テラーノベル
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「ちょっ……瑞基!駄目だってそんな…」
澪が蚊取り線香――家の殆どが壁でなく襖や障子で仕切られていて、今時の虫除けがあまり効果がないので――を持って客間の前まで来ると、由良の切羽詰まったような声が聞こえた。
「どうしたのー?」
まさか瑞基に襲われているのでは。
わざとボリューム大きめで声をかけてから蚊帳の中を覗き込む。
由良が困り果てた顔で振り返った。
「あ……澪さん。瑞基が、こんなとこで寝ちゃって」
でかい図体の従兄弟は、片方の布団に足、もう片方の布団に頭と両腕という形で大の字で寝てしまっていた。
「全然起きてくれないし、持ち上げられないし……」
確かに、由良の細腕では退かせないだろう。
澪の二の腕より、一回りくらい細そうだ。
「任せて。こんなやつは、こう!」
足が乗っている方の布団を持ち上げ、足だけ落とす。それでも起きない。更にずらして、下半身は畳の上、上半身だけ布団の上という形で放置することにした。
「起きたら自分で布団に入るでしょ」
「おおー」
力業を見せると、由良は目を輝かせて盛大に拍手した。
「今日はありがとうございました。今のことだけじゃなく、案内とか色々」
由良は綺麗な所作で、座ったま礼をした。
「お土産まで貰って…母が喜びます」
可愛い。
小さく端整な顔。最初、女の子かと見間違えたほど華奢な身体つき。そして、理想的すぎる瑞基との身長差。
――綺麗すぎない? ほんとにただの友達?
今日が初対面だ。直球では聞けない。
「瑞基って、彼女とかいるの?」
澪としては最大限に遠回しに尋ねてみた。
由良の目が泳ぐ。
「あー……みたいなのは、いますね」
「なら良かった。ちゃんと身近な人を好きになれたんだね」
桜色に染まる頬。その顔は、実質白状してしまったも同然だ。
実は、瑞基が一生恋愛など出来ないのでは、と疑いたくなる出来事があったのだ。
「子供の頃、瑞基、人魚を見たんじゃないかって、ちょっと噂されてて」
由良の表情が、少し硬くなった。
迷信を信じてるって思われたかな?
「勿論、皆が信じてる訳じゃないんだけど。この辺には昔から人魚がいるって伝説があってね。人魚を見ちゃった男は魅了されて、人間の女には見向きもしなくなるって」
ある夏の日、放心したような顔で海から戻って来た瑞基は、「溺れそうになった」とだけ周囲に告げて、食事も摂らずに丸1日眠り続けた。目が覚めた後は以前の彼に戻ったが、時折ぼんやりとした表情で浜辺を彷徨って過ごすようになった。岩場の陰に誰かを捜しているかのように。
以前にも、瑞基と同じ状態になった男がいたそうだ。その男は最終的に、崖から身を投げたという。
澪から話を聞き終えた由良は、考え込む仕草をした。
「よほど美しい人魚だったのかな。それとも、魂を奪う目的で狙われたのかな…」
「んあー…由良ぁ」
瑞基が寝言で由良を呼んだ。手探りで由良の手を見付けて、ぎゅっと握る。
澪は、繋がれた手と由良の顔を交互に見て、結果、晴れやかな表情で由良の肩をポンポン叩いた。
「まあ、人魚の幻より、現実の人間の方がいいもんね。めっちゃ美人だし!」
「あっ…これは、そのっ…」
今度は耳まで赤くなって、由良は瑞基の手を振り払った。誤魔化すように口許を隠す。
「――くれぐれも内密にお願いします」
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コメント
1件
第12話読了〜〜!😭💕 由良くん可愛すぎかよ!!寝言で「由良ぁ」って言いながら手探りで繋いできたシーン、マジで心臓もってかれましたわ…澪さんの「現実の人間の方がいいもんね」に耳まで真っ赤になる由良くんの図、脳内再生が止まらん!!🫠🔥 人魚伝説の伏線も気になるし、2人の今後が気になって仕方ないよ!次話も楽しみにしてます!🐙💕