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四月二十一日……朝七時……。
巨大な亀型モンスターの甲羅の中心と合体しているアパートの二階にあるナオトの部屋では……。
「ねえ、ナオト。みんなに話って何?」
ミノリ(吸血鬼)はナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)の顔を見ながら、そう言った。
すると、彼は咳払《せきばら》いをした後《のち》、こう答えた。
「えー、突然だが、今日は『個別面談』をしようと思う。だから、俺に名前を呼ばれたら速《すみ》やかに隣の部屋まで来てくれ……以上!!」
ナオトはそう言うと、お茶の間から寝室へと移動した。
かなり大きなちゃぶ台の周りに座っている者《もの》たちは議論の末《すえ》、彼の言うことを聞くことにした。
「……ミノリー、最初はお前からだー!」
ミノリは彼の声が聞こえた瞬間、ニコニコ笑い始めた。
「まあ、あたしが最初に呼ばれるのは当然よね。それじゃあ、いってきまーす!」
ミノリ(吸血鬼)はいつになく嬉しそうな顔をしながら、スキップで寝室へと向かった。
「……さてと。それじゃあ、とりあえず……。自己紹介をしてくれ」
彼がそう言うと、ミノリは疑問符を浮かべた。
「ちょ、ちょっと待って。あんた、もしかして記憶が」
「早とちりするな。俺はただ、お前のことを改めて知っておきたいと思っただけだ」
「そ、そうなの?」
「ああ、そうだ。それにお前には色々と訊《き》きたいことがあるからな……」
「ん? なんか言った?」
「いや、なんでもない。それじゃあ、自己紹介してくれ」
「……分かったわ」
彼女はそう言うと、ゆっくりと聞き取りやすい声でこう言った。
「あたしは吸血鬼型モンスターチルドレン|製造番号《ナンバー》 一の『ミノリ』よ。『強欲《ごうよく》の姫君』の力を宿していたけれど、あんたの鎖に封印されてるから今は使えないわ。チャームポイントは黒と赤が混ざったリボンでツインテールにしているこの長くて美しい黒髪とメイド服&ゴスロリの要素を兼ね備えたこの黒い服と暗闇の中でも見通せる黒い瞳よ! それから……」
「いや、もういい。どうせ自分の固有魔法・固有武装・固有スキルのすごいところなんかを言うつもりなんだろ?」
「うっ……! さ、流石《さすが》ね、ナオト。その通りよ」
「いや、今のは話の流れ的に分かるから、別にすごくはないよ。さて、本題はここからだ。なあ、ミノリ」
「なあに?」
「お前はいったい……何者なんだ?」
「え、えーっと、それはどういう意味?」
「そのままの意味だ。俺は本当のお前のことを知りたい。ただ、それだけだ」
その時、ミノリ(吸血鬼)の顔が真っ赤になった。
「バ、バ、バ……バカ! そういうことは昨日の夜に言いなさいよ! あたしはその……まだ色々と準備できてないんだから……」
「はぁ? お前、何か勘違いしてないか? 俺はお前の今までの行動から、お前がただのモンスターチルドレンじゃないってことが分かったから、それ以上のことを直接お前に訊《き》きたいだけだ」
「え? そうなの? じゃあ、さっきのはセ○クスのお誘いじゃないの?」
「お前な……。俺と身長がほぼ一緒なんだから、そういうことをサラッと言うなよ」
「えー、別にいいじゃない。あたしはあんたにしか、そういうこと言わないんだから……」
「できれば、俺にもそういうことは言わないでほしいのだが。あー、まあ、お前がそんなやつじゃないってことは知ってるから、もう勝手にしてくれ」
「そう……。じゃあ、これからもぐいぐい行くから、よろしくね?」
「はぁ……まったく……勘弁してくれよ」
彼が頭を抱《かか》えていると、彼女はこう言った。
「ところであたしに訊《き》きたいことがあるんじゃないの?」
「あー、そうだったな。話が脱線したせいで、すっかり忘れてたよ。コホン……。では、改めまして。なあ、ミノリ。お前ってさ……俺の敵なのか? それとも味方なのか?」
「うーん、まあ、今はあんたの味方……とだけ言っておきましょう。これ以上のことは言えないわ」
「そうか……。なら、お前は俺の何を知っているんだ? それとお前の本当の目的は何なんだ?」
「そんなのもう分かってるクセに……」
「いいから答えろ!」
「……はぁ……まあ、分からないなら、説明してあげてもいいわよ」
「ああ、ぜひとも説明してほしいね」
「そう……。じゃあ、話すわよ。実はあたしは……」
「分かってると思うが、あたしはもう一人のあんたよ……みたいなバカげたことは言うなよ?」
「あははははは……バレた?」
「バレバレだ。というか、今までのお前の会話の内容自体、全部|嘘《うそ》なんだろ?」
「あら、あんたにしてはやるじゃない。成長したわね」
「まあな……。それで? 最近どうなんだ?」
「うーんと……特に何もないけど、あえて言うなら」
「あえて言うなら?」
「大きい方のあんたに抱きしめてもらいたい……かしらね」
