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あれ?目から塩水が…
え!?タヒんだ!?タヒんだね!?ww うわぁぁぁ!!いい話しすぎるぅ
やばいやばい、目がら涙が止まらない・・・ HappyEND、BADENDどっちも号泣しちゃいました・・・
今回はBadendです!
マジのBadendだから苦手な人は回れ右っ!
でも内心、ストーリーの進み具合やばいし何か変だし、マジで駄作なんだよねぇコレ(笑)
あ、あと今回めっちゃ長いです。
空白とか色々加算すると10,500文字くらい!
多すぎww
私の指より皆が読んでて途中から飽きないか心配w
それと病み系が題材だったんだけど、何かもう闇落ちになってる(笑)
───二人で墜ちて墜ちて墜ちて行く。
ってきな感じw
最後まで見てくれると嬉しいです!
「____…」
中也は、横になって眠る私の頬をなぞった。
「助けねェって、決めてただろ……」
絞り出すような声で云った後、中也は歯を食いしばる。
「ンで……………」
──────プルルルル
「電話…?」
衣服の擦れる音が聞こえる。懐から携帯を取り出したのだろう。
釦を押す音が響く。
「もしもし」
『あっ素敵帽子君?』
機械音交じりに、乱歩さんの声が聞こえた。
妙に心拍数が上がり、汗が浮かび上がる。
「オイ名探偵、何で俺の電話番号知ってンだ?」
『あー、うん、色々とね』
「手前それ絶対ダメなやつじゃねェかよ……」
『僕が良ければ全ていいんだから大丈夫!』
「ヤバすぎだろ、誰に教えられたンだその言葉…」
『え?僕の座右の銘だけど?』
江戸川乱歩・座右の銘────僕がよければすべてよし。
「………………」
中原中也・座右の銘────これで太宰さえいなければ。
太宰治・座右の銘────清く明るく元気な自殺。
「太宰も太宰だが、手前等ンとこは皆そんな感じなのかよ……」
『何が?』
「いや、何でもねェ………」
『あ、そうだ。本題に入ろう!』元気な声で云った後、乱歩さんは静かな声で云った。
『素敵帽子君さぁ………………太宰の事知らない?』
「!」
声を聞く私でも判った。
乱歩さんは、全てを見通している。
「……………それは、」
あーあぁ。折角あの地獄の空間から出て来たと云うのになぁ。
中也の事だ。
私の事を云う心算だろう?それなら云い給え。
もう疲れた。
結局私は、誰にも信頼されてない。
ほんと──────大嫌い。
『素敵帽子君の所に太宰が行ってないかなぁって…………如何?』
私の躰に触れてあった中也の手が、強く握られた。
「…………否、俺は知らねェな」
ぇ、は?
何?何してるの?
疾く云いなよ。何で嘘なんて付くの?
『_____……そう、判った』
「おう」
そう云って、中也は携帯を閉じ懐に仕舞う。
煙草のにおいがした。
***
柔らかい何かに包み込まれる。その布の肌触りには覚えがあった。
少し瞼を上げる。琥珀色の電気スタンドが辺りを照らす。
中也が帽子を持って、私から離れようとしていた。
「____…」
その手を勢い良く掴んで引っ張る。「おわっ!?」中也が私の隣に倒れた。
ベットに振動が伝わる。
「なっ…………太宰?」
私の方を見て、目を丸くしながら中也は云った。
「やァ、中也」
笑顔を貼り付けようとした、然し顔が固まったように動かせなかった。
「手前、もう動いて大丈夫なのかよ」
「………」
中也の服の袖を、私は強く掴んだ。
「だざ」中也の声を遮る。「何故私が居る事を乱歩さんに云わなかったんだい?」
私の声が妙に一室に響く。
「たとえ元相棒でも………私達は、敵同士な筈だよ?」
云いたくない事を、私は云った。
嗚呼、そうか。
私は中也を突き放そうとしているのだ。あの不安と恐怖を、二度と感じない為に。
中也に沈黙が生じた。
「それは……」
「……………」
中也は黙り込んだ。それどころか、何も云わなかった。
「────何なのさ」
拳を握り締める。
期待してしまうだろう?
