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メガネの少年は、図書室でいつも小説を読む。
私はシェイクスピアの本を手に取って、彼の席から4席離れたところに座る。
そして、私も彼のようにメガネをかける。
静かな部屋に、本をめくる音だけ響く。
道「はぁ…」
そしてまた、彼は大きなため息をついて席を立ち、まだ読み終わらない本を元の棚に戻して図書室の出口を開けた。
貴「どうしていつも出て行くの?」
道「…人が居ると集中できないから」
貴「…そっか、気使わせてごめん。」
彼は美しい。
前髪が長く、いつもマスクにメガネだから誰も気付かない。
でも私は、彼の顔を見た事が1度だけある。
白い肌と綺麗な二重、綺麗な鼻にぽってりとしたピンクの唇。
美人だと思った。
道「別に、いつも休み時間は使ってるから放課後ぐらい潰れても問題ないよ。」
彼は冷たい。
誰にでも冷たいのではなく、女の子にだけ冷たい。
貴「私、道枝くんが読んでる本は苦手なの」
道「ミステリー小説?」
貴「うん。怖い表紙のものばっかり」
道「…シェイクスピアばかり読んでる君に言われたくない。」
貴「えぇー?面白いのに」
道「つまらないよ。下らないコテコテの展開と落ちじゃないか。」
彼は女を嫌う。
私の事も嫌いなのだろう。
冷たい目線
貴「道枝くんは、女の子が嫌いなんだね」
道「突然何?」
貴「顔に書いてある。私のことが嫌いだって」
道「…別に。」
貴「どうして嫌いなの?」
道「どうでもいいでしょ、そんなこと。」
そんな事ないよ と返そうとしたけど、彼は走って教室を出ていってしまった。
道「また居るの?」
後日、図書室の奥にある物置でシェイクスピアの本を探していると、彼はやってきた。
貴「物置に来るなんて珍しいね」
道「ここは何も聞こえないし、うるさい休み時間には最適なんだよ。そっちこそ休み時間に図書室なんて初めてじゃない?いつも放課後なのに。」
貴「会いたくて、道枝くんに」
道「…何か用でも?」
貴「道枝くんってマスクとメガネ取らないよね」
道「…コンプレックスだから」
案の定彼は私を見て嫌な顔をした。
会いたかった と言ったら、更に面倒くさそうな顔をされた。
顔にコンプレックスがあるなんて、絶対に嘘。
あんなに綺麗な顔、モテないわけない。
貴「道枝くんって変わってるね」
道「そう?普通でしょ」
貴「あんなに綺麗な顔してるのに、コンプレックスなんて不思議」
道「…見た事ないくせによく言うよ」
貴「あるよ?メガネもマスクも外して、風に吹かれて髪の毛がなびいてたからよく見えた。」
道「…ほんとに言ってる?」
貴「嘘ついてどうするの。」
その時のことはよく覚えてる。
私は詳しく話した。
もう一度彼の顔を見たくて。
道「…誰かに見られてると思わなかった。」
貴「私道枝くんの顔好きだよ。」
道「他の人には言わないでね、俺の顔の事。」
貴「かっこいいって?」
道「…まぁ、うん」
貴「へぇ、モテるの嫌なんだ?何かあったの?」
道「ッ…もういいでしょ、僕は教室戻るから。」
教えてよ と言おうとしたけど、彼は走って図書室を出た。
道「今日は来ないと思った。」
貴「昨日の放課後居なかったから?」
道「…放課後じゃなく休み時間に変えたの?」
また昨日と同様、休み時間に物置へ足を運んだ。
貴「放課後より休み時間の方が道枝くんと良く話せるから。」
道「…話したくて来てるの?」
貴「話したいよ。本もいいけど道枝くんもいい」
道「どういう意味」
そう言って少し笑った彼の隙をついて、マスクを外した。
貴「ねぇ、こんなに綺麗なのに何で見せたくないの?昨日の話の続き、してよ」
道「…勝手に取らないでよ」
貴「でも戻さないんだ」
道「…もういいよ、見られてるし。」
貴「ふふ、そっか」
彼はメガネとマスクを外して、髪の毛をかきあげた。
道「これで満足?僕の顔見たくて通ってたんでしょ?もういいよね。」
やっぱり綺麗。
髪と白い肌のコントラストが鮮明で、こちらを見る目は心底嫌そうに歪んでいる。
貴「好きだよ、綺麗で」
道「顔がでしょ」
貴「うん、触りたくなる」
道「…触ってみる?」
彼は私の腕を掴んで、唇に近づけた。
貴「…ぽってりしてるよね、女の子みたい」
そう言って彼の唇を指で優しく触る。
ふにふにしてて、ぷるぷるしてて、人の唇をこんなに触るなんてなんだか不思議な気分。
道「もっと触る?」
そう言って彼は椅子に座って、私を側まで引き寄せた。
貴「いいの?」
道「いいよ。減るもんじゃないし」
外は曇って来たようで、小さな窓ひとつの物置はだんだん薄暗くなる。
道「ほら、早くしないとチャイム鳴っちゃうよ」
貴「…そうだね」
ふわっとした彼の頭に手を置いて、自分の中でどうしてこの状況になったのかを整理する。
特に前触れはなかった。
彼の遊びに付き合わされているの?
