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マネージャーから今度こういう記事が出ますと伝えられたのはついさっき。
『恋愛ぐらい自由にさせて欲しいよなー。』 そう言って、ぼくは詳しい内容は聞きはしなかった。
これは本音ではあったけど、本当の理由は別にある。
片想いの相手の熱愛報道。
そんなの誰が好き好んで聞きたいと言うのか。
別にどこぞのアイドルでもあるまいし、恋愛を禁止している訳ではないのだから、熱愛報道が出ようが知った事ではないが、それが片想いの相手だと話は変わり、 きっと、彼のファンの子達は心中穏やかではないと思うけど、誰よりもぼくの心が1番荒れている自信がある。
彼が居るスタジオの扉を開けると、気まずそうな顔をしてギターを持っている彼と、1番最初に目が合った。
きっと、ここでさっきマネージャーに言った言葉を彼に掛けてあげるべきなのだろうけど、まだまだ大人になんかなりきれないぼくは、無言で踵を返し、扉を閉めた。
特に行く宛てもなく、とりあえず真っ直ぐ廊下を歩き1番端まで辿り着くと、滅多に開けることのない外へと繋がる非常口の扉を開けて外に出た。
これで太陽でも拝む事が出来たのなら、この荒れた気持ちも少しは中和されたのだろうけど、生憎天気は曇天模様。
まるでぼくの心を反映したような天気に、思わず鼻で笑ってしまった。
転落防止の柵にもたれかかり、灰色の空を見上げる。
「〜〜♪」
気付いたら鼻歌を歌っていて、その曲のチョイスに今度は乾いた笑いが出た。
「ははっ…ほんと、クズ野郎だなー。」
好きな人の他人との幸せなんて喜べる訳ないだろ。
そう心の中で悪態をついた瞬間、突風が吹き、ぼくの髪をグシャグシャにしていった。
「ほんと、恋愛ぐらい自由にしたいよ…」
とことんぼくの心を反映した天気にぼくはもうどうやっても笑う事は出来ずに、乱れた髪もそのままにもう1度灰色の空を見上げた。
「次は雨かな。」
そう呟いた瞬間、目の前の扉が開き、心配そうな顔をした涼ちゃんが顔を出した。
「…元貴、大丈夫?」
「…大丈夫じゃないかも。」
真顔でそう返すぼくに、困った顔をする涼ちゃん。
あー、良かった… まだ雨が降ってなくて。
もし降ってたらさらに涼ちゃんを困らせるところだった。
「髪の毛が。」
「え…?あっ、髪?か、髪か!…確かに、すごい事になってるね。」
ありがとう、涼ちゃん。
でも、ぼくはまだ大丈夫だからさ。
ほら、その証拠に雨だってまだ降ってないし。
だから、きっとまだ大丈夫。
「なんでこんなボサボサになってるの〜?」
そう言いながら不器用な手つきでぼくの髪を直す涼ちゃんに、ぼくは自然と笑みが溢れた。
うん、大丈夫だ。
「ありがと、涼ちゃん。」
「ごめん、全然直ってないかも。」
「あははっ、うん、もう大丈夫。」
また、笑えるようになったぼくは、最後にもう一度空を見上げてみる。
風は止み、灰色の雲の隙間から少しだけ光が差していた。
-fin-