ベットから降り、私は歩き出す。
「オイ太宰!何処行く気だ!」
中也が私の腕を掴んだ。
「放してよっ!!!」中也の手を振り払う。
「っ、!」中也は顔をしかめ、私が振り払った手を少しさすった。
「…………………」
軽蔑するような目で、私は中也を見た。
中也が睨み返す。
「……なら手前、この後如何すンだよ!探偵社ンとこに捕まるぞ!それが厭で逃げてたンだろ!!」
その言葉がイヤに耳に響いた。
「……………それが、乱歩さんに嘘をついた理由?」
中也は自分が何と発言したのか気付き、口元に手を寄せる。
「…ッ……嗚呼、“手前の為”に………」
ブツンッ
────何か、糸が切れるような音がした。
「私の為って何さ!」
声を荒げる。
「オイ落ち着け「中也は何も判ってない!私の気持ちなんて知らないくせに、知ったか振りするの止めてよ!!」
「なっ……!俺は只───」
中也の言葉を聞かずに、私は廊下に出る扉のドアノブに手をかけようとする。
「太宰待てって!」中也がもう一度私の腕を掴んだ。
「判ってないって云うなら教えろよっ!それくらい俺にも」
中也の言葉を遮る。
「教える……?」
息を吸った。
きっと、この時の私は頭に血が上って言葉の選択ができない程だった。
だから私は、中也にあんな事を云ってしまった。
息を吐いて、私は低く響く声で云った。
「人間じゃない君が何云ってるの?」
中也の顔色が変わる。
それでも私は止まらなかった。
「君に何ができる!?何を成す事ができる!?探偵社の皆のように光の言葉を放てると!?織田作のように生きる意味を与えてくれると!?」
中也は私の言葉を啞然と聞いていた。
この言葉を吐けたのは────私も中也と同じだったからだ。
「結局君も!私と同じ人間失格なのだよ!!!」
その言葉を気に、私は息を整える。
「は…はっ……はぁっ……は………」
あぁ……コレが夢なら、どれ程幸せなものか。
信頼しておきながら、私は中也に劣悪な言葉を吐いた。
正に恥知らず。人間失格だ。
「ごめん」の一言も、私は彼に云えない。伝えることができない。
私は云った。
肺腑から絞り出した声は、とても震えていた。
そしてソレは、只の逃亡だった。
「……如何せ何もできないんだからさぁ………せめて、私を殺してよ」
「は?」
中也が声をもらす。
「憎いだろう?恨んでいるだろう?なら殺せばいい」
手を横に広げ、私は無防備さをあらわす。
「もう自分が存在する────生きる理由が見つからないんだ。だから、殺してよ」
喉が乾燥していた。声が嗄れていた。
息を吸い、吐く。
そして、私は云った。
「……君になら、殺されても────」中也に首を掴まれる。まるで最期の言葉を云わせないようなタイミングだった。
中也の飛び出してきた勢いで、私は床に叩きつけられる。
「っ!、ぅ……あ゙、ぁ゙………」
私の上に乗った儘、中也は私の首を絞めた。
あぁ……何でそんな顔して殺そうとして来るかなぁ……。
最期なのだから、何時も通り怒った顔で───ギュウゥッッ!
「ぐぁ!……ゔ、っ………あ゙」
中也は静かに云った。
「なァ、大宰。確かに俺は人間じゃねェ。手前が云った通りだ」
私の唸り声と、中也の静かな声が部屋に反響する。
「だから…………化け物じゃねェ人の成りをしてる間は、少しでも人間臭さって云うのを得ようとは思ってた」
「あ゙、ぐ……ぅ」
「手が二本。足が二本。脳が一つ。心臓が一つ。ちゃんと歩けて、話せて、五感も働く。それでも、矢っ張………違ェンだ」
「っ、ゔ……ぅあ゙…」
「手前は云ったな?自分の生きる理由が見つからないと、なら俺の生きる理由を教えてやる」
中也は囁くような声で、けれどよく響く声で云った。
「何時か…………俺って云う存在を愛せる其の時まで、俺は俺を生かす」
中也の生きる理由。
ははっ……初めて聞いたなぁ、そんな事。
「あ゙、っ……ゔ…………」
意識が飛びそうな中、私は瞼を少し開く。
中也が、拳を振りかぶった。
──────バキッ!!
