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あの日俺は、酔いつぶれて眠る美亜を見つめながら…絶対守るって決めたんだ。



美亜が酔って帰った翌日。

久しぶりに出社して、後輩たちが飲み会をセッティングしてくれたのは本当の話。


だが実は、美亜には話していないことがあった。


それは、朱里ちゃんが知っている美亜の過去を詳しく聞くため、飲み会の前にカフェで落ち合って話を聞いたこと。



朱里ちゃんは後悔していた。


「酔った勢いで美亜の過去を嶽丸に漏らしちゃうなんて…私としたことが…!」


酔いつぶれた美亜に朱里ちゃんはこう言っていた。


「美亜、もう苦しむな!…お母さんは全部美亜のせいにしてるだけだよ…だって、なんにも悪いことしてないじゃん…」


酔った朱里ちゃんは、そう言って美亜を抱きしめたので、俺はすかさず朱里ちゃんに聞いた。


「どういうこと…?」


「うわ…イケメンの真顔、破壊力ヤバっ」


真剣に聞いてるのに朱里ちゃんはそう言って俺を雑に追い払ったけど、それでもどうにか頼み込んで、改めて話を聞かせてもらう約束をしたんだ。


…女性の連絡先を手に入れるのは俺にとって朝飯前。


変な気持ちは当然ないけど…朱里ちゃんにも通用してホッとした。




「美亜は子供の頃、弟を交通事故で亡くしてるの。…それを自分のせいだって強く思ってて…」


知っていることを俺にすべて告白すると言ってくれた朱里ちゃんの話は、衝撃だった。


「美亜のお母さん、小さい子供を2人だけにして、どこに行ってたんだ?」


「後で健に聞いた話だけど…」


朱里ちゃんは、ここは美亜に聞いたわけではない、と前置きして続ける。


美亜の母親は、父親…つまり自分の夫の浮気を疑っていて、休日出勤した夫の後を追うため、幼い美亜と弟に留守番をさせたらしい。


結果的にシロだったという。


でも幼い子供を2人だけにして尾行したことが夫にバレて、そのせいで息子が事故に遭ったと責められ、母親は浮気の心配をさせた夫を責めたらしい。

それがその後の夫婦のいさかいにつながったことは、簡単に想像できる。



「美亜がこんなトラウマを植え付けられるまで苦しむなんておかしい」


朱里ちゃんは、酔って美亜にかけた言葉と同じことを言う。


その後美亜は、母親の不安定さを目の当たりにし続け、いつしかすべて自分が悪いと意識するようになったらしい。


本当は、元々すきま風が吹き始めた夫婦の、浮気の疑惑から始まった話なのに。


そこに美亜は、子供は、関係ないはずだ。


息子の事故死で、母親は精神を病み、父親はそれを支えきれなかった。


すべての歪みが美亜に向かってしまった。



「だから結婚とか、幸せになるとか、そういう話に拒絶感を示すんだと思う」


朱里ちゃんは少し目を赤くしている…。

それを俺に見られて、少し気まずそうに言葉を繋げた。





「いつか、白馬に乗った王子様が、美亜にかけられた呪いを解いてくれないかって、思ってた」


「それ、俺のことでしょ?」


すると心外なことに、疑惑の目を向けられた。



「うーん…嶽丸くん、本当に大丈夫なの?」


「どーいう意味さ?」


「女関係の身辺整理、ちゃんとできてるの?」



…せっかくいい話なのに、矛先が変わってる気がする。



「もちろん。SNSのアカウント削除したし、そもそもケータイ変えたし。連絡先もわざと移行しなかった」


「ほー…やるね」


こうして俺は朱里ちゃんと、美亜を助けるタッグを組むことになった。


そうだ。

健にも仲間入りさせよう。


健は身内だけに、俺に全部を話すことを躊躇していた。

そばで何年も美亜を見てきた健にとって、それがいかに壮絶だったかを物語っていると思う。



美亜の苦しみを知った俺は、2人で暮らすために、今までの生ぬるい仕事を改めようと決めた。


