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こちらの茨さん🖌️
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山に誰を招待するか、それを決めるために、シトリンは意見を求めに回る事にした。
まずは、いつでも側に居る侍従のロシュフォールだ。
「町民、町民の中でも温泉水の効能をいたく気に入っている者がよろしいでしょう。人の欲というものは、時に恐怖心をも凌駕いたします」
ロシュフォールの出す案は、堅物らしく実に堅実である。
時に暴走しがちなシトリンの従者としては、実に適任の男である。
「いい案だとは思うけど、具体的には誰がいいかしら?」
連れて行く人物のピックアップが大切なのは分かった、ならばそれは誰か? その具体的が聞きたくて質問したのだが、ロシュフォールの答えは振るわない物だった。
「それを調べるためには、少々お時間を頂かなくてはなりません」
ロシュフォールは立場上、いい加減な事は言えない。だから時間を貰って、誰が適任か調査をしようと申し出たのだが、シトリンはそれを制した。
「調べてくれるのはありがたいけど、すぐにでも事を進めたいの。具体的に誰にしたらいいか、知っていそうなのは誰かしら?」
「ふーむ、でしたら、荷運びの男衆を指揮しているディデル騎士団長に伺ってみてはいかがでしょう」
ディデルは、口髭と厳しい顔立ちが印象的な、騎士団長である。
シトリンがはじめて、あの火山、グレンヴァル山に登った日、護衛として帯同した男だ。
騎士の勤めがあるので、最近は山に登っていないが、荷運びの衆が逃げ出さず働いているのは、彼の威厳のおかげである。
********
「____と、言うわけなんだけど」
「ふーむ、山と竜への恐怖心を無くすために、平々凡々な者を山に送る。そして、それを誰にするか具体的に決められないから、知恵を貸してほしいと、そういうわけでございますな」
「話が早くて助かるわ」
ディデルは、軍人なだけあって、話を飲み込むのが早い。状況判断が遅いようでは、軍を指揮するという大役は果たせない。
「ええ、荷運びの衆を指揮しているのなら、彼らの交友関係なんかもご存知なんじゃないかと思って」
シトリンが聞くと、ディデルは顎を撫でながら、しばし考えた後、シトリンに提案した。
「それは私に聞くより、男衆に直接聞いたほうがいいでしょう。彼らは仕事の後、盛り場に繰り出し遊興をしているはずです。王家よりの仕事で懐が潤っているはずですからね」
「それが、どうしたのかしら?」
シトリンは、首を傾げて尋ねた。男衆の懐具合と、今回の件にどんな関係があるのか。さっぱり理解出来ない。
「遊興の巷に繰り出せば、市井の噂は何くれとなく聞こえてくるでしょう。王家の方々や、我々宮仕えの者より、よほど有益な情報を持っているはずです」
「なるほどね」
あのような手合は、金が入ったらその日のうちに使ってしまう。堪え性の無い男達だからこそ、地位は低く、給料も安く、シトリンが引き出した予算でも雇えた訳だ。
そして金遣いが荒い分だけ、色々な場所に出向くに違いない。
酒場、賭場、娼館。人間の煩悩が集まる場所には、人間の本音が飛び交うものだ。
それらに入り浸っているのなら、自然と色々な情報を集めているのだろう。
「男衆には、私から声をかけて呼んでおきます。それで宜しいでしょうか?」
「ええ、お願いね」
シトリンは、笑顔を浮かべて了承した。