何かの折れる音が響いた。
私の骨ではない。横に視線を移した。
中也の拳はベットを貫いて、中の金具を折っていた。
私の首を掴む中也の手が緩む。
「げほ……っ…中也、?」
中也は私の首から手を離し、躰の上でうずくまった。
「手前にとって自分の生きる理由が見つからなくても…………」
中也は絞り出したような声で云う。
「俺には────太宰治って云う存在が生きる理由があるンだよ……」
「________…」目を丸くする。
この時、私は理解した。
私が中也を必要としているように、中也も私を必要としているのだ。
互いの虚無感を、埋める為に。
──────何時か噛み殺してやる。
ははっ…全くの矛盾じゃあないか。
中也は顔を上げ、真剣な表情で云った。
「全部、吐き出せ」
瞳の奥から何かが溢れ出し、視界がぼやけた。
「っ………」
本当に大嫌い。
中也は何も云わなかった。何もしなかった。
只、私の傍に居てくれた。
私を囲む薄暗い空間。一言で表せば「孤独」。
中也は、その外界から靴を脱いで入ってきた。
“泣き続ける子供”も髪を、中也は優しく撫で、手を掴む。
そして────
「孤独」から外界へと、私を連れ出した。
***
数カ月後。
ポートマフィアに一通の封筒が届いた。
宛先人は五大幹部の一人、中原中也からだった。
封筒の中身は──────
ポートマフィア幹部・森鴎外が、窓硝子から見える街の景色を眺めながら云う。
「金剛石は金剛石でしか磨けない、か───」
その手には携帯が握られていた。
『……………』
「少し、磨き過ぎたかもしれないね」
『…………え…否、何云ってんの?』
電話相手の乱歩は、真剣な声色で聞くり
「なぁに、此方の独り言だよ」
「ふぅん……あ、そうだ」
『知ってると思うけど、僕の本職は名探偵だ。若し“依頼”するなら、素敵帽子君の事見つけてあげても佳いよ』
「交渉という訳かね」
『佳く判ってるじゃん、流石ポートマフィア首領』
「…………」
『それで、するの?しないの?今ならラムネ一本と駄菓子二個くらいに────』
「依頼はしない」
『……は?』
『否、何で?素敵帽子君の事諦めるって云うの?』
「そうだよ。依頼もしないし探しもしない」
『なっ………其れは貴方の単独決断じゃ───』
「此れが最適解だ」
『…ッ!』
「逆に聞くけど、何故自分の意思ではなく、態々依頼として探そうとするのだね?名探偵殿」
『…………………………だって』
「うん?」
『だって最近の皆!太宰の心配ばかりして詰まらないんだもん!!』
電話相手の乱歩は腕を振りながら答える。
「____…」思わず目を丸くした。
『太宰さん太宰さんって、もういい加減飽きたの!そろそろ僕の事褒めてよ!!頑張って事件解決してるのに…!社長までしてくれないんだよ!(何時もだけど)』
「成程……其れが君の理由かい」
微笑しながら聞く。
『…………あとは、皆のしらけた顔見るの厭になってきたし…』
「仲間思いじゃあないか」
『っ!煩いなぁ!あと一言余計…!』
『それで!結局如何するの?!』
「変わらないよ、依頼もしない。探しもしない」
乱歩に沈黙が生じる。
『────そっか。まぁ、何となくこうはなるかなって、思ってたけど』
「彼の名探偵が賭け事なんてねぇ。これは驚いた」
『口先は何でも云えるよね』
冷ややかな声で乱歩は云った。
「事実だよ」
『…………………………はあああぁぁ』
「そうデカデカと溜め息をつかれると、此方も返答に困ってしまうのだけれど……」
『別に、用は済んだしもう切r──乱歩、私の携帯で何をしている?わあぁ!社長っ…!』
携帯から武装探偵社社長───福沢諭吉の声がする。
「…………」
『ぁ、此れは………。誰と話している?誰とも話してないよ!只、社長の携帯の着信音を猫の鳴き声に変えてただけ────ピッ
私は釦を押し、通話を切った。
「……ふぅ」
携帯を側の机の上に置く。肘を付き、手を組む。溜め息混じりの息を吐き、そしてもう一度呟いた。
「矢張り、磨き過ぎたかなぁ……」
今朝、ポートマフィアに一通の封筒が届いた。