彼は私を嫌いなのに。
貴「…ねぇ、嫌じゃないの?」
道「ん…別に」
貴「他の子にも…されてる?」
道「そんな奴に見える?」
貴「…嫌いな子にこんな事されて大丈夫なんて不思議」
道「そこまで嫌いじゃない」
貴「よく言うね、あんなに嫌な顔しといて」
道「逆に聞くけど好きなの?僕の事。」
貴「…別に」
道「そっちだって、好きでも無いやつにこんな風に触るの?」
貴「…どういう意味」
道「さぁね。あ、雨降ってきた」
ぼーっとした空気と、変な胸の高鳴りを隠して、雨の音を聞きながら時計を確認した。
貴「ほんとだ…チャイムももうすぐ鳴るね、戻ろう。」
早くこの場から去りたかった。
なんだか変な気を起こしそうで、自分の気持ちが流されそうで。
道「珍しく離れたがるね、いつもは僕が先なのに。」
貴「いや…変な空気だったし?」
道「別に僕はこのまま触られてても良いけど。」
貴「好きな子としてなよ」
道「確かに」
ケラケラと笑う彼は、何を考えているか分からない。
微妙な距離の私に唇を触られ頭を撫でられ、何が良かったのだろう。
貴「あ、チャイム鳴ってる!私戻るから、じゃあね!」
うっすらと外から聞こえたチャイムの音を合図に、私は扉を開けようと手を伸ばした。
でもそれは彼の手によって止められた。
道「待って…ちょっとサボろうよ」
後ろから抱きつかれて、伸ばした右腕は彼の右腕に絡め取られて、動けない。
貴「近い、おかしいよこんなの」
道「おかしくないよ、好きなんでしょ?僕の事」
変な雰囲気に戻ってしまって、甘い声は私の耳元で響く。
貴「それでどうするの?道枝くんは私の事好きじゃないんだから、別にどうでもいいでしょ?」
道「これから好きになるかも」
貴「そんなの嫌…ありえない」
道「ちゃんと好きじゃないと不安?」
貴「不安って…別に私は好きなんて言ってない。」
道「…そう」
彼は私を解放して、先程の椅子に座り直した。
そして私をじっと見つめる。
貴「…なに」
道「これが小説なら、最後僕らは恋人同士だよ。」
貴「ここは小説じゃない。現実だよ」
道「君は流されないタイプなんだね」
貴「雰囲気に流されそうな私を見て楽しかった?」
道「なんか小動物みたいで可愛かった」
貴「…最低」
道「おいで、もう教室に戻っても怒られるだけだよ」
そう言って椅子に座ったまま腕を広げる彼に、私は飛び込んだ。
貴「これって良くないよね、好きじゃなきゃ意味無いよ。」
道「好きにこだわるんだね」
貴「道枝くんは好きでも無い人とハグして嫌じゃないの?」
道「そんなに嫌いじゃないって言った」
貴「…でも好きじゃないでしょ」
道「どうだろう。」
そう言って私を腕から解放して、私の後頭部に手を添えた。
貴「…いいの?」
道「いいよ、触って」
そう言って少しずつ目を閉じる彼につられて、私も目を閉じた。
貴「ん…ぅ」
道「ん…は、口開けて」
貴「やらしー」
道「最初にしたのはそっちだろ」
貴「私のは可愛いキスでしょ」
道「うるさい。ほら、ちゃんと座って」
彼の膝に向かい合わせで座って、腰を支えられたまま更に口内の深いところまで触れる。
貴「んぅ…ふ、はぁ」
道「…苦しい?」
腰を少し撫でられながら、クラクラとする視界を何とかしたくて少し下を向く。
道「大丈夫…?気分悪い?」
貴「ん…大丈夫」
道「ごめん、やりすぎたよね」
貴「大丈夫だから…ね」
道「…やらしいのはどっちだろうね」
貴「うるさい、好きじゃない子に平気でディープキスするやば男は誰よ」
道「今までで1番気持ちよかった」
貴「最低…誰も感想とか聞いてないし。」
道「ふは、たしかに」
貴「…誰にでも言ってるくせに。何人とこういう事してんの?地味なかっこしといてヤリチンじゃん。」
道「妬く?」
貴「…その中の一人って思ったら気持ち悪い。」
道「中学で終わったよ」
貴「また再発させちゃった?私」
道「さぁね。」
貴「…久しぶりだから気持ちいいんじゃない?」
道「そうかも。」
貴「キス以上はしないよ?びっちとは違うの。」
道「分かってるよ」
貴「…なんかバカみたい。」
道「バカだよ」
貴「…そうだね」
そう言って、また私たちは唇を重ねた。
《図書室》