんだ」
さっき見た、竹田さんの笑顔を思い出す。『チクタくん』がSNSで最近投稿していた恋についての悩みの内容についても。それらを考えるだけで、胸が潰れそうになった。
きっと今、葵も同じように思っているに違いない。
恋の辛さを知ってるが故に。
「ねえ憂くん? これからも竹ちゃんとはいつも通りに接してあげてね」
「当たり前だろ」
言葉少なではあったけど、今持っている感情の全てを込めて、そう返事をした。
「あのさ。ゆ、憂くん……?」
「どうしたの? 元気がないけど。……て、当たり前か。竹田さんのこと、心配だもんね」
「違う」
一切の迷いもなく、葵ははっきりと言い切った。
「憂くんは、もし私と付き合う前に竹ちゃんから告白されてたら付き合ってた?」
僕は首を横に振った。
「それはない。絶対にない。仮に、竹田さんから告白されてたとしても断ってた。僕には好きな人がいるんだって伝えて」
「――そっか」
葵らしくもない。あまりにも力ない抜け殻のような返事だった。
僕は床から腰を上げて葵に近付き、そっと抱きしめた。
言葉をかけることはしなかった。今は必要ないと感じたから。僕の葵に対する『好き』だという気持ち。温もり。決心。覚悟。抱き締めることでそれらの感情全てが伝わるはずだと信じて。
「――ありがとう」
そして、葵も僕を抱き締め返してきてくれた。気持ちを伝える時、言葉が邪魔になることもあるのだと僕は知った。
安心しきった柔らかな表情を見て。
『第23話 葵ちゃんと竹ちゃんと』
終わり