宛先人は中原中也。
中身は辞職届、そして、上司から部下一人ひとり迄の手紙が入れられていた。
中也も辞職し、幹部席が二席も空く。
一度、五大幹部会を────否、やめよう。
ゆっくりと瞼を閉じた。
中原中也と云う背中は大きかったからねぇ、太宰君の空席が有耶無耶になる程の功績を彼は出し続けていた。
ふふ、愉快な連中がちょっかいを出してきそうだよ。まぁ、紅葉君に斬滅してもらうけど。
少し重くなった瞼を開ける。
目の前には、七年前の光景が広がった。
『ならばこの血潮、全て御身の為に捧げます、首領』
『貴方が奴隷となって支えるこの組織を守り、貴方の奴隷となって敵を砕く。そして敵に思い知らせましょう────』
「…………」
私は、暫く空中に視線を漂わせていた。
『リンタロウ!』
エリスちゃんが、明るい表情で声をかけてきた。
『チュウヤは?来ないの!?』
「うーん……だって辞職届きちゃったし………」
『いやよ!私チュウヤと今度遊園地行こうと思ってたのに!』ぎゃあぎゃあと私に向かって声を上げる。
「えっ…私何も聞いてないのだけど、連れてってくれるよね、エリスちゃ〜ん!」
『リンタロウ気持ち悪い…』
***
『それで?チュウヤは本当に戻って来ないの?』
「____…うん」
『………そう』
『……仕方ないから、今度の日曜日にリンタロウと一緒に遊園地行くわ』
「いいのかい、エリスちゃん!」
『チュウヤの代わりよ!でも甘いもの沢山買うのよ!約束よ!』
「勿論だよ、いや〜週末が楽しみだなぁ〜!」
『矢っ張り行くの止めようかしら……』
「連れない事云わないでよう!あ、そうだ。この前エリスちゃんに似合いそうなドレスを買ってきたのだよ。着てくれないかい?ね、一瞬だけでいいから!」
『しょうがないわね!』
「わぁ〜い、有難うエリスちゃん!」
『ふふんっ』
『如何?リンタロウ、結構可愛────』
エリスは言葉を途切らせた。
何故なら、何時もなら「似合ってるよ〜」等と云ってくる森が、重みのある表情で静かに窓の外を眺めていたからだ。
「……………」
『……』
一瞬、エリスまで黙り込む。
『───ねぇリンタロウ!リンタロウってば!』
「、!嗚呼、済まないエリスちゃん」森はエリスに気付いた途端、先程までの雰囲気を紛らわすかのように、話を変える。「あ!よく似合ってる!じゃあ次は此方を………」
『リンタロウ』
「なぁに?エリスちゃん」
エリスが俯きながらドレスの布を握り締める。
『………………チュウヤと太宰、心配?』
「…いや、別に?只、太宰君だけじゃなく中也君まで抜けてしまうとなると────」
『詰まらない』森が云おうとした言葉を、エリスは云った。
「…………エリスちゃん?」
森は目を丸くしながらエリスを見る。
その目はまるで、初めてオーロラを眺めたような────驚きつつも、秀麗で異端なその存在に感動するような目だった。
『詰まらなくなる……私も、チュウヤに戻って来てほしい』
「………………」
森はエリスを啞然と見つめた後、床に視線を落とし、そしてもう一度顔を上げた。
「……ご免よう、エリスちゃん。其れだけは……私も叶えられそうにない」
『____…』
再びエリスが黙り込む。エリスの瞳の奥から何かが込み上げ、そして堪えるようにソレを飲み込んだ。
エリスは感情を持たない。
何故なら“人間”ではなく“異能生命体”だから。
持っていたとしても、ソレは森が「設定」したものである。然しこの時、エリスは全く真逆の発言をした。
エリスは“人間”ではない。然し“異能”だ。ならばエリスの言動は『或る説』を確かにするものだった。
【────異能には意志があり、主とは別の人格を持っている。】
キュッと、エリスが固く唇を閉じる。
そして元に戻し、息を吸った。
『いちご』
声が震えていた。
然しエリスの謎の発言に、思わず森は「ん?」と声をもらす。
『私今、物凄くクレープが食べたいわ!リンタロウ買って来てっ!』
何時も通りの────森が設定した“ワガママ”が森を襲う。
「えぇ、でも私此れから仕事が………」