本当は上司から昇進の打診がある。そんなものに興味はなかったけれど、それを受けようと思ったんだ。


そしたらまずはマネージャーとして後輩指導を任され…タコというわけのわからん女子社員を押し付けられることになった。


必然的に、リモートで自分の仕事だけをこなしていればいいわけではなくなり、出勤を余儀なくされた。


これまでなら…

昇進も給料アップも興味なかった。

そこそこ仕事をして遊んで…興味のあることで副業もいいと思っていたから。


でも、美亜との未来を真剣に考えた俺は、今の会社で昇進して、安定した働き方にシフトチェンジすることにしたんだ。


今までなら絶対やらなかった社内コンペにも参加して、美亜を実家に連れて行ったとき、その結果を知らせる着信が入った。

結果はまさかの社長賞。

…帰ってきたら改めて美亜に知らせるつもりだった。



「会いたい」って言われて舞い上がって出張を放り出したりしながらも、それなりに結果も出していたってわけだ。



そんな美亜のところに帰ってきたあの日、好き…と言われて天に登ってる時にかかってきた電話、実は朱里ちゃんからだった。


内容は「美亜のお母さんが退院してくるらしい」ということ。


それを聞いて俺は警戒した。

だから一旦リモート勤務に戻して、なるべく美亜を1人にしないように、仕事帰りに迎えに行っていたんだ。


朱里ちゃんの話を聞けば聞くほど、お母さんを美亜に会わせるのは危険だと感じた。


そういう心配がなくなったからこそ、退院の許可が下りたのだろうが、俺の不安はなくならない。


改めて愛を伝えたのも、実家に連れて行ったのも、結婚を匂わせる発言も、今伝えなければいけない…となぜか思ったから。



………


「なんで…?」


これまでのことを話し終えると、美亜はボロボロ泣きながら、俺の胸を叩いた。


「なんで…全部知ったのに、私のそばにいるのよ…」


「そんなの、好きだからに決まってんじゃん」


胸を叩く細い腕を掴んで美亜を抱き寄せる。


「俺の初恋ナメんなよ?」


涙でぐしゃぐしゃの顔を上げて、俺を見る美亜の顔は、小さな女の子みたいだった。


「大丈夫。俺が守る」


だから、プロポーズしたんだ。


「嶽丸…!」


しがみつくようにして、俺の胸で泣く美亜。…辛かったよな、今まで。




寄り添うように家に帰って、抱きしめ合って熱を分け合って、美亜は俺を自分よりずっと大切な人だと言った。



「だから…怖い、怖いよ…」


抱きしめても抱きしめても小さく震えるその体に触れながら…俺は、言葉にできない不安を漠然と感じていた。





そして。

俺の不安は的中した。





…まどろみの中目を覚まして、すぐに異変に気づいた。


昨日、確かにこの腕に抱いた美亜がいなくなってる。



「美亜…?」


ベッドから起き上がって…飛び出す勢いでドアを開ける。



朝の日差しが、カーテンの引いてないリビングを明るく照らしていた。


なのにそこに美亜はいない…


「…どこ?美亜…?」


キッチンを横目にバスルームへ。

脱衣室にパジャマはない。

俺のTシャツを好む美亜、昨日着ていたのは、確か黒いVネックの…



急ぎ足で美亜の部屋を開けた。


何日も誰も寝ていないベッドは冷たく…ここにも俺のTシャツはない。


ただ…いつも持ってるバッグがなかった。旅行の時持っていったスーツケースも。


引き出しを力任せに開ければ…

そこに隙間があいていて…

美亜が服を何枚か持って行ったことを知る。


すぐに自分の部屋に戻って携帯を確認する。



『ごめんね。少しの間離れるね』




あちこち探している間に届いたのだろう。

メッセージアプリの文字は、ほんの数分前に届いたと知らせてる。



離れるってなんだ?

少しっていつまでだ?


どこに行ったんだ…美亜…


私のポチくんと俺のタマ

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