「そんなに声かかったら普通芸能界入るでしょ? なんで保育士やってんの?」
確かに、ごもっともな意見だ。
「芸能界に入っても、自分らしくいられないのがわかってるからです。無理に頑張っても、きっとすぐに挫折します」
「でも、ちょっともったいないよね。それだけの需要があるのに。じゃあさ、理久先生がいう自分らしいことって何なの?」
弥生の質問、私もすごく気になった。
「僕は子どもが好きです。当たり前のように昔から保育士を目指していました。まあ、母親が保育士っていうのもありましたけど、何よりも保育士という仕事自体にすごく憧れてました」
理久先生の大きな瞳がキラキラしてて、すごく魅力的。
ちょっとミステリアスな部分もある先生だけど、この顔を見てたら、本当になりたかった職業に就けて満足してるのが良くわかる。
「素敵、ずっと保育士に憧れてたんだね。私もそうだからすごくわかるよ」
「えっ、彩葉先生も保育士に憧れてたんですか?」
「そうよ。彩葉はね、ずっと保育士になりたかったけど、以前は化粧品の販売員をしてたんだよね。それも丸翔百貨店で、あの有名なitidou化粧品のだよ」
横から嬉しそうに答えてくれる弥生。
「……そうだったんですか。itidou化粧品の販売員を……全然知らなかったです。でも、だからそんなに彩葉先生は素敵なんですね」
えっ!?
「素敵」の2文字に思わず体が固まる。
「ちょっと~素敵だなんて彩葉先生だけズルい~ここにも可愛い女子がいるでしょ?」
「どこにですか?」
首を傾げてニコッと笑う理久先生。
「ちょっと! さっきの仕返し?」
「違いますよ。あの、でも……itidou化粧品の売り場にいたって……一堂って、彩葉先生の苗字ですよね」
「そうだよ。彩葉はね、itidou化粧品の社長令嬢なんだよ」
「ちょっと止めてよ、弥生。社長令嬢なんて、私はそんな良いもんじゃないから」
恥ずかしくて慌てて否定してしまった。
「全然知らなかったです。初めて知ることばかりで、彩葉先生のこと、僕は何もわかってなかったんですね」
なぜか肩を落としている理久先生。
「ちょっと、そんなしんみりしないでよ。彩葉と理久先生は、別に付き合ってるわけでも夫婦でもないんだし、知らなくて当たり前でしょ?」
「そ、そうですよね。すみません」
「なんで謝るの? 理久先生、今日ちょっと変だよね」
「弥生、もう私の話はいいから。それより理久先生、保育士になるっていう夢は叶ったけど、これから先の『夢』ってあるの?」
違う話題に逸らしたかったのもあるけど、それと同時に、本当に理久先生の夢を知りたくなった。
「僕の夢……それは保育園の園長になること、っていうか、自分の小さな園を開いて、結婚して奥さんと一緒に経営したい。小規模でいいから温かい家庭的な保育園をやりたいんです」
優しい眼差しで語る理久先生。
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