『いやよ!私は今すぐ!!苺クレープが食べたいのーっ!!!』
ポートマフィア最上階の首領執務室に、少女の声が響いた。
***
海の波打ち際。砂浜の上を、私は裸足で立っていた。
潮風が頬をなぞる。
「太宰!」
後ろから中也の声がした。視線を移す。
中也の背後には一軒の家があった。柔らかい色で装飾されたその家は、何処か可愛らしさも感じられる。
その家は私と中也が買った家でもあり、現に同居している私達の“家”でもあった。
[海が見える処]と云う私の要望に、中也は確りと応えてくれた。
「手前が書いた本、最後まで読んだぞ」声を張りながら歩いてくる中也の手には、一冊の本が握られていた。
「如何だった?」
「ん、、あー……まぁ、人間っていうか、否、何方かと云えば…………」
空中に視線を迷わせながら、中也は言葉をとぎらせる。
私は、静かに中也を見ていた。
「……………いやぁ、矢っ張り何でもねェ」
そう云って、中也は私に本を差し出す。
「売り出してみたら如何だ?多少は金になるンじゃねェの?」
「そうだねぇら一寸考えとくよ」
中也から本を受け取る。
すると潮風が躰に当たり、肌に寒さと云う刺激を与えた。
「っ………」
小さく躰が震える。
中也はそれに気付き、「疾く中に這入るぞ、風邪引いちまう」と云って、くるっと後ろを向いて歩き出す。
「______…」
私は中也の腕を引っ張り、後ろから優しく抱きしめた。
中也の赫色の髪が、肌をくすぐらせる。
「だざ────「中也」
私は中也の言葉を遮るように、耳元で囁く。
「…………」少し強く、力を込めて抱きしめた。
中也の体温が、襯衣を通して肌に伝わった。
「中也は温かいね」
首元に顔をうずくめる。
「苦しいほどに温かい」
「………………」
温かい中也の手が、私の腕に触れた。
「……手前もそうだろ」
囁くように云った中也は、抱きしめる私の腕に少し顔をうずくめる。
まるで互いの温もりを分かち合っているようだった。
「ねぇ中也、本当に君は“この選択”で佳かったの?」
私は声を絞り出す。
自分でも判る程、その声は何処か弱々しく、少し突付くだけで儚く消えてしまいそうな程震えていた。
中也は黙った。
若しかしたら私は、この時中也に“あの選択”を否定して欲しかったのかもしれない。
こんな事をしたって何時かは“破滅”に辿り着く。
此れは只の“幸せの延長線”だ、って云って欲しかったのかもしれない。
だのに君は──────
「嗚呼、俺は“あの選択”を間違ったなんて思った事はねェ……」
【本当に、私も中也も莫迦だ。】
「……………」
判っていた。
君ならそう答えると。
そう答えてくれると。
ちゃんと私の頭脳は予測していた。
それでも。
「そっか……」
それでも私は──────嬉しかったんだ。
私は満面の笑みを浮かべる。
それを見た中也も、幸せそうに微笑んだ。
「そうだ太宰、今日の晩飯何が佳い?」
「咖哩!」
弾む足取りで前に進みながら云う。
「ルー切らしてるわ」
歩きながら中也が後ろから声を張る。
「じゃあ、肉じゃが!ていうか中也の料理全部“美味しい”から、何でも佳いよ」
中也の方に振り返って、私は云った。
「りょーかい…」
砂浜を歩いていく。
すると、再び中也が私に声をかけた。
「もう一つ聞きたかったンだが、本に出てた『修治』ってのは手前が考えたのか?」
予想外の言葉に思わず目を丸くし、その場に立ち止まる。
そして少し考えた。
「…………違うよ。そもそも“あの本”の根本は三冊のノートに綴られた手記と、三葉の写真から成り立っている」
私は考え込むように口唇に親指を添える。「でもそうだねぇ……判りやすく“はしがき”と“あとがき”を付けてみようかな?」
ぶつぶつと呟いていると、中也は私を越しながら云った。
「じゃあ手前は、その手記を書いた奴と知り合いなンだな?」
「______…」唇から手を離し、後ろで手を組む。
「いや、?」
その言葉に、中也が振り返る。私は微笑みながら云った。
夕日が逆光を作る。
【この手記を書き綴った狂人を、私は直接には知らない。】
