結局拝観料も払ってもらってしまい、神社の中をキョロキョロと辺りを見渡しながら階段を登ると、オレンジ色のお堂ばかりある中に、よくある古い家と同じ瓦と白い壁の大きなお堂が出てきた。
「あれは何ですかね?」
人が途切れずに集まっており、麗は気になって首を動かす。
「胎内めぐりだって。暗闇の中を歩くらしい。麗ちゃん、暗いところは大丈夫?」
明彦が看板を見ながら答えてくれた。
「はい。結構好きです」
中学まで実母と二人で住んでいたアパートは狭く、暗かった。
だから、本当は、今住まわせて貰っている佐橋の家は広くてあまり落ち着かない。
「じゃあ行ってみようか」
またしても明彦がお金を払ってくれ、お寺の人から説明を受けた。
曰く、地下の闇の中を縄を伝って歩かなければならず、中では話すことも、声をあげることも禁止らしい。
そして、中には大きな石があるのでそれに願い事をするそうだ。
「本当に暗そうですね」
入り口からも暗闇が漏れていて、麗は驚いた。
いくら暗くても、足元に明かりくらいあるだろうと思い込んでいたためだ。
「俺が先に行くから怖くなったら掴んでいいよ」
「多分、大丈夫です。頑張ります!」
明彦に続き、麗は中に入った。
急な坂になっていて転けそうで怖い。
下に着くと、視界が真っ暗になった。
夜に家の明かりを全て消してもこうはならない。星の光があるからだ。
カーテンを閉め切り、明かりを消して、更に瞼を両手で強く抑えなければ、こんな闇には出会えないだろう。
大きな数珠を伝って歩いているが、自分が今、何処にいるのか。明彦が本当に前にいるのかもわからず、麗は片手をさ迷わせながら探した。
何も見えず、時がゆっくり進んでいるようでいて、早い気もする。
はっきりした恐怖ではないが、じわじわと恐ろしくなっていく。
手が、人らしきものに当たった。
撫でると柔らかいので、やはり明彦である。
麗は明彦の服を引っ張るのは気が引けたが、折角見つけた先輩から離れる勇気もなく、そのまま手を当て続ける。
すると明彦に手を優しく捕まれ、筋肉のついた先輩の腕らしきところに導かれ、そこを掴ませてもらう。
麗は、これで一安心、と息を吐いた。
(いや、ちょっと待て、さっきまで触ってたのって須藤先輩のお尻じゃないだろうか?)
麗は己がとんでもない行為をしでかした事に気付き、血の気が引いた。
(どうしよう、撫でちゃった! 痴女だ、犯罪だ、逮捕だ!)
穴があったら入りたかったが、もう入っていた。
混乱しながら歩いていると、一筋の光が見えた。
大きな石が照らし出されていて、それはそれは幻想的だ。
麗は、ふと、心が洗われる気がした。
明彦は優しいから指摘してこない筈だ。そうだ、このまま気づかなかった事にしよう。
私が触ったのは背中、私が触ったのは背中、私が触ったのは背中。
心の中で唱え終わった後、明彦に続いて麗も石を撫でた。
そして、姉の幸福を願って拝み、何事も無かったかのように出口まで明彦の腕を掴ませてもらったのだった。
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