「そうだな……。俺も元に戻ろうと色々頑張ってはいるんだが、これがなかなかうまくいかなくてな……」
「そうよね……。強大な力を扱うにはそれ相応の対価が必要だもんね」
「けど、俺はまだいい方だ。体の方はほとんど人じゃないが、心の方は何の問題もないんだから」
「そうね……。いつかあんたを元の姿に戻してあげたいけど、かなり時間がかかりそうなの。だから、それまで待っててくれる?」
「……ありがとう、ミノリ。お前は本当に優しいな」
「そんなの当然でしょ。家族なんだから」
「いや、あくまでも家族(仮)だから、そこまで断言されると……」
「何? あんたはこんな美少女……いや美幼女に心配されているのに嬉しくないの?」
ジト目で彼のことを見つめるミノリ。
彼がゆっくりと彼女から目を逸《そ》らすと、彼女は自分の右の掌《てのひら》の親指の先端を噛んで、少しだけ血を出すと、それを『銃《じゅう》』の形にして、彼の額に銃口を向けた。
「まずは手を挙《あ》げなさい。話はそれからよ」
「……はぁ……分かったよ。言う通りにするから、そんな怖い顔しないでく……」
その時、ミノリ(吸血鬼)は血液製の『銃弾』を天井に向けて放った。
「……ねえ、今自分が置かれてる状況分かってる? あんたはあたしに殺されかけているのよ?」
「いや、それは違うな」
「へえ、その根拠は?」
「だって……俺を殺す気なら、最初から俺を殺してるはずだろ?」
「……前々から気になってたけど、あんたはどうしてそんなに冷静でいられるの?」
「冷静なんかじゃないよ。俺はただ、お前らとはくぐってきた修羅場の数が違うだけだ」
「……あっ、そう。なら、ここで死になさ……」
その時、彼は彼女の前からいなくなった。
「なっ……! い、いったいどこに!」
彼女が辺りを見回していると、彼女の背後から声が聞こえた。
「こっちだよー」
「……くっ!」
彼女が振り向くと、そこには彼の姿はなかった。
しかし、その直後、彼女は彼に後ろから抱きしめられた。
「なあ、ミノリ。どうして今日はそんなにピリピリしてるんだ? 俺、お前に何かおかしなことしたか?」
「……う、ううん、別にそんなことはないわ」
「なら、どうしてだ? お前が俺に銃口を向けたことなんて一度も……」
「あんたが悪いのよ……」
「え?」
「あんたがあたしに手を出してこないから、あたしはこんなに苦しんでるのよ」
「ほう、そうか、そうか。なら、遠慮なく話してくれ。お前を救うことができるかどうかは分からないが、話くらいは聞いてやるよ」
「そうやって、いつもあたしに……ううん、みんなに優しくしてくれるわよね、あんたは」
「そりゃあ、家族だからな」
「家族……か。あたしね、昔のことはよく覚えてないんだけど、あんたの資料を見た時にね、胸が熱くなったのよ。今まで感じたことのないような感覚に体を乗っ取られて、体を引き裂かれそうになったわ。けど、あたしはその時、それが何なんのかを理解したわ。そうか……これが『恋』なんだって」
「相手は十八歳年上だぞ?」
「そんなの分かってるわよ! けど、この感情をもう制御できそうにないの……。だから、お願い……。あたしを……ナオトの……ナオトだけのものにして」
「……ミノリ……ごめんな……。残念だが、それはできない。……けど、お前の体に俺のものだって印をつけることはできる」
「じゃあ、今すぐつけてよ。あたしのことが好きなら、それくらいやってよ!」
「……おいおい、無茶言うなよ。お前にはこの音が聞こえないのか?」
「音……って、どんな音?」
「……それはな、俺の心臓の音だ」
「ナオトの……心臓の……音……?」
「ああ、そうだ。どうだ? 聞いてみるか?」
「う、うん。す、少しだけなら……」
「よし、分かった。じゃあ、こっちを向いてくれ」
「うん」
ミノリ(吸血鬼)はそう言うと、彼の心臓の音を聞くために彼の胸骨付近に耳を当てた。
「……どうだ? 聞こえるか?」
「う、うん……トクン、トクン……って、可愛い音がするわ」
「そうか、そうか。トクン、トクンか」
「うん」
「なるほど、なるほど。じゃあ、落ち着くまでこうしていようかな」
「うん、お願い……」
彼は彼女がストレスのせいでピリピリしていることを知っていた。
そのため、彼女を落ち着かせるためにそんなことをしたのである……。
「……えーっと、次はマナミだな。ミノリ、呼んできてくれないか?」
「ええ、いいわよ。あっ、ちょっと待って」
ミノリ(吸血鬼)はそう言うと、彼の額《ひたい》に優しくキスをした。
「えっと、今のはいったい……」
「昨日、銀髪天使のこと助けてくれたでしょ? だから、そのお礼よ」
「いや、あれは|銀髪天使《コユリ》が暴れてたからであって、別に助けたわけじゃ……」
「でも、あんたは銀髪天使を傷つけることなく『大罪の力』を封印してくれたわよね?」
「そ、それはまあ、そうだが……」
「いいからありがたく受け取っておきなさい。いいわね?」
「わ、分かった。え、えーっと、その……あ、ありがとう」
「はい、よくできました」
ミノリ(吸血鬼)はそう言うと、マナミを呼びに行った。