─────この“酸化する世界の夢”よりかは、少しはマシな気がするから。
─────あの“夢”は、私を光の側まで運び上げ、そして、奥底の暗闇に突き墜とした。
─────私が、皆を信頼できるような人間じゃないからだ。
─────何故ならコレは、自分への戒めなのだから。
─────この虚無感を埋めてくれる君を、私はまだ信頼している。
─────私はもう、信頼というのが判らなくなった。
─────この地獄のような部屋と、何も無い世界。果たして何方の方が悲惨か。或いは何方の方が幸せか。
─────苦しいほどの温かさを私に。
─────本当に、私も中也も莫迦だ。
──────この手記を書き綴った狂人を、私は直接には知らない。
***
カサっと、紙の乾いた音が響く。
「…………」
肌が硬くなったかのように、一定の表情から変える事ができなくなっていた。
喉が渇き、唇が乾燥している。涙が涸れた事のみ判った。
『手紙』には、文字が書かれていた。
勿論自分に宛てられた物であって、書かれた文字は少し小綺麗な太宰の字であった。
視線を、文字の一文字目に移す。
───中也。
知ってると思うけど、私はあまり人に手紙を書かない。
まぁ便利な世の中になったって理由もあるけどね。
だけど、こうやって誰かに手紙を書いていくと、変な感じだ。
まるで、現実と切り離されているような、そんな感じ。
お子様の中也には判らないかな?
「ははっ…うっせェ……」
一々莫迦にしてくるのも、太宰らしいと思った。
そう思い吐いた言葉は弱々しく、何処か哀愁を漂わせていた。
俺は、胸に酷い虚無感を感じていた。
君には感謝してるし、云いたい事も沢山ある。
けれどソレを自分の口では無く、こうして手紙で伝える形になってしまったのは、申し訳ないと思う。
私はこの家に住み始めてから、あの“酸化する世界”から全てを切り離されているようなんだ。
元々、私は皆と離れていた。
同じ世界に住んでいたとしても、何かが私を囲って皆から離していたんだ。
ソレを一言で表せば、『孤独』と云うものに当て嵌まるだろう。
誰も────織田作や安吾さえもら私を取り囲む『孤独』に這入って来なかった。
だけど、君だけは這入って来てくれた。
来なかった事が悪い訳じゃあない。
織田作も安吾も、私の『孤独』を理解して、“友人”として傍に立ってくれた。
それだけでも私は充分だったのだよ。中也。
土足ではなく、靴を脱いで這入って来てくれた事には、少し感謝してる。
ありがとう。
「………」
俺は静かに瞼を閉じる。
『───ありがとう、中也』
ノイズ混じりのその声は、映像と共に俺の脳内に溢れ出たり
ぶつんっと映像が切れる。
『人間失格』。
正に私は、その通りだろうね。
けれど、そんな私の傍に居てくれた君は、
きっと誰よりも“人間”だろう。
自然と紙を持つ指に力を入れていた事に、俺は、紙のシワ寄れる音が耳に響いてから気付いた。
「っ、……んで…」
君には、感謝しても仕切れない。
君は私に“信頼”と云うものが何なのか、もう一度教えてくれた。
“愛”の温かさを教えてくれた。
“空腹”と云う感覚を教えてくれた。
“美味しい”と云う言葉の意味を教えてくれた。
“幸せ”を与えてくれた。
共に生きる事の“意味”を教えてくれた。
“居場所”を作ってくれた。
“大切な存在”になってくれた。
君は────私に“全て”を与えてくれた。
「──っ、あ……ぅ゙…………く、っ…」
俺は何かを堪えるように、襯衣の胸元を握った。
手紙の上に水滴が落ちる。紙に滲み広がった。
心の底の感情は堪えられても、瞳から溢れ出るソレは、止めようがなかった。
──────ガタンッ!
椅子から崩れ落ちるように床に座り込む。
目の前のベットまで躰を引きずるように移動して行き、肌心地の佳いシーツを、シワができる程握りしめた。
シーツにまで、ソレが───涙が滲んだ。
「ゔ、ぁ゙……太…、宰…っ………」
ベットの上には────もう二度と目を覚ます事の無い、深い眠りについた太宰がいた。